長文集  11月1週  ○粗大ゴミのゴミ捨て場へ行くと(感)  nu2-11-1
    毎日1ページ音読しましょう。漢字はふりがなをつけずに読めるようにしておきましょう。  2010/08/06 19:07:47
 【1】粗大ゴミのゴミ捨て場へ行くと、ま
だまだ使えるものがいっぱい捨ててある。そ
れは環境を汚染するわけです。そんなことな
らばもうちょっと高くても品質のいいものを
買って、おじいさんから孫まで生活の思い出
の残るものをずっと伝えていけば家具なども
捨てなくていい。【2】そうすればゴミ捨て
場もそれだけよけいな負担を背負わずにすむ
わけです。けれども、日本人は使っては捨 
て、使っては捨てという生活に疑問を持って
いません。
 【3】何年も寸法ひとつ狂わずに、引き出
しも扉もピッタリとしている家具への愛着は
、毎日の暮らし、人生、自分の世界をつくっ
ていたものへの愛でもあり、そういう年月に
耐えるものをつくった人の腕前に対する尊敬
でもあるわけです。
 【4】たとえば何代も読みつがれる名作と
いわれる文学作品は、アブク(あわ)のよう
に消えるいわゆる「よみもの」よりも多くの
人に長く愛され、尊敬されているでしょう。
いつまでも本棚に置いておきたいと思うでし
ょう。【5】そこから得たものは、それぞれ
の人格の中に深くはいりこんで、読者の人間
を豊かにしたでしょ う。すぐに忘れ去る一
過性のよみものとは、違うものだと思いま 
す。それはモノに対しても同じであるはずな
んです。
 【6】一方で使い捨ての安物を買っている
と思えば、他方では五万円もするような化粧
品のクリームも売れている。その原価は五分
の一以下と言われているのに、独占によるチ
ェーンストアヘの支配が強くて、ほんとうの
市場価格まで下がりません。【7】公正取引
委員会が外圧(外部の力)によって、やっと
重い腰を上げ、最近、一、二の小売店で値崩
れを起こしています。私たちは幻に対してお
カネを払っていたのです。
 家の中には、誰も弾かないピアノやオルガ
ンもあれば、テレビもあります。【8】ビデ
オデッキも、CDプレイヤーもあります。地
震があれば押しつぶされるのはあたりまえだ
というくらい、いろいろな∵ものが置いてあ
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る。ほんとうの安全には手抜きをした家の中
に、そして安全を手抜きした町づくりの中に
、変なぜいたくがあるのです。こういう豊か
さはおかしいのではないかとおもいます。
 【9】では、ほんとうの豊かさ、なんとな
く豊かな気持ちで毎日が送れる時とはどうい
うときかと考えてみますと、『パパラギ』と
いう本をお読みになった方がいらっしゃるか
どうかわかりません が、南のある島の酋長
が書いた本です。【0】その中で、こういう
ことを言っている。人間というのは頭だけで
生きているのではな い。足だけで生きてい
るのでもないし、手だけで生きているわけで
もない。心もあるし、身体もあるし、頭もあ
る。頭も手も心で感じることも、目も耳も全
部が同時に満足することが必要だ。ひとつに
統一された満足感が必要だ。そういう生活が
、人間として幸せで豊かな生活なんだと言っ
ている。
 頭だけあるいは手だけを酷使して、ほかの
ところを顧みないと、人間は必ず病気になり
、健康な心と身体を失う、と言っています。
つまり人間は、全体で生きていて、全体を働
かせ、全体を楽しま せ、全体がひとつにな
って幸せになることが豊かなのだと言ってい
るのです。一部分だけが満足している状態は
、病気だと言っているのです。
 同じことは教育の中にもあります。教育は
全人格的発展、人間としての成長を促すもの
ですが、現在、日本の教育は偏差値の点をと
る教育になっています。だから人間の子とし
て楽しくないのです。
 また、日本は労働時間が非常に長い。残業
をすれば手当てももらえます。お金だけ、あ
るいは企業の中で出世することだけを考えれ
ば、頭と職業に必要な手、目だけを働かせて
「職業バカ」になることもできる。それが日
本では大変いいことだと考えられている。あ
の人は会社のために妻も子も忘れ、一身を捧
げて、ただただ会社のために尽くしてきた。
企業にとってはいい社員であるのですが、そ
ういうのは豊かではないと『パパラギ』は言
っている。
 つまり、会社人間はある専門的なことにつ
いてはベテランになっ∵ていくし、お金も儲
けるかもしれません。しかし、もしその人が
学校を出てからまともな本を一冊も読んでい
ない。自分の仕事にかかわるものは読んでい
るかもしれないが、人間の土台になる教養と
いうものは、何も身につけていない。会社で
働くだけで、それこそ図書館にも行かないし
、山登りもしないし、音楽会にも行かない 
し、地域社会のために何かをするということ
もしない。ただ会社で働くだけ。だとしたら
、まったく豊かではありません。それは人間
としての生活ではないからです。

(暉峻淑子(てるおかいつこ)「ほんとうの
豊かさとは」より)