長文集  10月1週  ○英語の「コンピュータ」を(感)  nu2-10-1
    毎日1ページ音読しましょう。漢字はふりがなをつけずに読めるようにしておきましょう。  2010/08/06 19:06:10
 【1】英語の「コンピュータ」を無理矢理
日本語にすると、「電子計算機」ということ
になるだろう。しかし今どき「コンピュー 
タ」で単純な計算だけしている人はあまり居
ない。「コンピュー タ」とは、計算はもち
ろんのこと、さまざまな情報を入れたり出し
たり保存したり整理したりするものだ。【2
】フランス語の造語である「ordinat
eur(オーディナトゥール)」とは、英語
の「orderオーダー」と同じく、「命令
、指図する」とか「順序、順番」「整理、整
頓」「注文」といったような意味合いにな 
る。【3】これこそ「コンピュータ」を意味
する言葉として最適ではないか。その証拠に
スペインでも英語の「コンピュータ」という
単語は使わず、フランスの「オーディナトゥ
ール」に似た綴りの「ordenador(
オルデナドール)」という単語を使ってい 
る。
 【4】このように、現代の日本でも、英語
をそのまま安易にカタカナ語にして使用する
のではなく、ちゃんと意味が分かるような日
本独自の造語を作ればいいのだ。そして外国
語の仕入れ先として、米国だけに頼ってしま
っていては駄目だ。【5】世界中の言葉を見
回して、単語の意味を吟味する。その中で、
一番よいと思われる外国語を参考にして日本
語の造語を作るようにしなければならない。
 過去に遡れば、日本でも明治維新の頃には
外国語に対する日本語の造語が数多く作られ
ていたのだ。
 【6】政治でも経済でも学問でも、世界か
ら遅れをとっていた日本は、国際化に向けて
さまざまな努力をした。その一環として、ま
ずは外国語を日本語に変換する作業を始めた
のだ。考えに考えて、日本ならではの言葉を
作った。【7】その良い例が「経済」や「経
営」などといった単語だ。これらは日本で作
られた単語だが、今では漢字の本場である中
国に逆輸入され、中国でも普通に使われるよ
うになった。僕の専門分野である数学に関す
る中国での専門用語 も、日本人が考えて作
ったものが多いのである。
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 【8】こうしてざっと調べるだけでも、明
治時代には最先端の技術や∵科学、医学など
が輸入されると同時に、それに伴う日本語の
考案にも尽力していたということが分かる。
それらの言葉は、決して安易なカタカナ語の
ようなものではなかった。【9】だからこ 
そ、当時日本で作られた言葉の大多数が、今
の中国でも使われるほどになったのだ。
 ところがその後、言葉を作る努力を怠り、
ついには完全に放棄してしまった。僕が思う
には、それは戦前の頃からだろう。【0】医
学の世界ではドイツ語を使うために、医者は
「カルテ」や「メス」などという言葉を使う
ようになった。それが、医学界だけではなく
広く一般に流通し、やがてカタカナ語として
定着してしまったの だ。
 これだけカタカナ語が氾濫している現代だ
からこそ、明治維新の頃の日本に戻り、日本
語の大掃除をすれば面白いと思う。今のカタ
カナ語の半分でも日本語に作り直す。定義作
業に関しては多くの専門家などに意見を聞き
、造語の候補をいくつも出してもらう。その
大本として、国語審議会が大いに働けばよい
のである。
 日本人の固有の発想で新しく言葉を作る。
これはとても素晴らしいことだと思うのだが
、皆さんはどう思われるだろうか。

 (ピーター フランクル『美しくて面白い
日本語』(宝島社)より)