グミ2 の山 11 月 4 週
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◎自由な題名

★清書(せいしょ)

○Z・バウマンは(感)
 【1】Z・バウマンは、身体の統制可能と考えられている領域を「文化」と呼び、統制不可能と考えられている領域を「自然」と呼んだ。さらに文化の二重の機能を指摘した。【2】現代文化の大きな特徴は、「文化(=統制可能)」の領域を拡大し、「自然(=統制不可能)」の領域をせばめ、限定していくという方向性を持っていることだという。
 【3】現代文化を医療技術や美容技術の発展と拡大を含むものととらえるならば、バウマンの考えは納得のゆくものである。それは端的には、私たちが私たち自身の外見――身体や衣服――について認知する場合、【4】「変えることができるもの」に分類される領域がより広まり、「変えることができないもの」として分類される領域がより狭まってきた、という点に現れる。【5】ダイエットのさまざまな手法の流行は体重を「変化させるのが容易ではないもの」から「容易に変化させうるもの」へと変えた。日焼け機械の普及は、肌の色を気軽に変化させることを流行させた。
(中略)
 【6】典型的なのはイメージ・アップの試みだろう。たとえば、ダイエット。摂食障害やダイエットの果ての死亡事故など、なかば社会問題として取り扱われるようになってもなお、依然としてダイエット・ブームは続いているし、一向に終息の方向へは向かう様子がない。【7】このようなダイエット商品やエステティック・サロンの広告コピーには「生まれ変わった私」「まるで別人!」といったことばが多用される。【8】これらのことばには、従来意図的に変更することが簡単ではなかったもの(=体重、体型)をある商品を使用することによって変えることができる、それと同時に「その人らしさ」にかかわる「個性」ならば、より魅力的なものに変えることができるのだ! という企てが表現されている。【9】こうしたイメージ・アップの企てはさまざまな商品化をともないながら、私たちの外見のあらゆる領域に向けられていく。
 消費社会とその文化は、さまざまなヴァリエーションを持った商品を大量に供給することによって、私たちが身につけるありとあらゆるものを「着替える」ことを可能にした。【0】さらに、手軽な形で商品化された技術によって、身体のさまざまな部分に手を加えることが可能になった。かつては身体的特徴は容易には変化させるこ∵とができない、とみなされていたが、今日では投資さえすれば、身体的特徴を別人のように変えることも不可能ではない。整形手術、フィットネス、エステティック、ダイエット、髪や肌や眼の色を変えること、歯列矯正、毛深さや太りやすい体質を改善すること、身長の印象操作などなど。しぐさや振る舞い、ことば使いに至るまで、各種のトレーニング・コースが用意されている。
 注意しておかなければならないのは、身体や外見が「操作可能なもの」となってきたとしても、それはかならずしも人びとの外見の多様なあり方にすぐさま結びつくわけではないということである。操作可能性は個人間の差異を矯正し、ある集団を同一の形式に統一する方向に作用することもありうるのだ。
 身体や外見に関して「着替えられる」「変更可能な」ものだという認識を多くの人が持つにつれて、特に女性や青年といった人たちのあいだには「着替えられるものなら着替えたい」というストレートな欲望が生ずるようになる。そしてその欲望は、身体や外見を操作するさまざまなタイプの商品の消費へと彼ら・彼女らを駆り立てていく。

 (千住博『美術の核心』による)