長文集  12月3週  ★日本人にはボランティア精神が(感)  nngu-12-3
    毎日1ページ音読しましょう。漢字はふりがなをつけずに読めるようにしておきましょう。  2012/06/15 08:09:23
 【1】日本人には、ボランティア精神が希
薄で、ボランティアのシステムを社会的に定
着させるのは困難ではないかとの意見があ 
る。しかし、私は決してそうは思わない。
 【2】アメリカの場合、ボランティア精神
、相互扶助精神が非常に発達していて、成人
の二人に一人は、なんらかのボランティア活
動に従事しているといわれる。
 なぜ、アメリカではそんなに発達している
のか、これにはいくつかの要素がある。
 【3】キリスト教というバックボーンがあ
るということもある。各地域に教会があって
、日曜日には、年代を超えたたくさんの人た
ちが集まり、そこに地域の輪ができる。
 教会で牧師さんの説教を聞き、清らかな心
になると、なにかいいことをしたくなる。【
4】情報交換の場にもなり、どこそこの誰か
が困っているといった情報なども教会を介し
てみんなに伝わる。こうして教会を中心にし
たボランティアの輪が、各地域に広がってい
く。
 【5】もっと具体的な要素は、時間的なゆ
とりがあるということであろう。
 日本人の年間労働時間は、二千時間を超え
ている。サービス残業や、夜間、休日などの
仕事仲間とのつき合い、接待などを入れれば
二千数百時間になるだろう。【6】それに対
しアメリカでは千九百時間、ドイツでは千六
百時間を切っているし、勤務時間以外は、彼
らは完全に自由である。つまり、彼らには時
間的余裕がたっぷりあって、そうなると人の
本性として、人に良いことをしたくなってく
る。
 【7】その上、建国以来、自分たちの手で
社会をつくってきたという伝統がある。また
、いろいろな民族が入り交じっているから、
お互いに個人を尊重しあい、協調していかな
いとやっていけないという状況もある。【8
】これだけの条件が揃っているため、アメリ
カではあれほどボランティアが発達している
のだと思う。
 それに対して、確かに日本は、キリスト教
のバックボーンもないし、みんなが集まる地
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域の場もない、時間的余裕もない。【9】お
先真っ暗ではないか、と考えるのも無理はな
いかもしれない。
 しかし、宗教的な要素でいえば、熱心な信
者であるかないかにかかわらず、日本人には
伝統的に仏教的なフィーリングがある。習慣
∵や年中行事の中にも、仏教は色濃く残って
いる。
 【0】根本精神でいえば、キリスト教の場
合は、イエス・キリストに象徴されるように
自己犠牲を旨としている。したがって、まっ
たくの手弁当で全面的に奉仕する。そこから
なんの見返りも期待しない。
 一方、仏教の基本原理は因果応報の考え方
にある。ここで助けておけば、いずれ自分が
困ったときには助けてもらえるだろうという
ように、広い意味での見返りをなんとなく期
待する。これは別に悪いことではなく「困っ
たときはお互いさま」という考え方だから、
相互扶助の精神である。ここに日本的なボラ
ンティア活動が根づく地盤があると思う。
 もともと日本人は、農耕民族である。機械
化以前の農耕というのは、一人ではやってい
けない。集落が一つの単位となり、季節ごと
の農作業を総出で行って収穫を平等に配分す
るということだから、基本的には助け合いの
システムである。そうした精神は、いまもわ
れわれの潜在意識の中に残っている。
 そして、最近は時間的ゆとりもかなり出て
きた。かつては労組の要求は賃上げ一本だっ
たが、いまでは勤務時間短縮も合わせて強力
に要求するといったように変わってきた。週
休二日制もいきわたってきた。日本もこれか
らだんだんゆとりの世界に入っていく。
 だから、ボランティア活動をするための条
件は、日本でも熟し始めていると思う。ただ
、これも農耕民族の特徴だが、突出を嫌う意
識があって、自分から旗を振って組織をつく
ったり、みんなに呼びかけたりすることが苦
手である。
 テレビなどで助け合いの提唱をすれば、あ
っという間に何千万円もの義捐金(ぎえんき
ん)が集まる。このように、もともと助け合
いの精神をもった民族だから、各地にそうし
た組織をつくり必要な場所を提供してゆけば
、そこにみんな集まってくるようになるだろ
う。それが時の流れだと思う。

(「再びの生きがい」堀田力より)