長文集  10月1週  ゼネラリストとスペシャリスト  nngu-10-1
    毎日1ページ音読しましょう。漢字はふりがなをつけずに読めるようにしておきましょう。  2014/09/04 14:40:26
 【1】孔子は、日常生活のこまごまとした
ことをよく知ってい た。それを見た弟子が
感心すると、孔子は、自分は貧しかったから
何でも自分の手でやらなければならなかった
のだと言った。政治改革を目指した孔子は、
結局政治の分野では大きな業績を上げること
ができなかったが、子弟教育の分野で後世に
残る足跡を残した。【2】それも、孔子がバ
ランスのとれたゼネラリストとしての力を持
っていたからだろう。しかし、今日、そのよ
うなゼネラリストが日本の社会にいるかとい
うと心もとない。ゼネラリスト不在の社会と
いうのが、今日の日本の問題だ。
 【3】では、その原因はどこにあるのだろ
うか。第一に考えられるのは、現代の社会が
孔子の時代に比べて、社会制度の面でも、科
学技術の面でも、巨大化、複雑化が増してい
ることである。そのため、一人の人間が全体
を幅広く把握することがきわめて難しくなっ
ている。【4】例えば、原子力発電所の事故
があったときに、いろいろな専門家がそれぞ
れの立場から意見を述べたが、それらをまと
めるゼネラリストの役割を担う人はほとんど
いなかった。あとから次々と指摘されたずさ
んな管理の仕方を見ると、当初から原発とい
う巨大なシステムの全体像を見通せる人がい
なかったらしいことも明らかになった。【5
】巨大化に対応するだけの広い視野を持つ人
がいないまま、細分化された場所で専門家が
ばらばらに仕事をしていたというのが実態に
近かったようだ。
 ゼネラリスト不在の第二の原因は、社会の
安定と成熟に伴い、世襲化の傾向が増してき
たことが挙げられる。【6】政治の分野で 
は、全くの新人が、地盤や看板や特別の知名
度なしに当選することが難しくなっている。
更に、世襲を有利と感じる一種の利権集団が
形成され、それが外部からの新規の参入を阻
むために、選挙の制度や法律を複雑にしてい
る面もある。【7】世襲化の弊害は、生まれ
つきその分野しか知らない視野の狭い人材が
育ってしまうことにある。政治家という最も
ゼネラリストの資質が要求される分野で世襲
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化が進めば、その弊害は更に大きいと考えら
れる。∵
 【8】確かに、現代の複雑化した制度や技
術を運用できるのは、専門的に養成されたテ
クノクラートだろう。スペシャリストがそれ
ぞの専門の分野にいるからこそ社会はスムー
ズに動く。しかし、専門家の横軸が広がるほ
ど、それを縦に統合する強力なゼネラリスト
が必要になる。【9】「群盲象をなでる」と
いう言葉がある。象を説明するだけであれば
、さまざまな専門家が自分の立場から象を解
釈しているだけでも問題はない。しかし、象
使いが生きた象をコントロールするとき必要
なのは、細部の解釈の積み重ねではなく、象
という大きな全体像の把握なのである。【0


(言葉の森長文作成委員会 Σ)