長文集  3月1週  ★(感)社会の仕組みの正しさ  nnge2-03-1
    毎日1ページ音読しましょう。漢字はふりがなをつけずに読めるようにしておきましょう。  2012/06/15 08:09:23
 【1】社会の仕組みの正しさ(倫理性)に
関して多くの異なる理論が存在しているが、
それらに共通していることは、各理論がそれ
ぞれ重要とみなす何事かについては平等を要
求する、という特徴である。なぜそうなのか
? 【2】社会的なことがらに関する倫理的
な根拠が妥当性をもつためには、決定的に重
要とみなされるレベルで、社会のすべての構
成員に対して基本的に平等な配慮がなされて
いる必要がある。もしそのような平等性がな
ければ、その理論は恣意的に差別を行ってい
ることになり、正当化されがたい。【3】理
論というものは、多くの点で不平等を受け入
れ、さらに不平等を要求することもありうる
。しかし、そのような不平等が正当化される
ためには、本質的なところですべての人々に
平等な配慮がなされていなければならない。
【4】また、その配慮が究極において不平等
と関連していることを示す必要がある。
 おそらくは、このような特徴から、倫理的
な根拠が第三者からみて、潜在的にはすべて
の他者からみて、信頼にたるものでなければ
ならないという要件が必要になってくる。【
5】とくに社会の仕組みに関する倫理的な根
拠については、そういえる。「なぜこのシス
テムなのか」という問いに対する答は、その
システムに属するすべての人々に与えられな
ければならない。
 【6】「自分の行動を正当化するためには
、他の人々が理性では拒否できないことを根
拠とすべきである」と、トーマス・スキャン
ロンは主張する。人の行動にとって、このよ
うな要件が妥当であり説得力をもつと、彼は
分析している。【7】ロールズは「公正」と
いう要件を基礎にして正義論を展開している
。それは、人が理性的に拒否できるもの、あ
るいは拒否できないものとは何かを決定する
枠組を提供しているとみなすことができる。
同様に、より一般的な「公平さ」という要件
が主張されることもある。【8】その場合に
も、基本的に平等な配慮をするという特徴が
ともなってくる。このような一般的な形での
理由づけは、倫理学の基礎と大いに関連して
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いる。∵それゆえに、それぞれの倫理的な提
言の中で、様々に異なった形で現れてきてい
る。
 【9】ここで関心があるのは、以下の主張
の妥当性である。すなわち、「社会の仕組み
に関する政治的な、あるいは倫理的な理論を
提示する場合、重要だとみなされるレベルで
の平等な配慮は、簡単には無視しえない要求
である」という主張である。【0】社会制度
において支持を受け続け、合理的な擁護が行
われている主要な政治的倫理的な提言には、
何らかの形で公平さや平等な配慮が共通の背
景としてある。このことを指摘しておくこと
は、非常に実践的な意味があろう。そのひと
つの帰結は、問題となる領域において個人間
で優位性に格差があることを正当化する必要
性を、しばしば暗黙裏に受け入れることであ
る。このような不平等は、その他のさらにも
っと重要な変数に関する平等と強く結びつい
ていることを示す形で正当化されている。
 ここで、変数の重要性は、必ずしもその変
数に固有のものではないということに注意し
よう。例えば、ロールズの「基本財の平等」
や、ドーキンの「資源の平等」は、必ずしも
基本財や資源のもつ固有の重要性によって正
当化されているわけではない。このような変
数の平等は、それが人々の目的を達成するた
めに必要な機会を平等に与える手段となるた
めに、重要とみなされている。実は、この両
者の間の距離が、これらの理論にある種の内
的な緊張を生み出すことになる。なぜなら、
基本財や資源の重要性は、基本財や資源を各
人の目的の達成やそれを遂行する自由へと変
換していく能力にかかっているからである。
そのような変換を行う能力は、実際には人に
よって差があり、このことが基本財や資源を
平等に保有することの重要性の根拠を弱めて
いるのである。

(アマルティア・セン『不平等の再検討』よ
り)