長文集  2月2週  ★(感)ヨーロッパのコトバでは  nnge2-02-2
    毎日1ページ音読しましょう。漢字はふりがなをつけずに読めるようにしておきましょう。  2012/06/15 08:09:23
 【1】ヨーロッパのコトバでは、いずれも
、「風景」を意味するコトバは「土地」「地
域」を意味するコトバから第二次的に出来て
きたわけで、ドイツ語では、Landは土地
・田舎・地方・国土を意味していまして、そ
れから出来たラントシャフト(Landsc
haft)という語は、地方行政区域のこと
、つまり州とか地方県とかを意味します。【
2】それがどうして、そのままに同時に「風
景」を意味するようになったのか。まことに
不思議なこととも言うべきです。とにかくこ
のように、風景の場所性といいますか、風土
性といいますか、地域に根ざすものを色濃く
反映したものになっているわけです。
 【3】そして、考えてみれば当然のことで
あるわけですけれど も、「土地」すなわち
、それぞれの個性的な「場所」を離れて風景
は存在しえない。土地の地形、風物その他一
切のもの、川とか森とか、山とか丘とか平野
とか、雲とか、そういう一切のものの全体が
つくりだしている姿・形の場所的特徴、これ
が風景であるわけでしょう。【4】ですから
西洋の言語において風景概念が、「地域・地
方・土地」がそのまま「風景」となっている
。すなわち「場所」としてのラントシャフト
として成立している。このことは考えてみま
すと、誠に自然でもあり、風景の本筋をいく
ものだ、とも言えましょう。
 【5】そして、このような西洋語の風景の
意味形成の方向性、特徴を、さきほど述べま
したような、日本語における「風景」概念の
含意のもっている方向性、特徴と比較してみ
ますと、大変興味深いこと、そればかりか大
変重要な一つの点が浮かび上がってまいりま
す。【6】といいますのは、日本語の風景概
念の含意の方向性やその特徴が「風景」にし
ても「景観」にしても主として主観性を示し
ている。あるいは主情性に溢れているのに対
しまして、西洋語のそれは、対象性、客観性
そして場所性を示している、ということが言
えると思うからです。【7】日本のばあいに
は、対象についての主観的な感じ方、感情性
、自分中心の好みや感じ方の方面が主として
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表現されているのに、西洋のばあいには主我
性、主観性から一応自由に、外界にある土地
について、その地理的空間性、風土生活環境
の場所性(トポス性)と形状性(ゲシュタル
ト)、それらの特徴が「風景」だと認識され
ている、ということです。∵
 【8】このように見てまいりますと、さき
ほど私が考察いたしました中に、日本語の「
風景」という語には、風情、情景の「情」(
心情)が隠されている、あるいは含まれてい
る、ということを言ったのですけれども、こ
の「情」(心情)は、客観的な対象世界(自
然)の姿・形とその美しさを、自然の生きた
心として、【9】つまりは風景の心として感
ずる(印象体験する)という点の情(心)で
あるよりは、むしろ、自分の主観の側の身勝
手な感情の流れ、つまり四季の移ろい、時の
流れ、時間性を感ずるあの感情の方に重点が
あるとみてよいと思えるのです。【0】日本
の詩歌に表われている美意識のトーンの主要
な特徴が、自然の対象に即した表現であるよ
りは、むしろ四季の移ろい、時の流れのあわ
れさ、その時間性の主観的体験の表現という
特徴を示していることと、このことは一致し
てくると思います。
 これに対しまして、西洋のランドスケープ
、ラントシャフトの方は、「対象としての自
然」の「地域」に即した姿・形、その美を、
その「場所性」において、つまりは空間性の
生ける現象としてとらえる所において成り立
っていると言えるでしょう。
 このことは西洋の場合、対象としての自然
に内在している生命・美というものを大切に
思う心、つまり生きた自然の心を大切にする
心が育ってくることを暗示しているのです。

(内田芳明『風景とは何か』)