1.【1】「ユウって本当にロマンがないね!」
2. 姉にそう言われて、
僕はぽかんと口を開けてしまった。姉のきつい言葉には慣れていたが、そんなことを言われるとはまったく予想していなかった。
3. それは去年、
双子の姉と二人で、夏休みの自由研究について相談していた時のことだ。【2】
僕たちは地元に伝わるおとぎ話について調べ、発表しようと考えていた。「キツネに化かされて田んぼに落っこちた」とか、「山で助けたサルがお返しに木の実を持ってきた」などという話に、姉は
胸をときめかせているようだった。
4. 【3】一方の
僕も、内心燃えていた。こういった話は研究のしがいがある。そう思って、「キツネやサルにそんな
知恵があるはずはないから、人間どうしの出来事をたとえた話ではないか」と自分の考えを話したのだ。そうしたら、姉はいきなり
怒り出してしまった。
5. 【4】姉によると、「ロマンがない」のが
僕の短所だという。せっかくかわいらしい動物たちの物語を想像しているのに水を差すな、というのである。しかし、そう言われても
納得はいかない。
僕にも意地があった。結局、
僕と姉はたもとを分かち、同じ題材で別々に発表をすることになった。
6. 【5】そして夏休みが終わり、自由研究を発表する日がやってきた。出番は姉が先だ。姉は自分で書いたイラストを見せながら、キツネやサルが主役のおとぎ話を
紹介していった。研究発表というより
紙芝居大会のようだったが、
悔しいけれど面白い内容になっていたと思う。
7. 【6】おかげで
僕はすっかり
尻込みしてしまった。今度は姉ばかりか、クラスのみんなに「ロマンがない」と言われるかもしれない……。だが、今さら
逃げ出すわけにはいかなかった。
8.
僕は勇気をふりしぼって、図書館で調べた話を発表していった。【7】昔は道路が
舗装されておらず、
酔った人が田んぼに転落するのはしょっちゅうだったこと。山を
挟んだ
隣の村から来た迷子を、送∵り返してあげた話があること……。発表が終わったあと、
担任の
城田先生はにっこり笑って、こう言ってくれた。
9.「とても面白かった。ユウくんの
探究心はすごいね。」
10. 【8】その言葉を聞いて、
僕はすっと
胸のつかえがとれたような思いがした。
11. 確かに、
僕は姉の言うように「ロマンがない」のかもしれない。しかしその代わりに、先生も
認めてくれた「
探究心」がある。それが
僕の長所だ。「短所をなくすいちばんよい方法は、今ある長所を
伸ばすことである」という言葉がある。【9】
僕は自信を持って、長所である
探究心を
伸ばしていきたい。
12. 人間にとって、自分の長所や短所に気付かされる経験は
貴重である。
指摘してくれる人がいるということも、ありがたいことだ。今では、
城田先生はもちろん、姉にも感謝している。【0】
13.(言葉の森長文作成委員会 ι)