長文集  9月1週  長所に気づいた自由研究  ni-09-1
    毎日1ページ音読しましょう。漢字はふりがなをつけずに読めるようにしておきましょう。  2021/10/15 17:26:11
【1】「ユウって本当にロマンがないね!」
 姉にそう言われて、僕はぽかんと口を開け
てしまった。姉のきつい言葉には慣れていた
が、そんなことを言われるとはまったく予想
していなかった。
 それは去年、双子の姉と二人で、夏休みの
自由研究について相談していた時のことだ。
【2】僕たちは地元に伝わるおとぎ話につい
て調べ、発表しようと考えていた。「キツネ
に化かされて田んぼに落っこちた」とか、「
山で助けたサルがお返しに木の実を持ってき
た」などという話に、姉は胸をときめかせて
いるようだった。
 【3】一方の僕も、内心燃えていた。こう
いった話は研究のしがいがある。そう思って
、「キツネやサルにそんな知恵があるはずは
ないから、人間どうしの出来事をたとえた話
ではないか」と自分の考えを話したのだ。そ
うしたら、姉はいきなり怒り出してしまっ 
た。
 【4】姉によると、「ロマンがない」のが
僕の短所だという。せっかくかわいらしい動
物たちの物語を想像しているのに水を差す 
な、というのである。しかし、そう言われて
も納得はいかない。僕にも意地があった。結
局、僕と姉はたもとを分かち、同じ題材で別
々に発表をすることになった。
 【5】そして夏休みが終わり、自由研究を
発表する日がやってきた。出番は姉が先だ。
姉は自分で書いたイラストを見せながら、キ
ツネやサルが主役のおとぎ話を紹介していっ
た。研究発表というより紙芝居大会のようだ
ったが、悔しいけれど面白い内容になってい
たと思う。
 【6】おかげで僕はすっかり尻込みしてし
まった。今度は姉ばかりか、クラスのみんな
に「ロマンがない」と言われるかもしれない
……。だが、今さら逃げ出すわけにはいかな
かった。
 僕は勇気をふりしぼって、図書館で調べた
話を発表していった。【7】昔は道路が舗装
されておらず、酔った人が田んぼに転落する
のはしょっちゅうだったこと。山を挟んだ隣
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の村から来た迷子を、送∵り返してあげた話
があること……。発表が終わったあと、担任
の城田(しろた)先生はにっこり笑って、こ
う言ってくれた。
「とても面白かった。ユウくんの探究心はす
ごいね。」
 【8】その言葉を聞いて、僕はすっと胸の
つかえがとれたような思いがした。
 確かに、僕は姉の言うように「ロマンがな
い」のかもしれない。しかしその代わりに、
先生も認めてくれた「探究心」がある。それ
が僕の長所だ。「短所をなくすいちばんよい
方法は、今ある長所を伸ばすことである」と
いう言葉がある。【9】僕は自信を持って、
長所である探究心を伸ばしていきたい。
 人間にとって、自分の長所や短所に気付か
される経験は貴重である。指摘してくれる人
がいるということも、ありがたいことだ。今
では、城田(しろた)先生はもちろん、姉に
も感謝している。【0】

(言葉の森長文作成委員会 ι)