長文集  8月1週  両親との旅  ni-08-1
    毎日1ページ音読しましょう。漢字はふりがなをつけずに読めるようにしておきましょう。  2021/10/15 17:26:11
 【1】紫色に輝く大粒の果実が、目の前に
いくつもぶら下がっている。その中の一つを
もぎとって口の中に放り込むと、みずみずし
い甘酸っぱさが一気に広がった。自分の手で
ブドウの実を摘んで、その場で食べるなんて
初めての体験だ。【2】感激して後ろを振り
向くと、父も母もそれぞれ夢中でブドウを頬
張っていた。
 私たちは「旅行好き」、「食いしん坊」と
いう点が共通した家族である。
 父は仕事一筋の働き者で、毎日遅く帰って
きてはご飯を食べてすぐ眠ってしまう。【3
】趣味らしい趣味もないそうだが、旅行に出
かけたときだけはニコニコしていて、見違え
るほどエネルギッシュである。
 母は母で、よく同窓生と旅行に出かける。
帰ってくる日の夕飯 は、決まって地方の名
物弁当だ。
 【4】朝早くに起きて、急な日帰り旅行に
出発したことは数知れない。この日の目的地
は、山梨のブドウ畑だった。
 父と母は、どちらも車の免許を持っている
。運転が交替できて楽なので、気軽に出かけ
られるということもあるだろう。【5】父は
安全運転だが、母は極めて危なっかしい。一
度、赤信号に気がつかずスーッと通過しそう
になったときには、私が大声で注意しなけれ
ばならなかった。
 山梨に着いたら、さっそくブドウ狩(が)
りである。
 【6】新鮮なブドウをたっぷり味わった後
、ここが母の知り合いの畑だということを教
えてもらった。母は若いころにここへ旅行に
来て、農家の人と仲良くなったのだという。
 旅をすることで、新しい出会いが生まれる
。【7】両親と旅行をすると、ときどきこう
した発見がある。
 ブドウ畑の隣には、ワインの工房もあった
。飲める人がいないのが残念だ……と思って
いたら、気付いたときには母が真っ赤な顔を
していた。
 【8】帰りの運転は父が一人ですることに
なってしまった。∵
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
16
17
18
19
20
21
22
23
24
25
26
27
28
29
30
31
32
33
34
35
36
37
38
39
40
41
42
43
 「可愛い子には旅をさせよ」というが、私
の旅はたいてい両親と一緒だ。しかし、ひと
りで旅をするのとはまた違う意味で、私は旅
からいろいろなことを学んでいる。【9】父
と母を見ていると、大人になっても旅を楽し
む心を忘れないことが人間には必要なのかも
しれない、と感じるのである。【0】

(言葉の森長文作成委員会 ι)