長文集  3月3週  ★月ができた原因に(感)  ne-03-3
    毎日1ページ音読しましょう。漢字はふりがなをつけずに読めるようにしておきましょう。  2012/06/15 08:09:23
 【1】月ができた原因については、進化論
で有名なダーウィンの息子のジョージ・ダー
ウィンという人が考え出した説が学会で認め
られていました。それによると月は地球の一
部がちぎれて飛び出してできたものだが、面
白いことに太平洋は月が飛び出した跡だとい
う説を立てたのです。【2】ジョージ・ダー
ウィンという人は、たいへんあたまのいい人
で、この月の成因説は、ただの思い付きとい
うわけではなくて、推論にいろいろな根拠が
あげられているので す。たいへんうまい説
明なので当時は反論する学者もいなくて、そ
れが決まった学説となってしまいました。【
3】ですから、私たちは学生の時にこういう
説を教わったわけなのですが、こんな説は今
ではすっかり消えてなくなってしまいました

 【4】地球の成因の方は、四十年程前に、
ドイツのワイッゼッカーという人が、惑星は
太陽から飛び出したのではなくて、昔、太陽
系をおおっていたガス体から固体の粒だけが
残って、それが太陽の周りをぐるぐる回って
いるうちに衝突し合ってだんだんに成長し 
て、いくつかの惑星になったという説を立て
ました。【5】それ で、ビュッフォンの説
は消えてしまったのです。そのワイッゼッカ
ーの学説もその後十年ほどたって、アメリカ
のユレーという人と、ソ連のシュミットとい
う人が修正して、地球や木星などの惑星のも
とになった粒というのは、太陽系をおおって
いた粒ではなくて、太陽の引力によってつか
まえられた宇宙塵、つまり隕石ということに
なったわけです。
 【6】そして、月の方も、ダーウィンの説
ではなく、地球のできる時に同じような現象
で地球と一緒になってできたものだという説
が、今日、定説となって、月は地球の兄弟だ
と考えられるようになったわけです。
 【7】だが、こういった学説も月ロケット
で、人間が月から石のサンプルを持ち帰った
り、ロケットの観測機が火星や土星まで飛ん
でいって、情報を送ってきたりすると、古い
説では解釈がつかないことだらけで、また、
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いずれ新しい学説が誕生することになるわけ
です。∵
 【8】こういうことは天文学、あるいは地
学などに限らず、いろいろな科学の領域で起
こってもふしぎはないわけです。まだ、本当
は科学は何もかも知っているわけではなくて
、ほんの自然の姿の一部をかじっているにす
ぎないのですから、いろいろと角度を変えて
自然を見ているとつぎつぎと新しい発見が生
まれてきます。【9】そしてそこから新しい
学説が発展し、それをもとにしてまたすぐれ
た技術が誕生するといったことがこれからも
続いていくはずです。
 【0】今までのでき上がった科学の理論と
か解説とかにこだわりすぎてすべてをそれに
のっとって(=基準として従って)考えると
いう傾向が強すぎますと、新しい発展が起こ
らなくなります。古いものにとらわれずに新
しい見方をする、あるいは逆転の発想という
言葉がありますが、そういう考え方をしてい
ると、案外そこから面白い発展が起こるので
す。
 これは科学者でなくても、一般の方々が広
く眺めている観察、あるいは考え方からもみ
な同じ事情が生まれるはずですし、そういう
点からも皆さんが日常観察しているものから
、新しい科学の目が生まれる、ということも
十分にあり得ることだと思います。
 昔、ウェーゲナーという学者が大陸移動説
を提唱しました。この人は、地質学とか物理
学とかの理論に基づいて考えていたわけでは
なく、世界地図を見ておりましたらいろいろ
な大陸の形が、ちょうどジグソーパズルの切
れ端のように、寄せ集めると一つになってし
まいそうな感じがしたことから大陸移動を考
えたのです。なるほど合わせてみると、南米
とアフリカとは一緒になりそうですし、アメ
リカ大陸もユーラシア大陸も、南極大陸もみ
んな一つに組み合わされそうに見えます。
 そういうところからウェーゲナーは大陸は
昔は一つになっていたのが、ある時から分か
れて移動したのではないだろうか、地球の内
部が融けた液体でその上に固体の大陸が浮か
んでいる、それがちぎれて、だんだん地球全
体に分散したのではないだろうかと考えて、
∵大陸移動説という学説を立てたのでした。
 たいへん面白い説ですが、当時の学界では
、それは単なる思いつきだということで黙殺
されてしまったのです。近頃になって、いろ
いろな観測の技術が進みますと、どうやらウ
ェーゲナーの学説が本当であったらしいとい
うことで、プレート・テクトニクスという学
説(=地球の皮膚を形づくる厚さ一〇〇キロ
の岩板の動きを研究する学説)ができて、実
際に大陸が移動するのだということが、事実
として認められるようになったのです。そこ
でウェーゲナーは今たいへん高く評価される
ようになっておりますが、こういう、こだわ
らない自由な心で科学を論じるというのも一
つの進歩の道だと言えるわけです。
 そういう意味でも、皆さんの自由な観察力
や、考え方から思いついたことをどんどん科
学者や科学界にぶつけていきますと、それは
皆さんにとってもたいへん楽しいことですし
、科学者にとっても楽しいことになるはずで
す。そして、そこから、思いがけない科学の
進歩も生まれるということになりますと、な
んともすばらしいことであるに違いありませ
ん。

(崎川範行「科学ってこんなに面白い」によ
る)