長文集  3月2週  ★レオナルド・ダ・ヴィンチ(感)  ne-03-2
    毎日1ページ音読しましょう。漢字はふりがなをつけずに読めるようにしておきましょう。  2014/12/14 14:43:51
 【1】レオナルド・ダ・ヴィンチの「モナ
リザ」は、先にもあとにも誰にもかけなかっ
た傑作です。心をやわらげてくれるかとおも
うと、胸がきりっとなるモーツァルトの音楽
は、ただすばらしいとしかいいようがなく、
あれだけの音楽はやはりモーツァルトにしか
作曲できなかったでしょう。【2】アインシ
ュタインは空間は四次元だと、それまで誰も
考えなかったことをみちびきだしました。
 まったく新しいすばらしいものをうみだす
「創造」の秘密はどこにあるのでしょうか。
【3】創造はあまりにも謎めいているので「
天才」にだけできることとかたづけてしまい
がちです。しかし、天才だから創造できたと
いってしまうと、「創造」を説明したことに
ならないでしょう。【4】それでは「人間の
すばらしさ」とはなにかを考えるのをなげだ
してしまうことになります。
 まったく新しいものといっても、人間はな
にもないところから、魔法の力でそれをうみ
だすのではないわけです。そのもとになるも
のがあったのです。【5】ただし、それまで
あったままだと、創造にはならないので、そ
れまであったものをいろいろ組みあわせて、
そのできたいくつもの新しい組みあわせの中
から、美しいもの、心にうったえるもの、正
しく自然を説明できるものをえらびだし、世
の中の人達がその価値をみとめたものが創造
です。【6】ここで「組みあわせ」のかわり
に「変化させて」といわれたほうがわかりや
すいとおもう人は、そういいかえてもよいで
しょう。
 かんじんなのは、それまでほかの人がやら
なかった組みあわせをこころみるか、こころ
みないかです。【7】それまであったものを
少し変化させるか、させないかです。それを
ためしてみなければ、創造はおこらなかった
のです。ためしに組みあわせてみたり、変化
させてみるのですから、だめでもあたりまえ
です。ですから、だめでもともととおもって
、ためしてみるしかないのです。
 【8】第一に、創造のきっかけがあまりに
も小さな、なんでもないようなことだったの
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と、第二に、最初のきっかけのあと、ためす
のをくりかえした組みあわせや変化の努力が
あまり大きかったの で、第三に、実はあま
りにも長い時間がかかっているために、【9
】最初のこころみと最終の成果との間があま
りにへだたっているので、どうやってそれが
創造されたのか、それを創造した本人にもお
もいだせず∵わからなくなって、突然ひらめ
いたかのように創造がおこったと考えられた
り、説明されてしまうのではないでしょう 
か。
 【0】こう考えてくると、だめでもともと
だとおもって試してみるかどうか、よいとか
んじたらそれをくりかえしつみかさねるかど
うか、それが創造にたどりつくかどうかの境
目になります。(中 略)
 創造が人間にふさわしい仕事であることは
、脳の構造と働きからも説明できます。創造
とは、人間が意味があり、価値があるとおも
う新しい組みあわせですから、ふたつ以上の
いろいろなことがらが同時に脳の中に存在し
なくてはならないでしょう。脳の中ではさま
ざまな働きに関係する細胞が、あちらでもこ
ちらでも興奮したり抑制されたりしています
。いわば、大脳はいつもいろんなことがらを
組みあわせ、組みかえているわけです。つね
に大脳は創造ばかりやっているようなもので
はないでしょうか。
 大脳の中の神経細胞のネットワークは、刺
激や学習によって別の神経ネットワークに変
化をもたらします。それはたとえるならば、
ことがらに新しい光をあて、てらしだすこと
になります。ことがらに新しい解釈をほどこ
すことになります。おなじことがらでも、そ
れを位置づける背景や脈絡がかわることにあ
たります。これを心理学や言語学などでは、
「新しい文脈のもとで、意味が変化する」と
いいます。
 たとえば「タイム」といっても、状況によ
って「経過した時間の長さ」であったり、午
後三時といったような「時刻」であったり、
日本人の間ならば「ちょっと待ってほしい」
という意味であったりします。それを人間は
正しく解釈します。このような大脳の働きが
つみあげられて、ダ・ヴィンチやモーツァル
トやアインシュタインの「創造」をうみだし
たのです。このような脳の働きを役だて、創
造のために「こころみ」をつみかさねないの
は、まったく人間らしくないことになります


(赤木昭夫の文章による)