長文集  3月1週  終わりよければすべてよし  ne-03-1
    毎日1ページ音読しましょう。漢字はふりがなをつけずに読めるようにしておきましょう。  2014/12/14 12:10:11
【1】「あれ? おかしいなあ。」 
トースターの中には、ほかほかに温まったコ
ロッケが入っているはずだった。確かに、コ
ロッケは入っていたのだが、コロッケを乗せ
たトレイは、まるで蜂蜜のようにとろりと溶
け出し、ほとんど原型をとどめていなかった
。【2】やはり、トレイごと入れてはいけな
かったのだ。今ごろになって気づいても後の
祭りだ。トースターに入れる瞬間、このまま
入れても大丈夫なのだろうかと不安がよぎっ
たが、上にかかっているラップだけを取れば
大丈夫だろうと安易に判断したのが間違いだ
った。 
 【3】私は、とてもお腹がすいていたが、
当然のことながら、コロッケは諦めなければ
ならなかった。しかも、母が帰ってくる前 
に、トースターの中で溶けているトレイを取
り除かなければならない。空腹の私にとって
、それは非常に過酷な労働に思えた。【4】
でも、母に見つかったら叱られるに違いない
。私は、急いで布巾を濡らし、トースターの
中の形のないトレイを取り除こうと、手をつ
っこんだ。 
「あちっ。」 
私は、思わず手を引っ込めた。トースターの
中はまだ熱かった。冷ましてからでないと作
業ができない。【5】でも、時間がない。仕
方がないので、うちわを持ってきて思い切り
仰いでみた。すると、トースターの底の方に
残っていたパンくずが舞い上がり、さらに大
変なことになりそうだったので、すぐにやめ
た。私は、ただ布巾を手に、付近をうろうろ
するしかなかった。【6】そうこうしている
うちに、母が帰ってきてしまった。トースタ
ーを見た母は、すべてを悟り、あきれたよう
にため息をついた。 
 結局、トースターは、母が掃除をしてくれ
た。一段落したところで、私は母に、料理で
失敗したことがないかどうか聞いてみた。【
7】母は、中学生のころ、家族のために野菜
炒めを作ったことがあるそうだ。フライパン
で野菜を炒め、味つけをする際、勢いよくコ
ショウを振っていたら、ビンのふたが取れて
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
16
17
18
19
20
21
22
23
24
25
26
27
28
29
30
31
32
33
34
35
36
37
38
39
40
41
42
43
、一ビン分のコショウが∵野菜にかかってし
まったらしい。【8】母は、くしゃみを連発
しながらも、とっさに、野菜をザルに移し、
ジャージャーと水をかけて洗ったそうだ。母
の素早い判断が功を奏し、野菜炒めは無事に
出来上がり、家族全員がおいしいと言って食
べたという。水で洗った野菜炒めがおいしい
わけはないだろうと思ったが、口には出さな
かった。【9】母は、 
「料理に失敗はつきものよ。でも、終わりよ
ければすべてよし。」 
と笑った。 
 私の場合は、スーパーで買ってきたコロッ
ケを温めようとしただけなので、料理の失敗
とは言えないが、そのおかげでトースターが
きれいになったので、やはり、終わりよけれ
ばすべてよしなのだと思いたい。【0】失敗
したからこそわかることもある。私は、もう
二度と同じ失敗を繰り返さないだろう。失敗
は、決して悪いことばかりではないというこ
とがわかった。 
「あれ? おかしいなあ。」 
台所からお鍋のこげるにおいがしている。 

(言葉の森長文作成委員会 Λ)