長文集  1月1週  アイデア年賀状  ne-01-1
    毎日1ページ音読しましょう。漢字はふりがなをつけずに読めるようにしておきましょう。  2014/12/14 12:08:03
【1】「うーん、どう書こうかなあ」
 私にとって、毎年の年賀状作りは大変なも
のだ。なぜかという と、ついつい凝りすぎ
てしまうからである。やはり年賀状は手書 
き、手作りがいちばんだと思う。【2】父は
パソコンで年賀状を印刷しているが、私は断
固として手作りにこだわっている。一枚一 
枚、感謝の思いを込めながら、宛名を書く。
もちろん、裏面(うらめん)だってすべてオ
リジナルの構図を考えて作っていく。
 【3】今年の年賀状では、いも判に挑戦し
てみた。サツマイモを輪切りにして、彫刻刀
で削ってハンコにするのだ。かなり大変だっ
たが、干支(えと)である「卯」や、「賀正
」という文字を彫っ た。
 【4】そんなふうに手をかけるので、出来
上がった年賀状を出すのはいつもぎりぎりだ
。分厚い年賀状の束をポストに押し込んで、
私はようやく、安心してお正月を迎えられる

 【5】しかし、私の年賀状作りは、年が明
けてもまだ終わらな い。毎年必ず、私が出
さなかった意外な人から年賀状が届くから 
だ。こういう驚きがあることも、新年の楽し
みの一つだろう。【6】けれども、もらった
年賀状には返事を書かなければいけない。そ
うして私は、またまた机に向かう羽目になる

 今年のお正月、そんなときに事件は起きた

【7】「いも判がない!」
 私が叫ぶと、こたつでくつろいでいた家族
が、一斉にこちらを見た。一生懸命作ったい
も判が、いつの間にかなくなっていたのだ。
これでは返事を書くことができない。
 【8】家族を無理やり起こして、こたつ布
団(ぶとん)を引きはがしてまで探した。ま
るで、去年やり忘れた大掃除を今ごろやって
いるかのようなありさまだった。しかし、そ
れでも見つからない。∵
 【9】私がしょげていると、飼い犬のユメ
が足元に寄ってきた。慰めてくれるのかと感
動したが、よく見ると、その口あたりの毛が
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赤くなっている。私はハッとした。
「犯人は、おまえだな!」
 【0】そう。なくなったいも判は、今はユ
メのお腹(なか)の中(なか)。材料がおい
もだっただけに、置いておいたものをユメが
ぺろりと食べてしまったのだ。
「では、おまえをいも判の代わりに」
 私はユメをつかまえると、その肉球に朱肉
をつけて、返事の年賀状にペタン、と押した
。いも判ならぬ「いぬ判(ばん)」というわ
けだ。自分のしたことが分かっていないのか
、ユメはうれしそうにしっぽを振っていた。
「えーと、干支(えと)じゃないけどごめん
ね。」
 戌年ならよかったのに、と私は心の中でつ
ぶやいた。だが、これはこれでかわいらしく
て、いいかもしれない。
「災い転じて福となす」ということわざもあ
る。こだわって作るのもいいが、とっさにひ
らめくアイデアで対処することも大切だ、と
わかった気がした。
「うん、これでよし!」
 私は笑顔で、ユメと顔を見合わせた。

(言葉の森長文作成委員会 ι)