長文集  6月2週  ★インドではほうぼうの町角で(感)  na-06-2
    毎日1ページ音読しましょう。漢字はふりがなをつけずに読めるようにしておきましょう。  2022/06/09 18:43:47
 【1】インドではほうぼうの町角で自転車
の修理屋を見かけた。間口一間くらいの、新
品自転車など一つも置いていない、寄せ集め
の中古部品ばかりごたごた重なっている小さ
な店である。【2】そこに持ちこまれるのも
、いかにも実用品といった、さんざん使い古
したしろものだ。そこでパンク直し、部品交
換をし、また雑踏の町中に走ってゆく。自転
車はインドでは貴重品であり、日常生活の重
要な道具だから、そういう店はどこでもはや
っていた。
 【3】私は町中でそんな店を見かけると立
止ってしばらく眺め、なんだかとても懐かし
い気がした。自転車だってあのころは大変役
立つ交通機関で、みな荷台の大きな黒い実用
品であった。【4】私の父はよくそのうしろ
にリヤカーをつけ、材木だのセメント袋など
を仕事場に運んでいったものである。
 駅前広場には毎朝夥しい数の自転車が乗り
すてられていくが、大抵はサイクリング用で
、あの黒くて荷台のついたやぼったいやつな
ど一台も見かけない。【5】子供たちは変速
ギアのついたしゃれたのを平気で公園に置き
去りにしていく。インドの子供らが見たら何
と思うだろう。
 靴でも自転車でもタクシーでもバスでも、
インドでは実際徹底的に修理し再生して、と
ことんまで使いきるらしかった。【6】町中
で新品にお目にかかるほうがめずらしかった
。これは一言でいえ ば、日本が大量生産大
量消費の工業国であり、インドが生産性に乏
しい貧しい国だということなのだろうが、私
は、両方を見くらべてなんだか釈然としない
のである。【7】どっちかが間違っているよ
うに思えてならないのだ。
 限りある地球上の資源を、一方は富にまか
せて不必要に浪費し、一方はどんなものでも
とことんまで使い切ろうとする。【8】そう
いう点からばかりでなく、子供たちの教育、
心の問題としても、現在の日本のような経済
力にまかせた浪費習慣は、よい影響を与える
とは考えにくい。∵
 【9】インドを一月ほど旅行しているあい
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だじゅう私が考えさせられたのは、人間は一
体生きるために本当に何を必要とするか、と
いうことだった。快適な生活の追求はしばし
ば贅沢と域を接し、人間に本来の生の姿を忘
れさせるのではあるまいか。ともかく現代日
本人が傲っているのは確かなようである。【
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