1.【長文が二つある場合、音読の練習はどちらか一つで可。】
2.【1】「先生、その話は前に聞きました!」
3.
僕が通う
個人塾の先生は、
祖父と同じぐらいの年のおじいちゃんだ。それもそのはずで、
僕の母が
子供のころ、勉強を習っていたというくらい昔から先生をしているのである。【2】頭ははげていて、やせているが、
背すじはいつもピンと
伸びている。声も大きくて、
授業はとてもわかりやすい。
4. ただし、先生の話はときどき
脱線する。特に、好きな時代
劇の話となると、前にも聞いた
内容を何回でも
繰り返す。【3】
授業時間がつぶれると喜ぶ人もいるが、テストの直前でもそれをやるので、そのときにはみんな
焦ってしまう。
5. そんな先生の話の中でも、とくに
強烈だったのが「海底戦車」だ。地理か歴史の
授業のときに聞いた話だった。【4】冷戦時代に、ソ連が作った「海の中を走れる戦車」が、オホーツク海を
渡ってはるばる日本まで
偵察に来ていたのだという。当時の
雑誌に、くっきりと車輪のあとがついた海底の写真が
載っていたそうだ。まるで、今で言う「都市伝説」のような話である。
6. 【5】母に聞いた話によると、先生は、昔はとても
怖かったそうだ。母もひどく
叱られて、泣きたくなったことがあったと言う。それは「海底戦車」以上に、
僕にとって信じられないことだった。今の先生は
優しくて、
叱られたことなど一度もない。
7. 【6】次の日、
僕は先生に「うちのお母さんが、泣きたくなるほど
怖かったって言ってたけど本当ですか」と、みんなの前で聞いてみた。すると、先生が
突然僕をにらみつけ、低い声で、
8.「こんな風に泣かせてたんだぞ。どうだ
怖いか。」
9.と
凄んだ。【7】そのあまりの
迫力に、
僕ばかりか周りにいた友人たちも
一瞬、
凍りついたかのように息を飲んだ。∵
10.
僕たちがおびえているのに気づき、先生はすぐにいつもの
雰囲気に
戻って、「こういうのは
疲れるから、
怒らせないでくれよ」と笑った。【8】軽い
冗談のつもりだったのだろうが、
僕たちがその言葉に
従おうと思ったことは言うまでもない。悪いことはしませんと、先生に
宣誓したのだ。
11.
僕は大人になったら、
性格はずっと変わらないものだと思っていた。しかし先生のような人でも、昔と今でそんなにも
違う。【9】人間は変わっていくものなのだなあとしみじみと分かった。
12. 今は
僕に小言を言う母も、
子供のころは先生に泣かされていた。もし、母がおばあさんになったら、今度はもっと変わるのかもしれない。そのとき、
僕自身はどうなっているのか、ちょっと楽しみだ。【0】
13.(言葉の森長文作成委員会 ι)∵
14. 【1】
芙蓉の花のめしべとおしべの位置関係は自花受粉をさけ他花受粉を求める形だったわけです。【2】もっとも、めしべとおしべの間がはなれているとは言っても、わずかのへだたりであり、こん虫が自花の花粉をめしべに運ぶこともあるでしょうから、自花受粉をさけるための
確率はあまり高くありません。
15. 【3】しかし、もっと
効果的に自花受粉をさけ、他花受粉の機会をふやすための
特殊な方法を持っている
両性花もあるのです。
16.
特殊な方法とは、めしべとおしべの
成熟する時期をずらしていることです。【4】これは、
雌雄異熟と
呼ばれている
現象で、めしべが先に
熟し花粉を
受精できる
状態になっているのに、自花のおしべは
熟していない(花粉を出さない)――こういう仕組みのものを
雌性先熟といい、
逆の場合を
雄性先熟と言います。【5】どちらもかなり高い
確率で自花受粉をさけることができますが、この
確率をもっと高めるために、もう一つ変わった方法を
駆使する
両性花もあります。
17. 【6】たとえば、タツノタムラソウという花の場合は、おしべが先に
熟して(
雄性先
熟)、花粉を出している間、めしべは、おしべの先(やく=花粉を生ずる部分)からできるだけ遠ざかるように後方に反り返っています。【7】おしべが花粉を出しつくした
頃、めしべは真直ぐにのびます。
雌雄異熟が時間差法ならば、この場合は高級な空間差法でしょうか。
18. 【8】こうまでして花が自花受粉をさけるのは、すでに
述べた通り、いい種子を得るためですが、一体、なぜ自花の花粉より他花の花粉を求めるのでしょうか。
19.
私の
仮定ですが、生命というものは、
自己に同意し
自己との結合をくり返している末には多分、
衰滅してしまうものです。【9】そういう成りゆきを
避けるために、生命はあえて
異質の他者を
生殖過程中に取りこむのではないか、花が他花受粉を求めるのも、
異質な他者の
因子と結合することで
自己改造を
継続してゆくのではあるまいか、そのように思うのです。【0】