長文集  6月1週  ○芙蓉の花の(感)  na-06-1
    毎日1ページ音読しましょう。漢字はふりがなをつけずに読めるようにしておきましょう。  2017/03/14 09:56:18
【長文が二つある場合、音読の練習はどちら
か一つで可。】
【1】「先生、その話は前に聞きました!」
 僕が通う個人塾の先生は、祖父と同じぐら
いの年のおじいちゃんだ。それもそのはずで
、僕の母が子供のころ、勉強を習っていたと
いうくらい昔から先生をしているのである。
【2】頭ははげてい て、やせているが、背
すじはいつもピンと伸びている。声も大きく
て、授業はとてもわかりやすい。
 ただし、先生の話はときどき脱線する。特
に、好きな時代劇の話となると、前にも聞い
た内容を何回でも繰り返す。【3】授業時間
がつぶれると喜ぶ人もいるが、テストの直前
でもそれをやるので、そのときにはみんな焦
ってしまう。
 そんな先生の話の中でも、とくに強烈だっ
たのが「海底戦車」 だ。地理か歴史の授業
のときに聞いた話だった。【4】冷戦時代 
に、ソ連が作った「海の中を走れる戦車」が
、オホーツク海を渡ってはるばる日本まで偵
察に来ていたのだという。当時の雑誌に、く
っきりと車輪のあとがついた海底の写真が載
っていたそうだ。まるで、今で言う「都市伝
説」のような話である。
 【5】母に聞いた話によると、先生は、昔
はとても怖かったそうだ。母もひどく叱られ
て、泣きたくなったことがあったと言う。そ
れは「海底戦車」以上に、僕にとって信じら
れないことだった。今の先生は優しくて、叱
られたことなど一度もない。
 【6】次の日、僕は先生に「うちのお母さ
んが、泣きたくなるほど怖かったって言って
たけど本当ですか」と、みんなの前で聞いて
みた。すると、先生が突然僕をにらみつけ、
低い声で、
「こんな風に泣かせてたんだぞ。どうだ怖い
か。」
と凄んだ。【7】そのあまりの迫力に、僕ば
かりか周りにいた友人たちも一瞬、凍りつい
たかのように息を飲んだ。∵
 僕たちがおびえているのに気づき、先生は
すぐにいつもの雰囲気に戻って、「こういう
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のは疲れるから、怒らせないでくれよ」と笑
った。【8】軽い冗談のつもりだったのだろ
うが、僕たちがその言葉に従おうと思ったこ
とは言うまでもない。悪いことはしません 
と、先生に宣誓したのだ。
 僕は大人になったら、性格はずっと変わら
ないものだと思っていた。しかし先生のよう
な人でも、昔と今でそんなにも違う。【9】
人間は変わっていくものなのだなあとしみじ
みと分かった。
 今は僕に小言を言う母も、子供のころは先
生に泣かされていた。もし、母がおばあさん
になったら、今度はもっと変わるのかもしれ
ない。そのとき、僕自身はどうなっているの
か、ちょっと楽しみ だ。【0】

(言葉の森長文作成委員会 ι)∵
 【1】芙蓉の花のめしべとおしべの位置関
係は自花受粉をさけ他花受粉を求める形だっ
たわけです。【2】もっとも、めしべとおし
べの間がはなれているとは言っても、わずか
のへだたりであり、こん虫が自花の花粉をめ
しべに運ぶこともあるでしょうから、自花受
粉をさけるための確率はあまり高くありませ
ん。
 【3】しかし、もっと効果的に自花受粉を
さけ、他花受粉の機会をふやすための特殊な
方法を持っている両性花もあるのです。
 特殊な方法とは、めしべとおしべの成熟す
る時期をずらしていることです。【4】これ
は、雌雄異熟と呼ばれている現象で、めしべ
が先に熟し花粉を受精できる状態になってい
るのに、自花のおしべは熟していない(花粉
を出さない)――こういう仕組みのものを雌
性先熟(しせいせんじゅく)といい、逆の場
合を雄性先熟(ゆうせいせんじゅく)と言い
ます。【5】どちらもかなり高い確率で自花
受粉をさけることができますが、この確率を
もっと高めるために、もう一つ変わった方法
を駆使する両性花もあります。
 【6】たとえば、タツノタムラソウという
花の場合は、おしべが先に熟して(雄性先熟
)、花粉を出している間、めしべは、おしべ
の先(やく=花粉を生ずる部分)からできる
だけ遠ざかるように後方に反り返っています
。【7】おしべが花粉を出しつくした頃、め
しべは真直ぐにのびます。雌雄異熟が時間差
法ならば、この場合は高級な空間差法でしょ
うか。
 【8】こうまでして花が自花受粉をさける
のは、すでに述べた通り、いい種子を得るた
めですが、一体、なぜ自花の花粉より他花の
花粉を求めるのでしょうか。
 私の仮定ですが、生命というものは、自己
に同意し自己との結合をくり返している末に
は多分、衰滅してしまうものです。【9】そ
ういう成りゆきを避けるために、生命はあえ
て異質の他者を生殖過程中に取りこむのでは
ないか、花が他花受粉を求めるのも、異質な
他者の因子と結合することで自己改造を継続
してゆくのではあるまいか、そのように思う
のです。【0】