長文集  5月1週  ○「時間」は比較的最近になって(感)  na-05-1
    毎日1ページ音読しましょう。漢字はふりがなをつけずに読めるようにしておきましょう。  2017/03/14 11:25:51
 【1】僕の机は、兄からもらったものだ。
しっかりした作りで茶色く光っている。よく
見ると、何かのシールをはってはがした跡が
ある。
 ぼくがそれまで使っていた机は、小さくて
、机の上に資料を並べきれないことがよくあ
った。【2】すると、それを見ていた母が、
「お兄ちゃんの机と交換したら」と言ってく
れた。兄は、近所にいる人が遠くの学校に行
くようになったので、その机をもらうように
なったらしい。
 こうして、僕は、兄の大きい机を使うこと
になった。【3】大変だったのは、これまで
の机の引き出しの中にある細々としたものを
移す作業だった。引き出しの中身を出してみ
ると、いろいろ懐かしいものが出てきた。い
ちばんの収穫は、なくしたとばかり思ってい
たキラカードが出てきたことだ。【4】これ
は、小学校二年生のころに熱中したもので、
もう今では遊ばないが、ぼくにとっては大切
な宝物(たからもの)だった。中身を移した
これまでの机は、もう古くなっていたので、
粗大ゴミに出すことになった。
 その晩、父が帰ってきて、ぼくの机を見て
言った。
【5】「おお、お兄ちゃんの机にしたのか。
今の子は、いいなあ。お父さんのころは、み
んな、食卓で勉強をしたんだぞ。」
 父が小学生のころ、食事のあとのテーブル
で学校の宿題の作文を清書していたらしい。
【6】最後の一枚を仕上げて、「やっとでき
た。万歳(ばんざい)」と手を上げたときに
、近くの醤油を作文の上にこぼしてしまった
。それを見た祖母が、「一度はきれいに書い
たんだから、いいんじゃない」と言ってくれ
たので、父は醤油を拭いてそのまま提出する
ことにした。【7】翌日、担任の先生はその
作文を見ると、「これは味のある作文だ」と
言って大笑いしたらしい。ぼくは、その話を
聞いて、何だか昔ののどかな映画を見ている
ような気がした。∵
 数日後、粗大ゴミとなった昔の机の回収日
が来た。【8】朝早 く、ぼくと母は、机を
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指定の場所に運んだ。中身が空っぽになった
机は、仕事をすっかり終えたおじいさんのよ
うだった。ぼくが学校に行くときも、机はま
だそのままだった。
 その日の授業を終えて家に戻るとき、朝、
机を置いた場所を見ると、そこにはもう何も
なかった。【9】そのとき、僕は、その机は
僕の友達だったのだなあと分かった。
 家に入ると、兄からもらった新しい茶色の
机があった。それを見ていると、昔の机が遠
くからこう語りかけてくるようだった。【0

「これまで長い間、ありがとう。僕の仕事は
新しい机君に引き継いだから大丈夫。」
 ぼくは、うんとうなずくと、新しい机の上
に静かにカバンを置いた。

(言葉の森長文作成委員会 Σ)