長文 4.4週
1.【長文が二つある場合、読解問題用の長文は一番目の長文です。】
2. いったい、ジャングルの破壊はかいは何が原因げんいんなのでしょうか。
3. こうした地球的規模きぼの問題には、次にあげるふたつの大きな、根本的な原因げんいんがあると思います。ひとつは、ジャングルがある国はいずれも発展はってん途上とじょう国であり、貧しいまず  こと。もうひとつは、先進国のむだの多いライフスタイル(暮らしく  方)です。
4. まず発展はってん途上とじょう国の場合は、人口増加ぞうかにともなって、ジャングルを大規模きぼに切り開いて農地にしたり、都市の人々を移住いじゅうさせたりしています。またたきぎ木の消費量が多くなり、森がどんどんへっているため、女性じょせいは何時間もかけて遠くの森までたきぎ木を拾いに行かなくてはならないような状況じょうきょうも生じています。たきぎ木が手にはいりにくくなったからといって、燃料ねんりょうをガスや電気にかえることもできません。こうした結果が、ジャングルの破壊はかいにつながっているケースもあります。
5. また発展はってん途上とじょう国にとっては、ジャングルの木々が重要な資金しきんげんでもあります。ジャングルは自然がつくったものですから、新たに何かをつくり出す必要がなく、切って輸出ゆしゅつすればお金になります。マレーシア、インドネシア、フィリピンなど、ジャングルの破壊はかいが大きな問題になっている国では、いずれも木材の輸出ゆしゅつが国の経済けいざいの柱となっています。
6. しかし発展はってん途上とじょう国の経済けいざい支えるささ  熱帯の木材も、価格かかくは今、戦後最低です。結局、今の世界全体の経済けいざい構造こうぞうそのものが、豊かゆた な先進国が動かしているような感じですから、いつも買いたたかれてしまうんです。安いから、いくら切って売っても、たいしてお金にはならなくなってしまっています。
7. ただでさえ苦しい国の経済けいざい状況じょうきょうに加えて、外国からの借金も返さなくてはなりません。そのためには、ジャングルを伐採ばっさいするのもいたしかたない、伐採ばっさいをやめるわけにはいかないという事情じじょうがあるのです。
8. そのいっぽう、豊かゆた な先進国では使い捨てつか す のものがふえるなど、∵むだの多い暮らしく  方が広まっています。これも、ジャングルを減少げんしょうさせているのです。
9. たとえば、ファストフードの代表かくであるハンバーガー。とくに欧米おうべいのハンバーガーをつくるための安い牛肉は、中南米産がほとんどです。中南米のジャングルは、この肉牛用の大規模きぼな牧場建設けんせつのために、半分以上がなくなってしまったのです。
10. 豊かゆた な先進国では、ハンバーガーを食べなくても、他に栄養げんはいくらでもあります。木材にしても、なにも熱帯の木でなくてもかまわないでしょう。つまり、先進国の人々には選択せんたく余地よちがいくらでもあり、その暮らしく  方を少し変えさえすれば、ジャングルの減少げんしょう破壊はかいをくいとめられます。
11. 焼畑農業にしてもそうですが、これまでジャングルの伐採ばっさいに関する主だった研究は、先進国の人間によって行われてきました。出版しゅっぱんされた本も、先進国の立場から見たものが多かったのです。
12. 過去かこにこんな例がありました。先進国によってジャングルに木を植えるという試みが行われたのですが、木は育ったものの、ジャングルに住む人々にとっては、ちっとも役に立たなかったのです。
13. 植えられた木はやせ地でも、比較的ひかくてき育ちやすく、生長の早いユーカリやアカシアなどでした。これらの木は、二年もたてば五メートルくらいになるのです。ところが早く、大きく育つのは結構けっこうなのですが、これらの木が他の木に必要な養分も全部奪っうば てしまいます。ですからそこは、ユーカリやアカシアだけの森となり、もとのジャングルとはても似つかに  姿すがたになってしまうのです。そんな森には、動物や鳥もすみつかなくなるでしょうし、そうなったら、人々はその森から食べ物はおろか、肥料ひりょう飼料しりょうも得られなくなってしまいます。
14. この例からもわかるように、「科学」や「技術ぎじゅつ」、「開発」とはなにか、だれのためのものか、あらためて考え直してみることが必要だと思います。

15.(生きている森編集へんしゅう委員会へん「未来の森 森があぶない」)∵
16. 【1】電車や飛行機の中で、乗務じょうむ員に対して理由もなく横柄おうへいな人がいる。こっけいだ。乗せてもらわなくては困るこま くせに、何をいばっているのだろう。きゅう国鉄の内部には「乗せてやる」という言い回しがあったそうで、それもひどい勘違いかんちが だと思うけれど。
17. 【2】「いや、お客は偉いえら 。買う時は、だれもが王様になる」という考え方もあるだろう。しかし、それだと無用のストレスが社会に広がりそうで、賛同さんどうしかねる。王様やお姫様 ひめさまの気分にしてあげることを目的とした一部のサービス業を例外として。
18. 【3】子供こどものころ、駄菓子だがし屋でキャラメルを買う時や、食堂で親が精算せいさんをしている時、「買ってやったぞ」とお客様面をしていた。高度経済けいざい成長期に育ったので、小学生でもいっぱしの消費者として扱わあつか れた結果と言える。【4】そんなわたし現在げんざいのように「転向」したのは、自分が社会に出て接客せっきゃく現場げんばにいたせいだろうが、それに先立つ経験けいけんもある。
19. 中学生になるかならずかという夏休み。両親の郷里きょうりである高松で過ごしす  源平げんぺい合戦で有名な屋島に遊びに行った。【5】三つ年下の弟と二人だったように思う。平日のことで山上に人は少なかった。蝉しぐれせみ   の遊歩道を散策さんさくしたわたしは、ある光景に出くわす。
20. 休憩きゅうけい所の店先に帽子ぼうしをかぶったおじさんが立ち、中をのぞいていた。五十代ぐらいの人だったのではないか。【6】連れはいなかった。うどんでも食べて店を出ようとしていたらしい。おじさんは財布さいふ片手かたてに、店のおくに向かって言った。「ごちそうさまぁ」
21. 意外な言葉だった。代金を払おはら うとしているのに店員の姿すがたが見当たらない場合、とりあえず「すみませーん」と呼びかけるよ    ものだと思っていた。【7】いや、それしか思いつかなかった。なのに、このおじさんは無料でもてなされたかのように「ごちそうさま」と言う。一瞬いっしゅんだけ違和感いわかんを覚えた後、わたしの内に変化が起きた。
22. 自分のために料理を作ってくれたのだから、お客として代価だいか支払うしはら としても「ごちそうさま」と言うのが礼儀れいぎにかなっている。∵【8】考えたこともなかったけれど、それはそうだと納得なっとくし、お客は偉いえら わけではない、と知ったのだ。
23. 後日、食堂だかレストランだかで食事をして店を出る時に、わたしは小声でぎこちなく「ごちそうさま」と言ってみた。【9】すると、照れくさい気もしたが、それだけのことで一歩大人に近づいたように感じた。以来、店側に不始末がないかぎり「ごちそうさま」を言い添えそ ている。
24. 屋島で見た何でもないひとコマが、わたしを少しだけ変えた。あのおじさんには、今も感謝かんしゃしている。【0】先方は、すれ違っ  ちが ただけの少年に何事かを教えたとはゆめゆめ思っていないだろうが、大人の言動が子供こどもにあたえる影響えいきょうは、かほど大きいのだ。平素へいそから心しておかなくてはならない。
25. 書店員をしていて、いろんな人と遭遇そうぐうした。ブックカバーをつけただけで「どうもありがとう」と言ってくれる人ばかりではない。ささいな行き違いい ちが 激昂げきこうし、アルバイトの大学生に「おれは客やぞ。社長に電話したろか!」と金切り声でさけぶ小学生をなだめたこともある。根性こんじょうの曲がったガキだな、と思いつつ、君はろくな大人と会ったことないんだね、とかわいそうになった。

26.(有栖川ありすがわ「お客は偉くえら ない」『二〇〇七年七月二十九日 日経新聞にっけいしんぶん文化面コラム』)