【1】青い空をジェット機が飛んでいくの を見て、「樋口さん、どうしているかなあ」 と考える。 樋口さんが引っ越していったのは、つい先 月のことだ。何度も同じクラスになった親友 だから、一緒に卒業したかったけれど、それ はできなかった。【2】お父さんの仕事の都 合で、ハワイに行ってしまったのだ。 同じ日本の中ならともかく、海を越えた遠 くにまで行ってしまうというのは、正直実感 が持てなかった。驚きすぎて「ハワイってど このハワイ?」などと言ってしまったほどだ 。 【3】樋口さんも不安でいっぱいだったよ うだ。 「言葉が通じないんだから、きっと新しい友 達なんてできないよ……。」 引っ越す前、ふだんは明るい彼女がそんな 弱音を吐いていたことが、今でも忘れられな い。 【4】なんとか樋口さんを元気づけたくて 、私は自分がハワイに旅行したときのことを 話してあげた。本当は、それはずっと小さい ころの話で、記憶はかなりあいまいだった。 けれども、私はよいイメージばかりを思い浮 かべて、明るく自信満々に次から次へと話を した。 【5】言葉は通じなくても、ハワイの人は 「アロハ」の言葉ですぐに打ち解けてしまう 。体も心も大きい人が多くて、すごく安心で きる。それに食事がおいしい。ハワイの料理 は、見た目も豪快で華やかだし、飽きること がない。【6】何よりハワイは、日本の夏と 違って、じめじめ蒸し蒸ししない。からっと していてとても気持ちがよい。そんなところ で、しかも、毎日きれいな海で泳げるなんて 最高だ。 「それにね、ハワイでも日本語を勉強してい る人がいっぱいいるんだよ。」∵ 【7】とどめとばかりに私がそう言うと、 ついに樋口さんの顔色が明るくなった。私は そのとき、重く沈んだ樋口さんの気持ちを一 本釣りで引き上げたかのような晴れ晴れした |
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気持ちになった。 【8】ハワイにいる日本の子供たちが、故 郷の言葉を忘れないように熱心に日本語を学 んでいるという話は、昔、先生から聞いたこ とがあった。そういう人がたくさんいるなら 、きっとすぐに仲よくなれるし、助け合うこ とだってできるはずだ。【9】だから、私が いなくても心配することなどないんだ……。 私の奮闘の甲斐あって、樋口さんは元気に ハワイへ旅立っていった。そろそろ最初の手 紙が届くころだと思う。新しい友達ができた だろうか。それはどんな人だろうか。【0】 楽しみでもあり、ちょっぴり寂しいような思 いもある。 一緒にいることだけが友達ではない。離れ 離れになったとして も、何かをしてあげら れることが大切なのだ。私は、そんなことが 分かった気がした。 (言葉の森長文作成委員会 ι) |