ナツメ の山 4 月 1 週 (5)
○たとえば粗大ゴミの   池新  
 【1】青い空をジェット機が飛んでいくのを見て、「樋口さん、どうしているかなあ」と考える。
 樋口さんが引っ越していったのは、つい先月のことだ。何度も同じクラスになった親友だから、一緒に卒業したかったけれど、それはできなかった。【2】お父さんの仕事の都合で、ハワイに行ってしまったのだ。
 同じ日本の中ならともかく、海を越えた遠くにまで行ってしまうというのは、正直実感が持てなかった。驚きすぎて「ハワイってどこのハワイ?」などと言ってしまったほどだ。
 【3】樋口さんも不安でいっぱいだったようだ。
「言葉が通じないんだから、きっと新しい友達なんてできないよ……。」
 引っ越す前、ふだんは明るい彼女がそんな弱音を吐いていたことが、今でも忘れられない。
 【4】なんとか樋口さんを元気づけたくて、私は自分がハワイに旅行したときのことを話してあげた。本当は、それはずっと小さいころの話で、記憶はかなりあいまいだった。けれども、私はよいイメージばかりを思い浮かべて、明るく自信満々に次から次へと話をした。
 【5】言葉は通じなくても、ハワイの人は「アロハ」の言葉ですぐに打ち解けてしまう。体も心も大きい人が多くて、すごく安心できる。それに食事がおいしい。ハワイの料理は、見た目も豪快で華やかだし、飽きることがない。【6】何よりハワイは、日本の夏と違って、じめじめ蒸し蒸ししない。からっとしていてとても気持ちがよい。そんなところで、しかも、毎日きれいな海で泳げるなんて最高だ。
「それにね、ハワイでも日本語を勉強している人がいっぱいいるんだよ。」∵
 【7】とどめとばかりに私がそう言うと、ついに樋口さんの顔色が明るくなった。私はそのとき、重く沈んだ樋口さんの気持ちを一本釣りで引き上げたかのような晴れ晴れした気持ちになった。
 【8】ハワイにいる日本の子供たちが、故郷の言葉を忘れないように熱心に日本語を学んでいるという話は、昔、先生から聞いたことがあった。そういう人がたくさんいるなら、きっとすぐに仲よくなれるし、助け合うことだってできるはずだ。【9】だから、私がいなくても心配することなどないんだ……。
 私の奮闘の甲斐あって、樋口さんは元気にハワイへ旅立っていった。そろそろ最初の手紙が届くころだと思う。新しい友達ができただろうか。それはどんな人だろうか。【0】楽しみでもあり、ちょっぴり寂しいような思いもある。
 一緒にいることだけが友達ではない。離れ離れになったとしても、何かをしてあげられることが大切なのだ。私は、そんなことが分かった気がした。

(言葉の森長文作成委員会 ι)