長文 7.1週
1. 【1】野生の動物は、いつもたくましく生きている。ペットの動物たちとは違いちが 、常にらんらんと目を輝かかがや せ、獲物えものを追い求め、あるいは獲物えものとなることから逃れのが 、自分たちの子孫を残すために精一杯せいいっぱい生きている。【2】この情熱的な生き方を、私たち人間も、もっと見直す必要があるのではないだろうか。
2. その理由は第一に、情熱的に生きることが、人間にとっても本当の喜びにつながると思うからだ。数年前、家族で山に登ったことがある。【3】山頂近くにある山小屋に泊まると  予定だったが、途中とちゅうの山道で雨が降り始め、やがて大雨になった。全身ずぶ濡れ  ぬ になったまま歩くこと数時間、やっと山小屋にたどり着き、冷え切った体を乾かしかわ  、お湯を沸かしわ  て紅茶を飲んだ。【4】そのときの一杯いっぱいの紅茶は、生き返るという言葉がぴったりするような味だった。クーラーや暖房だんぼうの効いた部屋で、気に入った音楽を聴きき ながらゆっくり飲む紅茶とはまた違っちが た、生きている実感のわく味だった。【5】情熱的に生きるということを考えるとき、この山登りと紅茶の味を思い出す。
3. 第二の理由は、情熱的に生きることによって、自分の持ち味を十分に発揮した生き方ができるということだ。【6】戦国時代という下剋上げこくじょうの激しかった時代は、日本人がだれでも自分の実力で生きていかなければならない時代だった。その時代に生きた戦国大名たちは、現代から見るとそれぞれ個性に溢れあふ 魅力みりょくある人物に見える。【7】よく、信長、秀吉ひでよし、家康の三通りの生き方を人間の生き方の三つの代表的な類型とすることがある。そこに見られる個性は、その三人が、地図も道もない言わば野生の世界で、自分の手で道を切り開いて生きるために、持ち味を生かさざるを得なかったことから生まれたものだ。∵
4. 【8】確かに、社会保障のもとで安心して暮らせる人生というものも、人類がこれまでの長い歴史の中で達成してきた成果である。特に、昔のような農業中心の社会ならいざ知らず、今日のように工業化され経済的な格差が広がりやすい社会では、最低限度の生活を国が保障する仕組みというものは欠かすことができない。【9】だから、大事なことは、底辺はしっかりと保護するものの、それよりも上の部分については規制を撤廃てっぱいして自由な競争に任せることだ。自由な社会でそれぞれが自助の精神で物事にあたるならば、それは野生動物のように生きている実感を呼び起こすことにつながるだろう。【0】情熱とは、単に心の持ち方で生まれるものではなく、行動の中から生まれるものだ。私もまた、安全な道を求めるのではなく、自分の力で道を切り開く自分にしかない生き方をしていきたい。

5.(言葉の森長文作成委員会 Σ)