イバラ の山 9 月 2 週 (5)
○そのときでした(感)   池新  
 【1】そのときでした。
「こらっ、おまえなんかに、水をのまれてたまるもんか。きたならしい。むこうへいってしまえ。」
 【2】きんじょの男がたけのぼうで、こじきをおいはらいました。
 ガンジーは、もう、がまんができませんでした。
【3】「おじいさん、まって。ぼくが、くんであげるよ。」
 ガンジーは、いそいで水をくみあげると、こじきをやさしくつれもどしてきました。

【4】「ぼっちゃん、ありがとうございます。」
 年よりのこじきは、ぽろぽろなみだをこぼしながらも、さもおいしそうに水をのみました。【5】やせた犬も、ぺちゃぺちゃ水をのむと、さもうれしそうにガンジーの顔を見あげるのでした。
 ガンジーは、みんながじぶんを見ているのに気がつくと、まっかになって、家へかけこみました。

 【6】ゆうごはんのあとで、ガンジーは、おとうさんにきょうのはなしをくわしくしました。ガンジーのおとうさんは、インドで高いくらいについているやくにんでした。【7】そのおとうさんは、にこにこすると、
「おお、おまえは、よいことをしてくれた。かわいそうな人をたすけるのは、人間のつとめなんだ。よいことをするのに、しりごみしていてはいけない。【8】よくやったね。きょうのおこないは、ゆうきがあって、りっぱなものだ。おまえは、よわむしでもなければ、いくじなしでもないのだ。大きくなっても、ただしいことをするそのゆうきをなくしてはいけない。」

 【9】いつも、じぶんをいくじなしだとばかり思っていたガンジーは、はじめてそうでないことがわかりました。そして、むねが、すーっとあかるくなるのでした。【0】

(二反長半(にたんおさなかば)編 白木茂著 「美しい話・いじんの心」より)