イバラ の山 8 月 1 週 (5)
初めて打った太鼓   池新  
 【1】明日は、神社のお祭りがあります。天王様(てんのうさま)と呼ばれているお祭りです。おじいちゃんが子どものころからずっと続いているお祭りだそうです。毎年、子どもたちは、水色の法被を着て神社に集まります。【2】私も友だちも、天王様(てんのうさま)をとても楽しみにしています。
 神社からは、お囃子の笛の音が聞こえてきました。明日の練習をしているのです。太鼓の音もドンドンとおなかの底に響きます。【3】お兄ちゃんが、
「ちょっと見てこよう。」
と言うので、私もついていくことにしました。
「太鼓、たたいてみるか。ほれ。」
 そう声をかけられて振り向くと、お父さんの友だちの中村さんがいました。【4】お兄ちゃんは、
「え、やっていいの? やらせて、やらせて。」
と、大喜びでバチを貸してもらいました。
「ドン、ドン、ドン」
 お兄ちゃんは三回、大きく打ちました。中村さんは、
「もっと思い切ってたたかないと、いい音は出ないぞ。それ、もう一回。」
と言いました。【5】お兄ちゃんはもう一度、腕を大きく上げて打ちました。
「ドーン、ドーン」
 今度はおなかに響く音です。ほかのおじさんも、
「うまいなあ。明日、たたいてみるか。」
と笑っています。褒められたお兄ちゃんは、ちょっぴり得意そうです。
 【6】しばらく打って満足したのか、
「お前もやる?」
と、私にバチを手渡してくれました。お兄ちゃんみたいに上手に∵できるかなあと心配でしたが、私も思い切り打ってみました。
「ドーン。」
 自分でもびっくりするくらいいい音がでました。
【7】「おお、こりゃすごいぞ。」
 おじさんたちが拍手してくれました。
「笛、吹いてみるから、ちょっと合わせてみろ。」
 そう言って、赤い顔のおじさんが笛を口に当てました。お囃子のメロディーは小さなころから聞いているので、どこで太鼓を打つかも知っています。
【8】「ピーピピーピピーピ」
「ドンドン」
 私は、思い切り打ちました。メロディーに合わせて、
「ドドン、ドドン、ドンドン」
と続けます。
「うわあ、楽しい。」
 いつのまにかとてもいい気分でたたいていました。【9】いつまでもたたいていたい気分でした。
 お母さんは、よく私のことを恥ずかしがりやだと言います。私もそうだと思っていました。でも、恥ずかしがりやの私はどこかへ行(い)ってしまったみたいでした。【0】

(言葉の森長文(ちょうぶん)作成委員会 ω)