イバラ の山 7 月 2 週 (5)
○右と左   池新  
 鏡をつかっておもしろいことをしてみましょう。あなたの顔が正面から大きく写っている写真を用意します。それから、目のまんなか、鼻、口を通る顔の中心線の上に鏡を立てます。写真の半分と鏡に映ったその半分とを合わせると、片方の側だけからできた左右対称の顔になります。鏡の向きを変えると、もう片方の側でも同じことができます。
 右側だけでできた顔と左側だけでできた顔とでは、かなりちがった印象を受けます。目の大きさやほっぺたの形など、右と左では意外に大きく異なっているのです。
 顔だけではありません。人の体は、左右対称に思えますが、実は少しちがっていて、手足の長さや筋肉のつきかたなども同じではないのです。
 人がまっすぐに歩くのは当たり前のようですが、実は目で周りの景色を確かめながら体の向きをコントロールしています。そのため、視界のきかない吹雪のときなど、ただやみくもに進んでいくと、弱い足の方に少しずつ曲がっていってしまいます。そして、長い時間歩いたあげく、結局最初と同じ地点にもどってしまうこともあるのです。
 内臓では、右と左はもっとちがいます。たとえば心臓は体の少し左側にあります。赤ちゃんを抱(だ)くときに、お母さんは自然と赤ちゃんの頭が心臓の近くにくるように抱(だ)きます。赤ちゃんはお母さんのおなかの中にいるとき、お母さんの心臓の音をずっと聞いていたので、この音を聞くと安心するのかもしれません。
 右と左の違いは、普段の生活でも役に立ちます。例えば、野球をするとき、右利きの人は、左手でボールをキャッチし右手でボールを投げます。リンゴの皮をむくときは、左手でリンゴを支え右手で包丁を動かします。人間の体は、右と左の違いをうまく生かしているのです。

 ここで一句。
「ウインクを 両目でしたら ただのまばたき」

 言葉の森長文(ちょうぶん)作成委員会(α)