イバラ の山 7 月 1 週 (5)
踏み外した階段   池新  
 【1】キンコーンカンコーン、キンコーンカーンコーン。
 チャイムがなるのと同時に、ぼくは教室のドアを飛び出しました。今日の中休みは、校庭で鬼ごっこをすることにしていました。少しでも長い時間遊びたかったので、一番乗りで校庭にかけつけるつもりでした。
 【2】ぼくの教室は三階です。ドアを飛び出し右へ曲がり、階段まで全速力で走ります。階段の前で急ブレーキをかけると、キキキキーと上履きが廊下にこすれる音がしました。まるで自分が車になったような気分です。
 【3】ここまではぼくが一番です。うしろに、ヒロトとフミヤが続きます。これは負けていられないぞ。ぼくは、心の中で思いました。
 ぼくは、階段を二段抜かしで降りることにしました。二階までは順調に飛ばしました。【4】ところが、二階から一階へ降りる途中で、階段を踏み外してしまいました。一瞬、何が起きたのかわからないまま、ぼくは踊り場まで転がりました。
「いてえ。」
 ぼくは腰を押さえながら起き上がりました。【5】ヒロトとフミヤは心配そうにぼくの顔をのぞき込みながら、
「大丈夫? 血が出てるよ。」
と言います。ずきずき痛い足をふと見てみると膝から血が出ていました。
「あーあ、これじゃ、保健室行きだな。ちょっと行ってくるよ。」
【6】ぼくはそう言って、一階にある保健室に向かいました。ぼく一人で行こうと思ったのに、ヒロトとフミヤもついてきました。
「あら、どうしたの? 怪我?」
保健室の田上先生は、ぼくとすっかり仲良しです。【7】どうしてかというと、ぼくはしょっちゅう怪我をして保健室に行くからです。∵
「階段でこけちゃった。」
ぼくは恥ずかしそうに言いました。
「気をつけないと、ほんとうに危ないのよ。階段は走らないこと。顔を怪我しなくてよかったね。【8】かっこいい顔が台無しになっちゃうわよ。」
と、先生は優しく注意しました。怪我を消毒するときは、とてもしみて、悲鳴をあげそうになりました。でも、格好が悪いので我慢しました。【9】怪我をしたのはぼくなのに、ヒロトとフミヤも、なんだか痛そうな顔になっていました。
「ごめんな。遊べなくなっちゃったな。」
と言うと、二人とも、
「いいよ。また、明日やろう。」
と言ってくれました。明日は転ばないように、もう一度階段をかけおりるぞとぼくは思いました。【0】

(言葉の森長文(ちょうぶん)作成委員会 ω)