長文集  12月1週  ○人間には、身体的な(感)  hu2-12-1
    毎日1ページ音読しましょう。漢字はふりがなをつけずに読めるようにしておきましょう。  2010/07/27 14:07:21
 【1】人間には、身体的なエネルギーだけ
ではなく、心のエネルギーというものもある
、と考えると、ものごとがよく了解できるよ
うである。【2】同じ椅子に一時間座ってい
るにしても、一人でぼうっと座っているのと
、 客の前で座っているのとではつかれ方が
まったくちがう。【3】身体的には同じこと
をしていても「心」を使っていると、それだ
け心のエネルギーを使用しているのでつかれ
るのだ、 と思われる。
 このようなことはだれしもある程度知って
いることである。そこで、人間はエネルギー
の節約につとめることになる。【4】仕事な
ど必要なことに使うのは仕方ないとして、不
必要なことに、心のエネルギーを使わないよ
うにする、となってくると、人間が何となく
無愛想になってきて、生き方にうるおいがな
くなってくる。【5】他人に会うたびに、に
こにこしていたり、相手のことに気をつかっ
たりするとエネルギーの浪費になるというわ
けである。ときに、役所の窓口などに、この
ような省エネの見本のような人を見かけるこ
とがある。【6】まったくもって無愛想に、
じゃまくさそうに応対をしているのである。
そのくせ、つかれた顔をしたりしているとこ
ろが、おもしろいところである。
 【7】これとは逆に、エネルギーがあり余
っているのか、と思う人もある。仕事に熱心
なだけではなく、趣味においても大いに活躍
している。他人に会うときも、いつも元気そ
うだし、いろいろと心づかいをしてくれる。
【8】それでいて、それほどつかれているよ
うではない。むしろ、人よりは元気そうであ
る。
 このような人たちを見ていると、人間には
生まれつき、心のエネルギーをたくさんもっ
ている人と、少ない人とがあるのかな、と思
わされる。【9】いろいろな能力において、
人間に差があるよう に、心のエネルギー量
というのにも生まれつきの差があるのだろう
か。これは大問題なので、今回は取りあげな
いことにして、もう少し他のことを考えてみ
よう。
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
16
17
18
19
20
21
22
23
24
25
26
27
28
29
30
31
32
33
34
35
36
37
38
39
40
41
42
43
 【0】他との比較ではなくて、自分自身の
ことを考えてみよう。たとえば、自分が碁が
好きだとして、碁を打っているために使用さ
れる心のエネルギーを節約して、もう少し仕
事の方に向けようと考えてみるとしよう。そ
こで、友人と碁を打つ回数を少なくして、仕
事に力を入れようとして、果たしてうまくゆ
くだろうか。あるい は、今まで運動などま
ったくしなかったのに、ふと友人にさそわれ
てテニスをはじめると、それがなかなかおも
しろい。だんだんと熱心にテ∵ニスの練習に
打ちこむようになる。そんなときに、仕事の
方は、前より能率が悪くなっているだろうか
。あんがい、以前と変わらないことが多い。
テニスの練習のために、以前よりも朝一時間
早く起きているのに、仕事をさぼるどころか
、むしろ、仕事に対しても意欲的になってい
る、というときもあるだろう。
 もちろん、ものごとには限度ということが
あるから、趣味に力を入れれば入れるほど、
仕事もよくできる、などと簡単には言えない
が、ともかく、エネルギーの消耗を片方でお
さえると、片方で多くなる、というような単
純計算が成立しないことは了解されるであろ
う。片方でエネルギーをついやすことが、か
えって他の方に用いられるエネルギーの量も
増加させる、というようなことさえある。
 以上のことは、人間は「もの」でもないし
「機械」でもない、生きものである、という
事実によっている。
 人間の心のエネルギーは、多くの「鉱脈」
のなかにうずもれていて、新しい鉱脈をほり
当てると、これまでとは異なるエネルギーが
供給されてくるようである。このような新し
い鉱脈をほり当てることなく、「手持ち」の
エネルギーだけにたよろうとするときは、確
かに、それを何かに使用すると、その分だけ
どこかで節約しなければならない、という感
じになるようである。
 このように考えると、エネルギーの節約ば
かり考えて、新しい鉱脈をほり当てるのをお
こたっている人は、宝の持ちぐされのような
ことになってしまう。あるいは、ほり出され
ないエネルギーが、底の方で動くので、何と
なくイライラしていたり、時にエネルギーの
暴発現象を起こしたりする。これは、いつも
無愛想に、感情をめったに表に出さない人が
、ちょっとしたことで、カッとおこったりす
るような現象としてあらわれたりする。
 自分のなかの新しい鉱脈をうまくほり当て
てゆくと、人よりは相当に多く動いていても
、それほどつかれるものではない。それに、
心のエネルギーはうまく流れると効率のいい
ものなのである。他人に対しても、心のエネ
ルギーを節約しようとするよりも、むしろ、
上手に流してゆこうとする方が、効率もよい
し、そのことを通じて新しい鉱脈の発見に至
ることもある。心のエネルギーの出しおしみ
は、結果的に損につながることが多いもので
ある。