長文集  10月2週  ★自分のよさを見つけて(感)  hu2-10-2
    毎日1ページ音読しましょう。漢字はふりがなをつけずに読めるようにしておきましょう。  2012/06/15 08:09:22
 【1】自分のよさを見つけていくというの
は、案外に、他人のよさを見つけていくこと
よりも、難しい。だれでも、多少はうぬぼれ
はあるものだが、自分のよさを見つけていく
のは、それとまた別 だ。
 【2】たいていは、よいところといやなと
ころは、重なりあっているものだが、他人に
ついては、そのよさが目だってうらやまし 
く、自分のほうでは、いやな部分が目につい
て、それを他人にかくしたくなる。
 【3】なにごとにも、よいことと悪いこと
とが重なっていると言っても、それを恐れて
、なにもしないのは、もっと悪い。自分に、
よさと悪さが重なっていても、それを人に見
せまいと思ってかくしているのは、もっと悪
い。
 【4】中学生あたりでは、自分にはイヤな
性格があると思いこ み、それを他人に見せ
まいとイイコぶるのに疲れはてていること 
が、よくある。イヤなところを見せては、他
人にきらわれるのではないかと、それがこわ
くて内にひきこもっていることもある。【5
】実際はたいてい、イヤなところを見せるよ
り、イヤなところを見せまいと引きこもって
るほうが、よほど他人にきらわれる。
 それに、そのイヤなことというのは、自分
が思うほどには、他人にいやがられるもので
はない。【6】かりに、本当に他人にきらわ
れるとしても、そこをさらけだして、あの人
はいやな人だ、しか し、おもしろい人だ、
とまでならなくては、一生イジイジし続けね
ばならない。【7】そして、なんのイヤミも
ないと他人に好かれ る、というのは、あま
りないし、あってもたよりない感じで、イヤ
なところがあるが気に入った、といった目で
見られるようになるほうが、ずっと味のある
人柄になる。
 【8】だれにも悪口を言われないようにし
ている人というのは、そのこと自体で、みん
なからよく思われない。【9】他人を意識し
はじめた中学生のころに、他人の悪口が特別
に気になるのは仕方がないにしても、悪口を
言われないようにしようという、その態度自
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身が他人の悪口の材料になりやすい、という
事実には早く気づいたほうがよい。
 【0】少し楽観的なのかもしれないが、人
間というものは、本来はそれぞれの性格を持
ち、それぞれの才能や容姿を持ち、それはい
いところと悪いところが重なりあって、他人
から見れば好かれたりきらわれたりしながら
も、それがそのまま生きていれば、たいへん
おもしろいものだ、とぼくは考えている。人
間がその人らしく生きているさまというのは
、すべておもしろい。
 自分は、自分のようにしか生きられない。
そして、本当にそのよ∵うに生きているのは
、おもしろい。他人よりもまず、自分が自分
をよく見ることができれば、自分にとってお
もしろい。そして、これがぼくの一番楽観的
なところかもしれないが、本当に自分を楽し
んでおもしろく生きている人は、他人が見て
もおもしろい。そし て、他人だって、おも
しろいからには、きみを好ましく思ってくれ
るはずだ。
 才能や容姿だって、自分自身を出したほう
が、ずっとよい。たとえば、アメリカの黒人
は、昔は白人のようになろうと、肌を白くし
ようとしたり、髪の毛をまっすぐしようとし
ていたが、それは少しも美しくなかった。黒
人が美しくなりだしたのは、ブラック・イズ
・ビューティフルと、自分自身を出しはじめ
てからである。そしていまでは、テレビのコ
マーシャルでも、黒人が魅力的な姿を見せて
いる。自分を出しているものは、美しいのだ

 いろんな才能だって、その人にしかない味
が出せるのが最高だろう。日本の昔の芸人な
どで、芸が好きでその道に入ったものの、不
器用で才能がないと言われ続け、それでも芸
から離れられずにいるうちに、ふと気づいて
みると、他のだれとも違った味を持った名人
と言われるようになっていた、なんて話があ
る。それをべつに、努力精進のかいあって、
なんて芸道物語にする必要もあるまい。その
人の味が、その人の芸と一体化してきたとき
、不器用で才能がないように見えても、みん
なが感心するような芸人になってしまってい
たのだ。
 もちろん、若い間は、普通の意味で才能が
あったり、普通の意味で容姿がととのってい
たり、普通の意味で性格がよかったりしたほ
うが、楽に世がわたれる。しかし、一生がそ
うというわけでもな い。
 それに、かりにいま、そうした点で本当に
他人から低く見られているとしても、その自
分を出して、自分にしかないタイプで進んだ
ほうが、自分の才能はよりよく開花する。自
分自身の容姿の特性を生かしてくらしたほう
が、より美しくなれる。自分の性格をかくす
ことなく他人とつきあったほうが、他人がき
みをもっと認めてくれるようになる。

(森 毅(つよし)「まちがったっていいじ
ゃないか」より)