フジ の山 10 月 1 週
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○自由な題名
◎はじめてできたこと
★私の名前、私の好きな遊び

弟の名前、僕の名前
 【1】僕の名前は、太一である。気取った感じがなく、適度に男らしい名前だとひそかに気に入っている。だが、どうしてこういう名前をつけられたのか、くわしいところは自分でも知らなかった。ただ、漢字が簡単なので書きやすくていいな、と思っていたくらいである。
 【2】ところで、人の名前を考えるというのは思った以上に頭を使う、大変な作業だ。実は僕も「名付け親」になった経験がある。弟が生まれた時、お兄ちゃんが名前を決めていいよ、と言われたのだ。この時の奇妙な緊張感といったら今でも忘れることができない。【3】両親に他意はなかったのだろうが、いきなり兄の重責(じゅうせき)を背負わされた思いがした。
 これが、犬や猫の名前ならばいい。欧米風の名前でも、愛称のようなごく簡単な名前でも問題はないだろう。だが、生粋の日本人である弟に「アンソニー」だの「ロマーノ」だのと名付けるわけにはいかない。【4】「タマ」や「クロ」などは論外である。「たまさぶろう」「くろすけ」としたらまだしも人間に近づくが、そんな時代劇のような名前では困る。
 すっかり行き詰まった僕は、父に相談することにした。母はまだ、生まれたての弟と一緒に病院にいた。【5】父はそこまで悩むことはないだろうと笑いながらも、ほかならぬ僕の名前をどうやってつけたかを話してくれた。そこで僕は初めて、自分の名前の由来について知ることになったのである。
 父は、「お前の誕生日は、何月何日だ」と聞いた。【6】僕の誕生日は一月一日、元日である。おめでたいことがいっぺんに来るように、産む時期を決めていたのだという話は前に聞いたことがあった。
「今ではあまり見ないけど、長男に太郎とか一郎という名前をつけるだろう。【7】お前はうちの長男で、しかも一年の最初の日に生まれたから、太郎の太と一郎の一を合わせて『太一』にしたんだよ。」
 そう言って、父はどうだ、おめでたい名前だろう、と胸を張った。安直といえば安直だが、よく考えたものだと僕は感心した。∵【8】その話を聞き、僕もこの方式でいこう、と考えた。弟の誕生日は十月一日だ。それならば……「十」と「一」を合体させた「士」という字を使おう。僕はさっそくそのアイデアを、電話で母に伝えた。
 弟の名前は「英士」に決まった。「えいじ」という読みも僕の考えだ。【9】響きが格好いいし、「太一」と並べた時の語呂も良い。漢字は、両親が字画を見て決めてくれた。
 今では英士も小学校一年生になっている。生意気を言うようになり、怒りたくなることもあるが、兄としてきちんと面倒を見てやりたい。【0】長男を表す「太一」という自分の名前を心に思い浮かべると、その思いがいっそう強くなる。人間の名前とは、生き方にも影響を与えるのだなと思った。

(言葉の森長文(ちょうぶん)作成委員会 ι)