長文集  5月2週  ★個人が集まって社会を(感)  ha2-05-2
    毎日1ページ音読しましょう。漢字はふりがなをつけずに読めるようにしておきましょう。  2012/06/15 08:09:22
 【1】個人が集まって社会を作りあげてい
る。だから、個人をぬきにしては社会はなり
たたないし、考えることもできないというこ
とにまちがいはありません。【2】しかし、
それは砂粒が集まって砂山を作り、歯車やネ
ジが集まって機械を作りあげているのと同じ
でしょうか。あるいは、動物や植物のからだ
が無数の細胞からできあがっているのと同じ
なのでしょうか。【3】個人とは、社会に対
して、砂山を作っている一粒の砂や、機械の
一部分である一つの歯車や、あるいは、生物
のからだをつくっている一つの細胞のような
ものにすぎないのでしょうか。――いいえ、
そこには、けっして同一に考えられない大き
な大きなちがいがあるのです。
 【4】砂粒は喜ぶことも悲しむこともあり
ません。歯車は自分から動くことはできず、
ただ動かされるままに動くだけです。そして
細胞は生きてはいても、自分で考えたり自分
で目的をさだめたりすることはありません。
【5】ところが、ひとりひとりの人間は、喜
んだり悲しんだりする心の持ち主です。また
、自分から動きだし て、ほかのものを動か
してゆく力の持ち主です。【6】自分の選ん
だ目的に向かって、自分の意志で行動してゆ
く能力の持ち主です。石も砂も、草も木も、
人間以外のものはすべて、自分で自分のあり
かたや行動を選ぶことができないのに、ただ
人間だけがそれをやれるのです。【7】それ
が人間の自由というものであって、しかもひ
とりひとりの人間が、いや、ひとりひとりの
人間だけが、この能力を持っているのです。
【8】――社会が個人の集まりからできてい
るということは、ほかでもない、このような
能力の持ち主の集まりだということです。そ
して、個人にくらべてどんなに大きくとも、
社会がこの能力を持っているというのではあ
りません。【9】社会全体の動き、あの大波
のようにゆれ動き、大河のように流れてゆく
動きというものも、このような能力を持った
個人個人の動きが、あるいはぶつかりあい、
あるいは結びつき、あるいはからみあって生
じてくるものなのです。【0】
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(吉野源三郎『人間の尊さを守ろう』より)