長文集  4月4週  ○最近の日本には  ha2-04-4
    毎日1ページ音読しましょう。漢字はふりがなをつけずに読めるようにしておきましょう。  2011/02/09 12:06:59
 【1】最近の日本にはプロフェッショナル
が少ないと思います。いつからか専門家とい
うか、プロフェッショナルが敬遠され始め 
た。なぜそうなったか分析はしていないけれ
ど、結果としてアマチュアがもてはやされる
国になってしまった。【2】何のプロでもな
い者が、日常感覚でものをいうことが大変重
要だというような、そんな価値観がはびこっ
ています。
 たとえば審議会などに参加しても、普通の
人としかいいようのない委員が堂々と日常感
覚の意見を述べる。【3】その情報はいわゆ
るマスコミで取り上げられるような程度で、
実際のところはどうなっているのか、そのデ
ータを知らないのに、ある限られた情報源に
基づく日常感覚があたかもすべての判断の基
準かのようなことを主張する。【4】またそ
れがもっともなことのように、マスコミで取
り上げられる。最近はそういうことを頻繁に
見かけます。
 本来、そういう場は、さまざまな分野のプ
ロフェッショナルの意見を聞くところでした
。【5】プロとはあることがらに関する事実
がどうなっているのか、少なくともある条件
下ではあるにしても、客観的なデータとして
把握しています。国というものは、プロフェ
ッショナルが運営しなければ危険きわまりな
い。【6】もっとも、最近の政治家も大衆に
迎合するばかりですから、その程度のアマチ
ュアの政治家が多いということですが。いま
の我が国は、この意味では限りなくアマチュ
アの国になりつつあると思います。
 【7】ここでいうアマチュアとは、その主
張の根拠がほとんどマスコミに出ている程度
のことにある人のことです。自分の知ってい
る範囲のことをすべてだと思い込み、あたか
もそれが正論であるかのように、堂々としゃ
べる。そんな風潮が目につきすぎます。
 【8】結局、そういう人たちには謙虚さが
ないということです。実際のところはよく知
りませんが、私の知っている範囲はこうだけ
ど――といういい方をするのが当然なのに、
そうではありません。これっぽっちの経験し
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かないのに、それを拡大して、人類一般の普
遍的な話としてどうのこうのというような議
論までするわけです。【9】こういう状態を
見ていると、この国はどうしようもない国に
なったなという感じがします。∵
 プロフェッショナルがいないということは
、いいかえれば、エリートが少なくなったと
いうことかもしれません。いい大学に入っ 
て、いい会社に入って、というのがエリート
という意味ではありません。【0】自分の頭
できちっと考えることができる、しかもその
座標軸は古今東西の歴史から、芸術、哲学に
通じ、科学に通じる、それがエリートです。
このような広い時空スケールの中に自分の尺
度を持ち、したがってすべてのことが判断で
き、行動できる。それがエリートです。
 秀才と呼ばれ、大学に残って学者になる人
間はいっぱいいます。しかし、現在のいわゆ
る秀才というのは所詮、与えられた問題が解
けるだけの人間です。解くべき問題がつくれ
ない人が、多い。問題がつくれない人はエリ
ートではありません。
 戦後教育は、あえてエリートをつくろうと
しなかったともいえます。すべての子どもに
、最初から我(が)がある、などという誤っ
た前提に立ったために、教育と呼べるような
教育をしてこなかったのではないでしょうか
。だから、当然のことながらエリートは育た
なかったのです。

(松井孝典『コトの本質』(講談社))