1.【長文が二つある場合、音読の練習はどちらか一つで可。】
2. 【1】パーツに接着
剤を
塗り、
慎重に土台と組み合わせる。よし、これで完成だ。
3.
僕が集めているものは、プラモデルである。プラモデルといっても、「ガンプラ」のようなキャラクターモデルとは一味
違う。
僕が作っているのは「
城」の
模型なのだ。
4. 【2】
白鷺城とも
呼ばれる
姫路城、織田信長の天下
布武の
象徴である安土
城、豊臣
秀吉の
大阪城、……たくさんの
城を組み立ててきた。
5.
普通のプラモデルは
簡単に作れて、完成させたあとに遊ぶことが目的の「おもちゃ」の一種という感じだが、
城の
模型はそうではない。【3】作り終わってしまったら、
飾って
眺めるしかすることはない。つまり、作ることそのものに意義があるのだ。おもちゃというより工作に近いかもしれない。
6.
僕も昔は、車やロボットのプラモで遊んでいた。【4】しかし、学校の授業で日本の歴史を学び、
武将の伝記などを読むようになって、がぜん戦国時代に興味を持つようになった。
7. そこで去年、初めて
城のプラモデルを買ってみた。今までと全く
違う買い物に、店のおじさんは、ほうっという顔をして
驚いた。
8.【5】「これは作るのが
難しいよ。接着
剤を使うけど、持っているの。」
9. そう心配してくれたが、
僕は力強く、「
大丈夫です」と
宣言した。
10. 確かに初めは
悪戦苦闘したが、すぐに作り方のコツが
飲み込めた。
11. 【6】今では、
本棚の上にたくさんの空き箱が積み上がっている。この箱を材料にして、さらに
巨大な
城の工作が作れそうなほどだ。
12. 特に気に入っているのが、小田原
城のプラモデルである。【7】
姫路城や安土
城より知名度が低いせいか、
模型としての出来栄えはもう一歩なのだが、それでも
僕にとってはいちばんの
名城である。なぜなら、この
城は今でも地元の
神奈川県に残っていて、
僕自身も実際に行ったことがあるからだ。∵
13. 【8】
城の中にはいろいろな
展示物があった。戦国
武将の
甲冑や
槍を見られたことは感動的だったが、外国からの観光客に分かりやすくするためか、
忍者が使う
手裏剣が「シュリケン」などとローマ字で書かれていたのには笑ってしまった。
14. 【9】自分の手で組み立てた小田原
城を
眺めていると、
天守閣から見た景色が思い出される。意識が
模型の
城の中に入っていき、当時の自分と重なるような気持ちがする。
15.
僕はさまざまな
城のプラモデルを集めることで、その
城が築かれた
背景や歴史に
詳しくなった。【0】それぞれの
城の
特徴と、その
違いを
探究していくことはとても楽しい。それに手先も器用になって、クラスでも
頼りにされることが多くなった。
16. 何かを集めるということは、その物事に興味を持ち、理解を深めていくということだ。集めた物自体も大切だが、それを通じて手に入れた知識や技術が、人間にとって何より大切な財産になるのだと思う。
17.(言葉の森長文作成委員会 ι)∵
18. 【1】成長の速い
子供をタケノコのようにすくすく
伸びるといい、タケノコは昔から成長が速いものの
代名詞とされてきたが、実際にその成長速度を測った人はあまりいないだろう。【2】竹博士として有名な上田
弘一郎氏(京都大学
名誉教授)によると、マダケのタケノコで一日に一二一センチメートル、モウソウチクのタケノコで一日に一一九センチメートルも
伸長した例があるというから、その成長速度はすさまじいものである。【3】とくに昼間の
伸長は速く、一時間に八〜一〇センチメートルも
伸びることがあるというから、これを
換算すると一分間に約一・五ミリメートル
伸びることになり、タケノコは、見る見るうちに
伸びるものだといってよい。【4】雨後のタケノコともいわれるように、雨の
降ったあとなどは、とくに数多くのタケノコがにょきにょきと現われてくるのであって、そのようなとき、手入れのゆきとどいた竹やぶの緑の中に、
茶褐色の皮をかぶったタケノコが無数につき立っているありさまは実にみごとなものだ。
19. 【5】なぜこれほど多くのタケノコが、これほどすさまじい勢いで成長することができるのであろうか。それは、地下に張りめぐらされた無数の
地下茎から多量の栄養が
供給されるためであり、また、早くに成長することを止めた親竹が光合成でかせぐ栄養のすべてを、タケノコに
供給するためだといってよいだろう。
20. 【6】竹の根を
掘りおこした経験のある人は、
地下茎がぎっしりと張りめぐらされているのを見て
驚かれたことと思うが、そのありさまは実際に
掘ったことのない人には、とても想像できないものである。【7】上田氏らの調査では、モウソウチク林で、一平方メートルあたり一一メートル、マダケ林では一平方メートルあたり一九メートルもの
地下茎が張りめぐらされていたという。これらの
地下茎は、たいへん太いものであるから、竹林の土の中には
地下茎がぎっしりとつまっているといっても過言でない。【8】四〜五月に出てきたタケノコは、
地下茎に
蓄えられた栄養と親竹から
供給される光合成産物を利用して急速に
伸びるが、五〜六月には早ばやと
伸長を終わ∵り、夏の間は
伸びることなく、つぎつぎと葉を開いて光合成を行う。【9】この時期には、その年に成長した竹だけでなく、前の年あるいはそれ以前に地上に現われた竹も、ほとんど成長することなく光合成で
獲得する栄養分をすべて
地下茎に送るのであるから、
地下茎はどんどん大きくなるばかりでなく、栄養をたっぷりと
蓄えることができる。【0】植物の成長にとっても好都合な夏の間、竹はさんさんと
降りそそぐ夏の太陽のエネルギーを利用してつくる光合成産物を、ほとんど地上部の成長についやすことなく、せっせと
地下茎に
送り込んで
蓄えている点に注目してほしい。このために、
翌春に出るタケノコがすくすくと成長できるのである。
21.(中略)
22. ふつう、一本の
若竹を育てるのに五本以上の親竹の協力が必要だといわれているのに、出てくるタケノコの数はそれよりもはるかに多い。そのため、タケノコ社会でもはげしい
生存競争が演じられることになるが、このとき竹は、弱者を
遠慮なく切り捨て、すべての
子供に平等に栄養を
与えて多数の栄養不全の
子供をつくるようなことはしない。人間社会ではとうていまねのできない決断である。
23.(中略)
24.
私たちが
若いタケノコをとって食用に
供するのは、このような
犠牲者の数を減らすのに役立っており、逆にいえば、
私たちはトマリタケノコを
若いうちにとって食べていることになる。このように考えると、タケノコをとることは、その量さえ多すぎなければ竹林の成長を
妨げることにはならないのであるから、
私たちは安心して、タケノコを食べることができる。
25.
26. (
瀧本
敷「ヒマワリはなぜ東を向くか」より)