ハギ の山 5 月 1 週 (5)
○成長の速い子供を(感)   池新  
【長文が二つある場合、音読の練習はどちらか一つで可。】
 【1】パーツに接着剤を塗り、慎重に土台と組み合わせる。よし、これで完成だ。
 僕が集めているものは、プラモデルである。プラモデルといっても、「ガンプラ」のようなキャラクターモデルとは一味違う。僕が作っているのは「城」の模型なのだ。
 【2】白鷺城とも呼ばれる姫路城、織田信長の天下布武(ふぶ)の象徴である安土城(じょう)、豊臣秀吉の大阪城(じょう)、……たくさんの城を組み立ててきた。
 普通のプラモデルは簡単に作れて、完成させたあとに遊ぶことが目的の「おもちゃ」の一種という感じだが、城の模型はそうではない。【3】作り終わってしまったら、飾って眺めるしかすることはない。つまり、作ることそのものに意義があるのだ。おもちゃというより工作に近いかもしれない。
 僕も昔は、車やロボットのプラモで遊んでいた。【4】しかし、学校の授業で日本の歴史を学び、武将の伝記などを読むようになって、がぜん戦国時代に興味を持つようになった。
 そこで去年、初めて城のプラモデルを買ってみた。今までと全く違う買い物に、店のおじさんは、ほうっという顔をして驚いた。
【5】「これは作るのが難しいよ。接着剤を使うけど、持っているの。」
 そう心配してくれたが、僕は力強く、「大丈夫です」と宣言した。
 確かに初めは悪戦苦闘したが、すぐに作り方のコツが飲み込めた。
 【6】今では、本棚の上にたくさんの空き箱が積み上がっている。この箱を材料にして、さらに巨大な城の工作が作れそうなほどだ。
 特に気に入っているのが、小田原城(じょう)のプラモデルである。【7】姫路城や安土城(じょう)より知名度が低いせいか、模型としての出来栄えはもう一歩なのだが、それでも僕にとってはいちばんの名城である。なぜなら、この城は今でも地元の神奈川県に残っていて、僕自身も実際に行ったことがあるからだ。∵
 【8】城の中にはいろいろな展示物があった。戦国武将の甲冑や槍を見られたことは感動的だったが、外国からの観光客に分かりやすくするためか、忍者が使う手裏剣が「シュリケン」などとローマ字で書かれていたのには笑ってしまった。
 【9】自分の手で組み立てた小田原城(じょう)を眺めていると、天守閣から見た景色が思い出される。意識が模型の城の中に入っていき、当時の自分と重なるような気持ちがする。
 僕はさまざまな城のプラモデルを集めることで、その城が築かれた背景や歴史に詳しくなった。【0】それぞれの城の特徴と、その違いを探究していくことはとても楽しい。それに手先も器用になって、クラスでも頼りにされることが多くなった。
 何かを集めるということは、その物事に興味を持ち、理解を深めていくということだ。集めた物自体も大切だが、それを通じて手に入れた知識や技術が、人間にとって何より大切な財産になるのだと思う。

(言葉の森長文作成委員会 ι)∵
 【1】成長の速い子供をタケノコのようにすくすく伸びるといい、タケノコは昔から成長が速いものの代名詞とされてきたが、実際にその成長速度を測った人はあまりいないだろう。【2】竹博士として有名な上田弘一郎(こういちろう)氏(京都大学名誉教授)によると、マダケのタケノコで一日に一二一センチメートル、モウソウチクのタケノコで一日に一一九センチメートルも伸長した例があるというから、その成長速度はすさまじいものである。【3】とくに昼間の伸長は速く、一時間に八〜一〇センチメートルも伸びることがあるというから、これを換算すると一分間に約一・五ミリメートル伸びることになり、タケノコは、見る見るうちに伸びるものだといってよい。【4】雨後のタケノコともいわれるように、雨の降ったあとなどは、とくに数多くのタケノコがにょきにょきと現われてくるのであって、そのようなとき、手入れのゆきとどいた竹やぶの緑の中に、茶褐色の皮をかぶったタケノコが無数につき立っているありさまは実にみごとなものだ。
 【5】なぜこれほど多くのタケノコが、これほどすさまじい勢いで成長することができるのであろうか。それは、地下に張りめぐらされた無数の地下茎から多量の栄養が供給されるためであり、また、早くに成長することを止めた親竹が光合成でかせぐ栄養のすべてを、タケノコに供給するためだといってよいだろう。
 【6】竹の根を掘りおこした経験のある人は、地下茎がぎっしりと張りめぐらされているのを見て驚かれたことと思うが、そのありさまは実際に掘ったことのない人には、とても想像できないものである。【7】上田氏らの調査では、モウソウチク林で、一平方メートルあたり一一メートル、マダケ林では一平方メートルあたり一九メートルもの地下茎が張りめぐらされていたという。これらの地下茎は、たいへん太いものであるから、竹林の土の中には地下茎がぎっしりとつまっているといっても過言でない。【8】四〜五月に出てきたタケノコは、地下茎に蓄えられた栄養と親竹から供給される光合成産物を利用して急速に伸びるが、五〜六月には早ばやと伸長を終わ∵り、夏の間は伸びることなく、つぎつぎと葉を開いて光合成を行う。【9】この時期には、その年に成長した竹だけでなく、前の年あるいはそれ以前に地上に現われた竹も、ほとんど成長することなく光合成で獲得する栄養分をすべて地下茎に送るのであるから、地下茎はどんどん大きくなるばかりでなく、栄養をたっぷりと蓄えることができる。【0】植物の成長にとっても好都合な夏の間、竹はさんさんと降りそそぐ夏の太陽のエネルギーを利用してつくる光合成産物を、ほとんど地上部の成長についやすことなく、せっせと地下茎に送り込んで蓄えている点に注目してほしい。このために、翌春に出るタケノコがすくすくと成長できるのである。
(中略)
 ふつう、一本の若竹を育てるのに五本以上の親竹の協力が必要だといわれているのに、出てくるタケノコの数はそれよりもはるかに多い。そのため、タケノコ社会でもはげしい生存競争が演じられることになるが、このとき竹は、弱者を遠慮なく切り捨て、すべての子供に平等に栄養を与えて多数の栄養不全の子供をつくるようなことはしない。人間社会ではとうていまねのできない決断である。
(中略)
 私たちが若いタケノコをとって食用に供するのは、このような犠牲者の数を減らすのに役立っており、逆にいえば、私たちはトマリタケノコを若いうちにとって食べていることになる。このように考えると、タケノコをとることは、その量さえ多すぎなければ竹林の成長を妨げることにはならないのであるから、私たちは安心して、タケノコを食べることができる。
 
 (瀧本 敷()「ヒマワリはなぜ東を向くか」より)