長文集  4月2週  ★里山を歩いていると(感)  ha-04-2
    毎日1ページ音読しましょう。漢字はふりがなをつけずに読めるようにしておきましょう。  2012/06/15 08:09:22
 【1】里山を歩いていると何人ものハイカ
ーとすれちがいます。それぞれの人は何かの
楽しみを求めて里山を訪れているのです。遠
い故郷のかわりに、ダイエットのため、おい
しい空気を吸うため、写真をとったりスケッ
チをするため、バードウォッチングのため、
つりのため、などさまざまでしょう。【2】
それぞれの目的を気持ちよく、楽しく達成さ
せてくれるのが里山の景観であり、それを構
成する野生生物を中心とした自然です。
 奥武蔵の里山を訪れたときのことです。秋
の終わりで道ばたの草もほとんど枯れていま
した。【3】せまい谷間に農家が点々とあ 
り、だんだん畑がきれいに整備されています
。雑木林やスギ林もきれいに手入れされてい
ます。たいへん美しい景観です。しかし、村
のあちこちに立てられた看板が目ざわりです
。【4】看板には、「駐車禁止」とか「ゴミ
を捨てるな」とか、「私有地につき立ち入り
禁止」とか、「山野草の花をつむな」とか、
そして「山野草の採集は窃盗罪」とまで書い
てあります。何か殺伐としています。里山を
きれいに維持している村の人びとにとって、
ハイカーのマナーの悪さは目にあまるのでし
ょう。
(中略)
 【5】今、美しく維持されている里山は、
必要なてまひまをすべて山里の人びとの善意
に負っています。たまに訪れる私のようなハ
イカーが里山を楽しむとき、山里の人びとの
善意にただあまえているだけです。また、里
山には治山、治水という機能があります。【
6】山が荒れて土砂を川に流しこみ、中流や
下流に水害をおこさせないようにするはたら
きです。おいしい水を川へゆっくり供給する
という機能もあります。
 私は、里山を私有財産という枠組みのなか
だけで考えていたのでは守れないと思います
。【7】都市に暮らす人びとが、大切な里山
を維持してもらえるように山里の人びとに対
して相応の負担をするべきではないかと考え
ています。それは金銭的な補助もあるでしょ
うが、人手が不足している里山で下草刈りな
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
16
17
18
19
20
21
22
23
24
25
26
27
28
29
30
31
32
33
34
35
36
37
38
39
40
41
42
43
どの世話をするボランティア活動であっても
いいと思います。【8】里山は人間によって
つくら∵れ、維持されてきた自然だというこ
とを考えると、都市の人びとがここを訪れて
仕事をする後者のほうがよいと思いますが。
これに行政側が資金的な援助をすればよいの
です。
 【9】早春になると里山のウグイスは町ま
でおりてきます。このころには立派に「ホー
ホケキョッ」とさえずることができるように
なっています。すこし前まで東京の町でもウ
グイスのさえずりをたくさんきくことができ
ました。【0】最近では都会のウグイスが少
なくなってきたような気がします。都会の緑
が少なくなってきたことが原因でしょう。そ
れに、緑があっても、かなりとびとびになっ
てしまったことも関係します。ウグイスはし
げみを好む野鳥だからです。鳥ですから空を
とべますが、体をむきだしにするのは不安な
のでしょう。これでは都会にやってくること
はできません。
 雑木林に生活する野生動物たちのなかには
一生をそこで終えるものもいますが、一時期
だけ訪れるものもいます。一日の間にある雑
木林から別の雑木林へと移動しながら食べ物
を食べるサルのような動物もいます。里山と
平地を行ったり来たりするウグイスのような
動物もたくさんいます。開発が進む里山では
、新しい道路がつくられ、野生動物たちが訪
れる林が分断されることが多くなりました。
このため、里山の野生動物の交通事故がめだ
ってふえているようです。「シカに注意」と
か、「タヌキに注意」といった道路標識を見
かけることが多くなっています。これまたと
うぜんですが、シカやタヌキにはこの道路標
識は読めません。人間の側の注意と配慮がも
っと必要です。野生動物たちにとっていちば
んいいのは緑のコリドー(回廊)です。野生
動物の体をかくしてくれる緑の廊下です。緑
のコリドーとは人間が立ち入らないことにし
ます。野生動物たちは安心して緑のコリドー
を伝わって移動できます。工事費が多少高く
ついても、道路の一部を地面より下のトンネ
ルなどにして緑のコリドーをつくる工夫が必
要でしょう。

 (山岡寛人『自然保護は何を保護するのか