長文 1.1週
1.【一番めの長文は幼長の一~三月のものを再掲しています。】
2. 【1】
夏の
間、あんなにたくさん
見かけたカエルは、
冬にはまったく
見かけなくなります。カメやヘビも、
冬の
間は
見かけません。しかし、また
春になると、
姿を
現すようになります。【2】カエルにしてもヘビにしても、あんなに
毛がなくてつるつるの
体では、さぞ
冬には
寒いことでしょう。それに、
冬の
間は、エサにする
虫などの
生きものもとても
少なくなります。【3】それでは、こういう
生物たちは、
寒い冬をどうやってすごしているのでしょう。
3. じつは、カエルやカメやヘビなどは、
冬の
間、
冬眠といって、
地面の
中や
池の
底、
木の
穴など、
比較的暖かそうで
安全な
場所にかくれて
寝ているのです。【4】カエルやヘビは
変温動物といって、
外の
気温が
下がってくると、
自分の
体温も
同じように
下がってしまいます。だから、
冬になって
気温が
下がって
活動できなくなると、
冬眠してしまうのです。
4. 【5】この
冬眠の
間は、
体の
中に
蓄えたエネルギーを
使って
生きていますから、エサを
食べる必要がありません。
息さえしなくても
大丈夫なものもいるといいますから
驚きます。【6】
息もせずに
生きられるとはちょっと
生意気ですね。こうして、まるで
死んだように
眠り続け、カエルのいなくなった
世界は
静まりかえるのです。
5. 【7】
春になり、
外が
暖かくなってくると、
眠っているカエルたちの
体もいっしょに
温まり、
体温が
上がってきます。すると、カエルたちの
体は
再び活動を
始め、「ああ、おなかがすいたなあ」と、
外に
出てきます。【8】そのころには、エサたちも
冬眠から
目覚めたり、
新しく生まれたりしてたくさんいるので、おなかいっぱい
食事をすることができます。
6. 「
眠れる森の
美女」という、
魔法使いに
眠らされた
お姫様の
話があります。∵【9】
お姫様は
王子様のキスで
長い眠りから
目覚めますが、「
眠れる森のカエルたち」にとっては、
春の
暖かい太陽が、まるで「
王子様のキス」のように
思えることでしょう。カエルたちは、
太陽の
暖かさで
次々と
我に
返るのです。【0】
7.
言葉の
森長文作成委員会(τ)∵
8. 【1】
昨日の
土曜日に
隣の
家のサトシがぼくの
家に
遊びにきました。サトシにはアリサという
名前の
妹がいます。アリサと
お母さんはバレエの
練習があるので、サトシはお
留守番です。
9.
最初に、ぼくたちはベイブレードで
遊びました。【2】サトシはたくさんのベイを
持っています。トイザラスに
行くといつも
売り切れになっている
珍しいベイも
持っています。ベイの
数では
負けているけど、ぼくは
頑張りました。
対戦結果は
引き分けです。
10. そのあとは、一
丁目公園に
行くことにしました。【3】
お母さんは、
11.「
今日は
寒いからお
家の
中で
遊んだら。」
12.と
少し困った
顔をして
言いました。ぼくは、
13.「
大丈夫だよ。
行ってくるね。」
14.と、
玄関を
出ました。
外は
寒くて、
風がぴゅうぴゅう
吹いていました。【4】やっぱり
家の
中で
遊べばよかったかなあと
思いながら、ぼくはポケットに
手を
突っ込みました。一
丁目公園には、タケシとシンジがいました。ぼくたちはいっしょになって
鬼ごっこをしました。たくさん
走り回ったのでまるでお
風呂上りのように
体がぽかぽかになりました。
15. 【5】
家に
帰るとちょうど三
時のおやつの
時間でした。
16.「みんなで
百円ショップに
行って
好きなものを
買っておいで。」
17.と、ぼくの
お母さんがお
財布を
出しながら
言いました。サトシとぼくの
双子の
妹のカスミとヒカリは
百五
円ずつもらいました。ぼくだけ二
百十
円もらいました。【6】どうしてかというと、
お母さんが、
18.「
お母さんの
分もひとつ
買ってきてね。」
19.と、こっそり
言ったからです。
20. ぼくの
家を
出て
坂を
降りていくと
左側に
百円ショップがあります。ぼくは四
個で
百円のコーナーで
選びました。【7】
買ったものは、どらチョコとジュースとベビースターとあわです。あわはラム∵ネの
お菓子です。それを
食べると、
口の
中は
泡だらけになります。まるでモリアオガエルのたまごのようです。サトシもぼくの
真似をしてあわを
買いました。【8】
二人で
口を
大きく開けてカスミとヒカリに
見せたら、
21.「うわあ、まずそう。」
22.と
逃げられました。
23.「おいしいよなあ。」
24.と、ぼくとサトシは
顔を
見合わせて
笑いました。まだ
食べたことがないから、
味が
分からないのだなあとぼくは
思いました。【9】
お母さんにはチョコレートの
お菓子を
買ってきてあげました。
お母さんは、
25.「ありがとう。この
お菓子、
大好き。」
26.と
喜びました。ぼくはいいものを
買ったなと
嬉しくなりました。
楽しい土曜日でした。【0】
27.(
言葉の
森長文作成委員会 ω)
長文 1.2週
1. 【1】
月の
青いばん、アフリカの
草原で、ライオンに
三つ子がうまれました。まるまるふとってククククとよくわらうのがコロン、ちっともわらわないのがムウ、ちょっとばかりげんきがないのがショボン……となづけられて、いくにちかすぎました。【2】ちかくに
お花ばたけがあるせいか、
花のさいているときにうまれたせいか、みんなひどく
花ずきでした。三びきは、よく、ちかくの
森の、
花ばたけにねそべりにゆきました。
2. 【3】さてまた
月の
青いばん、三びきが
花のあいだでふざけていると、かあさんライオンがやってきて、コロンをよびました。
3.――コロンちゃん、いっしょにいらっしゃい。
4. 【4】うん、とコロンはおきあがり、クローバーを、ちょいとあたまにつけて、かあさんライオンについてゆきました。
5.
森にはいると、かあさんライオンはいいました。
6.――きょうはね、ケモノのつかまえかたをおしえてあげるの。【5】よくみてらっしゃいよ。そういうと、じっとからだをひくめて、しのび
足で、ツツツツツウと、すすみます。おや、ウサギがいるぞ。
7.――ここでね、ウンといきをすいこんで、ひととびにゆくのよ。
8. 【6】かあさんは、ささやくようにコロンにおしえると、ウンと、いきをすいこみます。
9. はなのあなが、三かくにひろがり、ひげがヒョロリとたれてしまって、とってもへんなかおです。みたとたん、コロンはクククククと、わらいだしてしまいました。【7】ウサギはもちろん、ぴょんと、ひととびでサヨナラしてしまいました。
10.――だめじゃないの、コロンちゃん。
11.――だって、さっきのかあさんのかお、あんまりおかしかったんだもの。それに、あのウサギのあわてかたったら!
12. 【8】そしてまた、ククククなのです。かあさんライオンは、あきらめてかえりました。
13. つぎのよるは、ムウでした。
14.――ムウちゃん、いっしょにいらっしゃい。
15. ムウは、だまってついてゆきました。
森にはいると、かあさんライオンはいいました。∵
16.――【9】きょうはね、ケモノのつかまえかたをおしえてあげるの。よくみてらっしゃいよ。
17. そういうと、からだをしずめて、スススススと、しのび
足ですすみます。おや、あそこにリスがいるわ!――ここでね、ウオーッってほえるの。【0】そしたら、リスはびっくりして、ちぢみあがっちゃうのよ。そこを、つかまえるの。
18. かあさんは、そうムウにささやくと、あごがはずれそうに
大きく口をひらいて、ウオーッとほえました。
19. もちろん、リスはビリリリと、でんきがかかったみたいになってうごけません。
20.――さあ、おたべ。
21. かあさんライオンがムウにいいましたが、ムウはこたえません。じっと、リスをみつめています。そして、「さあ」と、もういちどかあさんがすすめると、ムムウと、かおをしかめるのです。かあさんはびっくりして、ムウをみました。
22. へんじなし、なのです。
23.――どうしたの?
24. それもそのはず、ムウもうごけなかったのです!
25.――あらあら、ムウちゃんまで!
26. ごめん、ごめん。
27. かあさんライオンは、あわててムウのしっぽを、ちょいとおしてやると、ムウはやっとうごけましたが、リスのほうもそのすきに、ひととびで
木にかけのぼりました。
28.「ぽけっとにいっぱい」『三びきのライオンの
子』より(
今江 祥智)フォア
文庫
長文 1.3週
1. 【1】ひろいせかいにでられたうれしさに、ユラは、からだじゅうウーンとのばして、
花のひらくようにひらいたのです。ところがね、おわんのようにまるいぼうしのかわりに、ユラのは
四角、まっ
四角なのです。【2】ユラは、となりにうかんでいるなかまにたずねました。
2.――ねえきみ、ぼく、まるくならないんだよ。
3. するとそのクラゲは、ユラをながめて、おおごえをあげました。
4.――おやおや、ほんとだ。おーい、みんな、みてごらん。へんなのがいるぜ。
5. 【3】たちまち、なん十ぴきものクラゲたちが、ゆらゆらゆらとなみにのってきて、ユラをかこみました。
6.――へんなの。
7.――まるくないぜ。
8.――ぼくらとちがってらあ。
9.――クラゲじゃないわ。
10. ユラぼうやは、びっくりしました。
11.【4】――ちがうよ、ぼく、クラゲだよ。ほら、
足も
手もみんなとおなじだけあるし、いろもこえも、おなじじゃないの。
12.――だって、まるくないぜ。
13.――
四角いクラゲなんてみたことないや。
14. そこでみんなこえをそろえて、アッハッハとわらうのです。
15. 【5】ユラはもう、なにもいえなくなり、そのまま
海のあおいろのなかにとけてしまいたいとおもいました。あぶくのように、シュンときえたほうがいいなとさえおもいました。けれど、どちらもできぬこと。【6】ユラはだまって、なかまからはなれました。そして、ちいさななみ、
大きななみにゆられながら、その
夜は、ひとりでねむりました。
16. あくるあさから、ユラはいっしょうけんめいに、じぶんのなかまをたずねてまわりました。
17. 【7】まず、イカのところでききました。
18.――ね、ぼく、あんたのなかまなの?
19.――じょうだんじゃなぃ。
四角いイカなんているものか。イカは
三角にきまってる。
一角おおいよ。それに、きみは、ぼくみたいにはやくおよげないじゃないか。∵
20. 【8】そういうとイカは、ロケットみたいにシュウッと
水をふくむと、さっとおよいでいってしまいました。ふうん、と、ぼうやはまたゆられてゆきます。
21. こんどはタコ。
22.――ね、ぼく、あんたのなかまかしら?
23.【9】――なんだって。そんな
白いタコなんているかい。それに
足のかずだってちがうし、だいいち、このイボイボがないじゃないか。
24. そういうと、
タコはプウウッとスミをふっかけて、いってしまいました。
25. 【0】だめかなあ……ぼうやはスミをふきとりながら、またゆらゆらとはなれてゆきます。
26. つぎはナマコ。
27.――ね、ぼく、あんたのなかまだね。
28.――フフフフ、きみ、
足が
長すぎますよ。ほら、ぼくらは、もっとずんぐりしてるんだよ。
29. そういいながら、ヨタヨタと、からだじゅうであるいていってしまいました。
30. クラゲのぼうやは、しかたなく、もとのところへもどるほかはありませんでした。
31. けれど、みんなもなかまにいれてくれません。ユラはひとりぽつんとはなれて、ゆらゆら、ゆられていました。
32. ユラは、できるだけまるくなろうとやってみました。ぜんぶの
足をつっぱって、あたまをまるくおしてみたり、プーンと、おもいきりふくれてみたり、
岩にかどっこをゴツンとぶつけてみたり……でも、どうしても、まるくならないのです。その
夜も
青い三日月が、
空にかかっていました。
33. ひとりぼっちのユラは、
三日月にきいてみようとおもいました。
34.――ね、お
月さま、ぼく、どうしてまるくならないのかしら……。
35. お
月さまは、なにもこたえない。ただ、きれいにしずかに
光っています。でも、あおい
光をあびていると、ユラはとてもなつかしい
気もちになって、ひとりでに、おいのりしたくなるのでした。
36.「ぽけっとにいっぱい」『
四角いクラゲの
子』より(
今江 祥智)フォア
文庫
長文 1.4週
1.
脳は、
人間の
体の
中で
最もエネルギーを
必要とする
器官です。
脳の
重さは、
体全体の
重さのおよそ二パーセントを
占めると
言われています。たとえば、
体重が五十キログラムの
人間の
脳の
重さは、一キログラムになるというわけです。それほどの
重さを
占めているわけではありませんが、この
脳は
大変な
食いしん坊です。
人間が
必要とする
全エネルギーのうち、二十パーセントもが
脳に
使われています。しかも、ただの
大食漢ではありません。なかなかのグルメなのです。どうしてかというと、
脳がエネルギー
源として
取り込むのは、
ブドウ糖だけだからです。また、
脳は
余分なエネルギーを
蓄えておくことができないので、
絶えずブドウ糖を
補給し
続ける必要があります。
2.
ご飯やパンなどの
穀類、ジャガイモやサツマイモなどのイモ
類など、
炭水化物と
呼ばれるものは
ブドウ糖のもとになります。
体を
動かすためや
成長のためだけでなく、
脳の
働きを
活発にするためにも、きちんと
食事を
取ることは
大切だと
言えます。
眠りから
覚め、
栄養不足の
脳にとって、とりわけ
朝食は
最高の
ご馳走です。
3. こんな
実験結果があります。ラットを
迷路に
放り込むと、まず
一目散に
走り出します。しかし、
人間のように
高度な
知能を
持たないラットのことですから、すぐに
道に
迷い、あがき
始めます。あがいているラットの
脳内は、どんな
状態になっているのでしょう。
脳の
中には
様々な
働きをする
場所があり、それぞれが
自分の
役目を
果たすために
働いています。
迷路は
空間を
認識する
能力を
必要とします。
迷路に
入れられたラットの
脳内の
空間記憶を
司る部分の
ブドウ糖の
値は、
通常よりも
大きく落ち込んでいたそうです。それだけ
脳がエネルギーを
使ったということになります。
注射によって
ブドウ糖を
補給してあげたところ、
迷路抜けの
成績が
上がったという
結果も
得られました。
疲れきった
脳が、
ブドウ糖というエネルギーを
補給したおかげで
見事に
元気を
取り戻したのです。∵
4.
歩く、
走るという
大きな動作を
伴う体の
動きと
比べてみると、
脳の
仕事は、はっきりとは
目に
見えません。ですから、そんなにも
多くのエネルギーを
必要とするとは
想像できないでしょう。しかし、
多くのエネルギーが
必要だということは、それだけ
重要な
働きをしているからにほかなりません。
脳は
大変な
働き者です。
私たちが
眠っているあいだでさえひとときも
休まずに
働き続けます。
脳の
中は、
神経細胞がぎっしりとつまっていて、
体のすみずみまで
命令を
出しています。
心臓の
動きや
呼吸でさえ、
脳が
命令を
出しているおかげで
一時も
休まずに
続けられているのです。
5.「Oh!
No.(オー、ノー)
少し休みたいよ。」
6. そう
思うこともあるかも
知れません。それでも、
脳は
働き続けます。
7.
言葉の
森長文作成委員会(ω)
長文 2.1週
1.【一番めの長文は幼長の一~三月のものを再掲しています。】
2. 【1】いまから五
千年くらい
昔のことです。
文明がさかえはじめたころの
人々は、
夜空を
見上げて、
宇宙というのは、
自分たちの
住んでいるこの
地球だけだと
思っていました。【2】きらめく
星は、
空という
高い天井にはりついているもので、
太陽も
月も、
空にはりついて
動いて
行き、しずむと
地面の
下を
通ってまた
東にいくと
考えていたのです。
3. ギリシャ
時代になって、
宇宙のしくみが
考えられるようになりました。【3】二
世紀頃に
活躍した
天文学者プトレマイオスは、
天動説という
考えを
唱えました。それは、
地球が
宇宙の
中心にあって、そのまわりを
太陽や
月や
惑星がぐるぐる
回り、いちばん
外側に
恒星があるという
考え方です。【4】まだ、
望遠鏡も
発明されていない
時代のこの
考え方は、
その後千年もの
間人々に
信じられました。
4. 十六
世紀になって、
地球が
宇宙の
中心という
考え方に
異議を
唱えたのは、ポーランドの
天文学者コペルニクスでした。【5】コペルニクスの
考え方は、
宇宙の
中心は
太陽で、
地球と
惑星は
太陽のまわりを
円形の
軌道にそって
回っているというものでした。
地球の
方が
動いていると
考えられたことから、
地動説と
呼ばれています。
5. 【6】はじめて
望遠鏡を
使って
星を
見たのは十七
世紀、イタリアのガリレオ・ガリレイでした。ガリレオは
望遠鏡によって、
月のクレーターや
太陽の
黒点などをつぎつぎと
発見しました。
6. ニュートンが「
万有引力の
法則」を
発見すると、
惑星の
動きはもっと
正確にわかるようになりました。【7】
万有引力の
法則では、すべてのものはたがいに
引き合っていると
考えられました。そこで、
月と
地球、
地球と
太陽もたがいに
引かれ
合っていて、まわりを
回ることができるとしたのです。しかし、その
時もまだ、
宇宙の
中心は
太陽で、
宇宙とは
太陽系のことでした。∵
7. 【8】十八
世紀になり、イギリスの
天文学者ハーシェルによって、
宇宙は
恒星の
世界までひろがり、
銀河系というものがわかるようになってきました。
私たちの
地球の
位置が、
銀河系の
中のひとつになったのです。
8. 【9】二十
世紀に
入ると、すぐれた
技術の
望遠鏡が
次々と
開発され、
恒星までの
距離を
測ることができるほど
高性能になりました。この
観測のおかげで、
銀河系の
大きさも、
銀河系の
中のさまざまな
天体のことも、そして
銀河系以外の
銀河、さらに
宇宙全体のすがたまでもがわかるようになってきたのです。
9. 【0】
人間の
見る世界は、どんどん
広がっていきます。やがて
宇宙の
大きさも
超えて
広がっていくのかもしれません。
10.
言葉の
森長文作成委員会(μ)∵
11. 【1】
二月三日は
節分です。ぼくたちは
豆まきをしました。
12.「
鬼は
外、
福は
内。」
13.と、
元気よく
大声をあげました。パラパラと
豆が
散らばります。おもしろくてどんどん
投げました。ベランダから
外に
投げるときは、ちょっとだけ
声を
小さくしました。【2】どうしてかというと、
夜なので
大声をあげると
近所迷惑になるからです。
14.「
豆の
片付けはチップにやらせるからじゃんじゃんまいていいよ。」
15.と、
お母さんが
笑いながら
言いました。チップというのはぼくの
家の
犬です。【3】まいた
豆は
食いしんぼうのチップがきれいに
食べてしまいます。
16.
豆まきのあと、ぼくが
お父さんと
お母さんに
年の
数だけ
豆を
配りました。
17.「
お父さんは三十一
歳だから三十
一個ね。はい。」
18.そう
言って
お父さんの
前に
豆を
置きました。【4】
お母さんには、
19.「はい、
お母さんは三十四
個ね。」
20.と、三十四
個数えました。
21.「いいなあ、こんなにいっぱい。」
22.と、ぼくがうらやましそうに
言うと、
23.「いいでしょう。」
24.と、
お母さんはにっこりしました。【5】
お母さんが、
25.「
年の
数だけとって
食べるんだよ。」
26.と
言うので、ぼくと
弟たちは
自分で
豆を
取りました。ぼくは六
個でリョウタは五
個。キョウタは四
個のはずでした。でも、ぼくはキョウタが四
個以上口に
入れているのを
見てしまいました。【6】キョウタのやつ、それじゃあぼくより
年上じゃないかと
思いました。リョウタはちゃんと五
個だけ
食べていました。ぼくも六
個だけ
食べました。ぼくとリョウタは
真面目だなと
思いました。∵
27. みんなに
配ってからもまだ
豆は
残りました。【7】
残った
豆はぼくが
作った
紙の
箱に
入れてテーブルの
上に
置いておきました。その
豆を、
お父さんが
食べていました。
次から
次へと
豆を
口に
放り込んでいます。まるで
豆の
方から
お父さんの
口に
ふっ飛んでくるみたいです。【8】おもしろそうなのでぼくも
真似してばくばくと
食べてしまいました。だからぼくも
年の
数よりも
食べてしまいました。どうして
年の
数だけ
食べるのかなあと
不思議に
思いました。
豆がきらいな
人はどうするのかなと
心配になります。【9】
年の
数だけ
食べるのじゃなくて、はじめから
好きなだけ
食べることにしたらいいと
思います。
28. ふと、おじいちゃんとおばあちゃんの
顔を
思い出しました。
29.「じいとばあは六十
個も
豆を
食べたのかな。」
30.と、
お母さんに
聞いてみました。【0】
お母さんは、
31.「さあ、どうかな。
今度、
電話で
聞いてみたらいいんじゃない。」
32.と
言って
笑いました。
33.(
原作 しゅんのすけ
編集 言葉の
森長文作成委員会 ω)
長文 2.2週
1. 【1】ところがあくる
朝、かあさんゾウが
目をさまして、おどろきました。バオバブがいなくて、そのかわり、ぜんぜんしらないゾウが、よこにねむっているのです。かあさんゾウは、あわててとうさんゾウをおこしました。
2. 【2】
目をこすりこすり、そのゾウをみてとうさんゾウもおおあわて。それにしても、なんというあつかましいゾウでしょう!
3. いや、それよりも、バオバブは、いったいどこへいったのでしょう。
4. 【3】ふたりはますますあわてて、そのゾウのおしりを、おもいきりけっとばしてやりました。もしかすると、その
下じきになっているかもしれないではありませんか。かわいそうなバオバブちゃん!
5. 【4】けれど、そのゾウはのんびりと
目をひらき、
6.――いたいなあ、とうさん……
7. というのです。
8.――とうさんだって!
9. とうさんゾウは、あきれてしまいました。こんな
大きなゾウに、とうさんなんてよばれるおぼえはない。【5】すると、かあさんゾウが、とんきょうな
声をあげました。
10.――まああ、とうさん、それはバオバブぼうやですよ!
11.――バオバブぼうやだって……。
12. どうみても、ぼうやなんてからだつきではないのです。とうさんゾウより
大きいくらいなのですから。
13.【6】――ほら、あの
目の下のなきぼくろ……
14. さすがはかあさんです。ちゃんと、むすこのとくちょうをおぼえていました。
15.――そうですよ、ぼく、バオバブですよ。 とうさんたら、じぶんのむすこをみわすれるなんて、ひどいなあ。
16. 【7】そんなことをいったって、この
大きなゾウを、どうしてきのうのかわいいバオバブぼうやだとおもえるでしょう。とうさんゾウは、じぶんの
耳をひっぱってみました。
17.――まだあんなことをやってる。ゆめじゃありませんよォ。
18. 【8】バオバブが、ふふくそうにいいました。
19.――ぼくだといったら、ぼくなんです。ぼくは、
大きくなるのがはやいだけなんですよ。∵
20. はやいといっても、はやすぎる、ひとばんでわしより
大きくなるなんてことがあるものか……と、とうさんゾウは、まだほんとうにできないようすです。
21. 【9】しかし、そういうあいだにも、 バオバブは、どうやらすこしずつそだってゆくようなのです。とうさんゾウは、すこしずつ
背のたかくなってゆくむすこをみあげなければなりませんでした。
目のまえのできごとです。ほんとうにするほかはありません。
22. 【0】そのうちに、バオバブはとうさんの二ばいほどの
大きさにもなってしまいました。ガスいりの
風船でなしに、なかみもちゃんとつまったほんもののゾウです。とうさんだといっても、きみわるがらずにはいられませんでした。このぶんでいったら、あしたは、どうなることでしょう。
23. とうさんゾウとかあさんゾウはかおをみあわせるばかりでした。
24.
25. バオバブは、そのちょうしでどんどん
大きくなりはじめました。
26. とうさんゾウは、むすこのかおをみるのに、えらくなんぎしなければなりませんでした。もともとくびのないゾウのこと、みあげるのはにがてなのです。
27. でも、そんなことはまだよかったのです。こまったことに、バオバブのからだが
大きくなるにつれて、バオバブがたべるものも、ずんずんふえてゆくのです。みるみるうちに、あたりのたべものは、きれいさっぱりなくなってしまいました。これでは、ゾウがものすごいいきおいでふえてゆくようなものでした。とうさんゾウは、いそいでとしよりたちのところへしらせにいきました。
28.
話をきいてほんきにしなかったとしよりたちも、バオバブをみると、たまげてしまいました。これが、ついこのあいだ、ほそいはなを
風にふかれて
目をほそめていたゾウのあかんぼうでしょうか。
29. としよりたちは、イヌがウマをみあげるようにバオバブをみあげなければならないので、すっかりあわててしまいました。そして、バオバブのたべっぷりをみて、もっとあわてました。これでは、いくらたべものがあっても、たりなくなってしまう。たいへんなゾウをかかえこんだものです。
30.「ぽけっとにいっぱい」より(
今江 祥智)フォア
文庫
長文 2.3週
1. 【1】すごくきれいね! トトが、かあさんをふりむいていいました。
2.
森の
秋。
森はきんいろとべにいろの
色紙細工です。もっと、あっちへいこう、――トトは、かあさんにせがみました。あぶないわ。いまは、にんげんが
山の
中をあるきまわるときなのよ。【2】かあさんがとめました。だってこんなにきれいなんだもの。トトはピョコピョコ、シカのよこっとびでかけだしました。そして
谷まへの
道にでたとたん、
3.――おッ!
4. たちすくんだのはトト。【3】たちどまってさっと
鉄砲をかまえたのはにんげんです。わかいりょうしです。かあさんが、ひととびでトトのよこにならびました。そして
頭で、トトをぐいと、おしていいます。トト、おにげ! トトはにげない。【4】トトは、とうさんのことをおもいだします。これがとうさんをいなくしちまったにんげんか! トトは
夏にあったポロをおもいだします。ゾクッとからだじゅうをむしゃぶるいがはしり、トトは
頭をぐっとさげ、するどい
目つきで、りょうしをにらみつけました。【5】トト! かあさんが、またおします。けれどトトは、けんめいです。ポロとおなじかまえで、さっととびかかろうとしたとたん、
5.――あっはっは!
6. にんげんがわらいました。
7.――うてねえな、おまえは……。
8. 【6】そのわかいりょうしは、
鉄砲のつつさきをあげていいました。
9.――そのちびさんが、かあさんをまもろうってんだからな。
10. トトはにんげんのいってることばは、わからない。ただ、かあさんがもうおさないので、きけんがさったことは、わかりました。
11.【7】――おれにゃ、うてねえよ。
12. りょうしは
白い歯をみせて、かあさんに
話しかけるようにいいました。
13.――こんなきれいな
目のこジカは、ころせねえ。
14. かあさんはトトに、ぴったりよりそいました。∵【8】トトはきゅうにぐったりして、そこへすわりこみたくなりました。そのとき、にんげんが、どなるようにいいました。
15.――おい、
早いとこにげてくれよ! また
気がかわるかもしれないんだぜ。
16. かあさんが、ぐいとトトをおしました。【9】こんどはトトもひととびです。あかるい
栗色の二つのてんが
森の
中にきえたとき、りょうしは
鉄砲をかまえて
空にむけてうちました。
17. グァアン! ……
赤と
黄のかれはが、パラパラと、りょうしにふりかかりました。【0】
18.「ぽけっとにいっぱい」『
森のシカ、トト』より(
今江 祥智)フォア
文庫
長文 2.4週
1.
宮崎県の
幸島というところにいる
野性のサルのむれは、
人間がまいてやるサツマイモを
海の
波であらって、
塩水の
味つけをして
食べることで
有名です。
2. そのころ、
日本ではまだあまりサルの
研究をする
人がいませんでした。しかし、サルが
大好きだった
京都大学の
今西錦司さんたちは、
幸島のサルを
観察したくてやってきたのでした。ところが
幸島のサルは、
猟で
狩られたことがあったために、
人間をとてもこわがっていました。そこで
京都大学の
人たちは、サルを
安心させようと、サツマイモをまいてやりました。そのサツマイモを、サルはあらって
食べるようになったのです。それまで
外国では、サルの
研究をするとき、えさをまいてやるということはしていませんでした。
3. そのほかにも、
外国の
人がやっていないことを、この
日本の
若い研究者たちはしました。むれのサルに、
一匹一匹名前をつけて
観察したのです。たとえば、こわいボスザルには「カミナリ」、わかくて
頭のいいオスザルには「ヒヨシマル」といったぐあいです。
4.
日本での
研究になれてくると、
京都大学の
人たちは、アフリカに
行ってゴリラやチンパンジーの
研究もするようになりました。
5. そして、
研究したことを
国際会議で
発表しましたが、それを
聞いて
世界のサル
学者たちはたいへんおどろきました。
日本で、こんなにりっぱなサルの
研究がされていたとは
思っていなかったのです。
日本のサルの
研究がいちばん
進んでいる、と
世界のサル
学者たちは
感心しました。そんな
世界のサル
学者たちが
最も驚いたのが、
日本人がサルたちに
名前をつけていたことなのでした。
6.
世界の
学者たちは、サルに
番号しかつけていませんでした。それに、サルの
顔や
性格が
一匹一匹ちがうことにも
気がついていなかったのです。∵
7.
西洋の
人は、
人間と
動物はまったくちがうものだと、はっきりわけて
考えていました。けれど、
日本人は
昔から、
人間と
動物とはあまり
変わらないものだという
考え方だったのです。サルもタヌキもキツネも、
日本人にとっては
同じ村の
仲間のようなものでした。だから、
今の
時代になっても、
若い研究者はごく
自然に、サルになまえをつけたのでした。サルを
番号でよぶことのほうが、むしろやりにくかったのです。
8.
最初のころ、
世界の
学者たちは、
日本人がサルに
近いからそういうことができるのだと
考えていました。しかし、
今では、
世界中のサルの
研究者たちは、この
日本の
方法を
使って、サルたちに
名前をつけて
研究するようになっています。そのほうが、サルたちの
社会や
生活について、よく
理解できることがわかったからです。
9.
言葉の
森長文作成委員会(λ)
長文 3.1週
1.【一番めの長文は幼長の一~三月のものを再掲しています。】
2. 【1】
夏休みの
友といえばやはりカブトムシです。
昆虫の
王様と
呼ぶにふさわしいその
姿は、
子どもたちの
視線をとらえてはなしません。ペットショップのカブトムシコーナーは、
毎年黒山の
人だかりができていますし、
採集ツアーも
登場するほどです。
3. 【2】いかにも
丈夫そうな
姿のカブトムシですが、その
命はそれほど
長いものではありません。
卵からかえり、
冬を
越した
幼虫は、
蛹へと
姿を
変え、
夏になると
成虫、つまりカブトムシへと
変身しますが、
成虫になってからの
命はおよそ一
か月ほどといわれています。【3】ですから、
夏休みが
終わるころは、ちょうどカブトムシの
命もつきる
時期にあたるのです。クワガタムシも、カブトムシと
並んで
人気があります。カブトムシがひと
夏の
命なの
に対して、クワガタムシの
場合、
種類によっては
越冬できるものもあります。えっとうれしくなってしまうでしょう。
4. 【4】
大切に
育てていたカブトムシの
死は
悲しいものですが、
死んでしまったからといってすぐに
飼育ケースを
処分してはいけません。ケースの
中の
腐葉土をそっとのぞいてみましょう。もしかしたら、
小さな卵が
見つかるかもしれません。【5】
直径三ミリ
程度の
白くて
丸い卵です。
孵化直前の
卵は
大きさは五ミリ
程度になり、
色も
黄色味を
帯びてきます。この
卵をじょうずに
育てることができたら、
大切にしていたカブトムシの
二世と
対面できる
日がやってくるのです。
5. 【6】
卵からかえった
幼虫は、おもに
腐葉土を
食べて
大きくなります。
幼虫時代に
摂取した
栄養が、
成虫のカブトムシの
大きさを
決定付けます。いったん
成虫になってしまったら、どんなに
樹液を
吸ったところでそれ
以上大きくはなりません。∵【7】
立派な
大きさのカブトムシは、
幼虫時代に
十分な
栄養を
取っていたのです。もしも
人間がカブトムシと
同じ性質だったらどうでしょう。
成人したらいくら
食べても
太らないわけですから、ダイエットに
励んでいる
大人にとってはなんともうらやましい
話です。
6. 【8】
通常、一
匹の
幼虫が
蛹になるまでに
食べる腐葉土の
量は、
洗面器に
山盛り一杯分にもなるそうです。カブトムシは、そんな
大量の
腐葉土をかぶっとむしゃむしゃ
食べてしまうのです。さすがに
昆虫の
王者、
驚いてしまいます。
7. 【9】
友達に
自慢できるくらいの
大きなカブトムシを
育てるためには、
良質な
腐葉土を
絶えず補充してあげることが
大切です。また、
飼育ケースの
中のフンを
取り除いたり、
掃除をしたり、
根気よく
世話を
続けることが
必要です。
8. 【0】では、カブトムシとクワガタムシでは、どちらが
強いでしょうか。カブトムシの
得意技は、カブト
割りでしょう。クワガタムシの
得意技は、もちろんクワ
固めです。
結果は、カブトもクワガタも、
お互いをムシして
引き分けになりました。
9.
言葉の
森長文作成委員会(ω)∵
10. 【1】
先週の
日曜日に、
お父さんと
神奈川スケートリンクへ
行きました。
私はこの
日をとても
楽しみにしていました。テレビでフィギュアスケートを
見て、すっかりスケートのファンになりました。フィギュアスケートは
絶対に
見逃しません。【2】
お母さんは、
11.「どうしてあんなことができるのだろうね。」
12.と
不思議そうです。
私も
不思議に
思うけれど、
練習したらできるかも
知れないと
思っています。だから、
一度でいいからスケートをやってみたかったのです。
13. 【3】
お父さんは、
学生のころにアイスホッケーをしていたそうです。
私がスケートに
行きたいと
言ったら、
14.「
お父さんが
教えてあげるよ。」
15.と、
得意そうに
言いました。そして、
来月の
日曜に
行こうと
約束してくれました。
16. 【4】スケート
場に
着くと、すぐにスケート
靴を
借りました。
白い靴です。わくわくしながら
履いてみると、
思っていたよりも
重くて
窮屈でした。まるでペンギンのような
歩き方でスケートリンクまで
歩きました。
17.【5】「よし、
滑ってみようか。ゆっくりおいで。」
18.と、
お父さんが
氷の
上で
待っています。おそるおそる
氷の
上に
乗ってみました。
お父さんの
手を
握るよりも
先につるんと
尻もちをついてしまいました。ほんの
一瞬の
出来事です。
19.【6】「こんなに
滑るんだ。ああ、びっくりした。」
20.と、
照れながら
言うと、
お父さんは、
21.「すぐに
慣れるさ。
お父さんと
手をつないで
練習だ。」
22.と、
私を
起こしてくれました。
お父さんに
引っ張られながらなんとか
一周しました。【7】
何度も
転びそうになってドキッとしました。二
周目では、
少し余裕が
出てきました。
右、
左、
右、
左と∵
順番に
足を
出すことも
覚えました。三
周目になると、ちょっと
楽しくなってきました。
23.「うまい、うまい。コツがわかってきたみたいだね。」
24.と、
お父さんも
褒めてくれました。【8】
お父さんと
手をつないで
何周か
滑ったあとで、
思い切って
一人だけで
滑ってみることにしました。
深呼吸をして、
25.「できる、できる、
絶対できる。」
26.と、
自分に
言い聞かせました。スーッと
右足を
出して、
次はスーッと
左足。とてもゆっくりだけど、
私の
体は
進みました。
27.【9】「すごいぞう。やったな。」
28.
お父さんの
声が
聞こえます。
お父さんの
顔を
見ようと
顔を
上げた
瞬間、また
尻もちをついてしまいました。でも、
痛くありません。どうしてかというと
滑れたことが
嬉しくて
痛さも
吹っ飛んでしまったからです。【0】
その後も、
何度も
転びながら
練習しました。
時々お父さんがひとりで
滑りに
行くこともあります。
お父さんはまるでスケート
選手のようです。
私は、うっとりしながら
眺めました。
私も
早くあんなふうに
滑れるようになりたいです。
29.(
言葉の
森長文作成委員会 ω)
長文 3.2週
1. 【1】ピピは
町のどうぶつえんに、つれてこられました。こんどあたらしくひらかれたどうぶつえんです。
2.
園長さんは
大よろこびで、かかりの
二郎をよびました。
3.【2】――
二郎くん、
白クマの
子どもだよ。きっとみんなよろこぶ。さあ
東のC26
番にいれたまえ。
4.
東C26のおりは、ペンギンの
島です。
白い大きな氷の
山がつくってあり、まわりはプールです。もっとも
氷はコンクリート
製ですがね。【3】しかしペンギンは、つぎの
捕鯨船でもってきてもらえることになっているので、まだ一ぴきもいません。
5. ピピがC26のおりのうらからかおをだしてその
白い氷山をみたとき、どれほどよろこんだことでしょう! 【4】おもわず
二郎の
手に
鼻をこすりつけたほどです。さあっとからだじゅうにきれいな
水がはしり、
青空をたべたような
気もちでした。ピピははねまわって
氷山にとびうつり、さて、
首をペタリとつけて、ねそべってみました。【5】
北のくにでは、いつもこうして、おひるねをしていたものですからね。
6. ところが、オヤオヤオヤ、
首のところがちっともひんやりしないのです。おかしいな、とおもってピピは、もうすこし
下へおりてゆき、そこでまたねそべってみました。【6】やっぱりおなじです。ピピはおきあがって、じっと
氷山をみあげました。まっさおな
夏の
空を
背にして、ぐっとつったつなつかしいふるさとの
風景とおなじです。
7. おかしいな。ピピはおもいきってエイッと
氷をひっかいてみました。【7】ジーンと、いたみがからだじゅうをつきとおって、
手がしびれました。なにしろ、コンクリートをおもいきりひっかいたんですからね! つめがはがれて、ピピの
右手は、たちまちまっかです。けれどピピは、くやしくってくやしくっていたみなどかんじません。
8. 【8】だまされたのです。こんなかたい
氷山などこしらえて!
9. ピピはそのときからずっと、おりのおくから、ちっともでませんでした。だまって
目をとじて、すみっこでねむっているのです。∵おりの
中は
冷房がしてあります。【9】ですから、そとのにせものの
北のくにほどのきちがいめいたあつさはありません。
10.
二郎もこまりました。なにをもってきてもたべない。どうしてもうごかないのですからね。このままでは、まちがいなしに
病気になります。
11. 【0】おきゃくさんたちは、まいにち、からっぽの
氷山をながめてかえるだけでした。
12. どこかでペンギンの
声がしてバタバタと
羽音がきこえたような
気がしました。けれどピピは、もうけっして
目をあくまい、からだをうごかすまい、とこころにきめていたので、じっとしていました。それから、からだがもちあげられて、どこかへはこばれるようにもおもいましたが、やはりピピは、そのままじっとしていました。
13. それからずいぶん
長いあいだ、ピピは、こんどはほんとにねむりこんでしまいました。どうぶつえんにもってこられたペンギンたちといれかえに、ピピは、ふたたび
北のくにへつれもどされていったのです。まいにちのピピのひとりぼっちのすがたをみて、がまんできなくなった
二郎が、ねっしんに
園長さんにたのんだのです。
船はピピをつんで、
北へ
北へとはしっていました。
14.
船の
人たちは
氷の
上にそっとピピをおろしました。
氷のつめたさが、すこしずつピピのこころをあたためてゆきました。
15.――
死んじまったのかな? ひとりがつぶやきました。それから、みんなはいそがしそうに
船にひきあげてゆきました。ピピは、うっすらと
目をひらきました。
16. こんどこそ、まちがいなしに、ほんものの
氷、ほんとの
北の
海のにおいです。
17. けれどピピは、もう
二度とおきあがれませんでした。ただ、からだじゅうがかるくなって、すいすいと
空にまいあがってゆく
気がしました。
18. ピピのからだのまっすぐ
上の
空から、
小熊座のとおい
星が、ピピのふるさとの
白い世界を、しずかにみおろしていました。
19.「ぽけっとにいっぱい」より(
今江 祥智)フォア
文庫
長文 3.3週
1. 【1】
みよ子ちゃんは、このあいだから、こっそりおもいつづけていることがあります。
2.――いっちゃおうかな……と、
夜になるとおもいます。でも、ちょっとはずかしくって、いえないのです。けれど、きょうは
星のとくべつにきれいな
夜でした。【2】そこで、
みよ子ちゃんは、とうとう、おねだりしたのです。
3.――ね、おとうさん、おねがい。
4. ほほう……と、おとうさんは、めずらしそうにふりむきました。
5.――あれ、とって。
6.
みよ子ちゃんは、
空にたくさんある
星をゆびさしました。
7. 【3】あははは。おとうさんはわらって、
8.――あれは、だめ、
星だもの。
9.
みよ子ちゃんのかおはクシャンとゆがんで、べそをかきました。どうして
星ならだめなのかしら。
10. おにいちゃんなんか、あんな
高いところをとんでるトンボでも、ひょいとつかまえてくるのに……。
11.【4】――あれはね、とってもとおいところにあってとても
大きいんだ。
12. けれども
みよ子ちゃんには、おとうさんのせつめいなぞ
耳にはいりません。おもいつづけていたことを、やっといったのに、あははは、とわらわれちゃったんですからね。
13. 【5】
みよ子ちゃんはだまって
家をでていって、うしろの
丘にのぼりました。
空の
星に、いっそうちかくなった
気のするところです。そして、そこにしゃがんでなきはじめました。
14. エーンエンエンエン
15. 【6】
大きななみだが、ポタンポタンとおっこちて、
土にすいこまれてゆきます。すると、そのへんでへんな
音がするのです。
16. コボン、コボ、コボ、ポコン
17.
みよ子ちゃんはきみがわるくなって、なきやみました。【7】そしてたちあがったとたん、ポウン……と、
足もとの
土がはねのけられて、みょうないきものがかおをだしました。
18.――えへへ、ぼく、モグラだよ。
19. モグラなんて、しりません。∵
20. 【8】けれどモグラのほうは、いっこうにへいきでつづけました。
21.――
みよ子ちゃんが、あんまりなみだをおとすんで、ぼくの
家のまえの
道ね、そこの
天井がゆるんじまうんでね。
22.――あら、ごめんなさい。
23.――
みよ子ちゃんはあやまりました。
24.【9】――だって、わたし、そんなところにおうちや
道があるなんて、
気がつかなかったんだもの。
25. するとモグラは、みじかい
手をふって、いやいや、べつにあやまってもらわないでも……。そこでふたりは、はなしはじめました。【0】そして
みよ子ちゃんが
星のことをいうと、モグラは、なあんだ、といったかおつきでいうのです。
26.――ようがす。
27. それからくるりとまわれ
右、五
分もしないうちに、また
穴からかおをだすと、
28.――これですよ、かけらしかとれませんでしたがね。
29. ひょいとさしだしたのは、
土のかたまりです。こんな
土なんて、と、
みよ子ちゃんがうけとらないでいると、モグラはいうのです。
30.――だってこの
地球も、
星の一つなんですよ。
空のむこうからみれば、あおく
光って、くるくるまわってるんです。
31. へええ、そうなの、と、
みよ子ちゃんはおもいました。
32.「ぽけっとにいっぱい」『
星をもらった
子』より(
今江 祥智)フォア
文庫
長文 3.4週
1.
北極地方は、
寒さがたいへん
厳しく、
海もほとんど
氷でおおわれています。
今では、
北極に
陸地がないことがわかっていますが、
昔の
地図の
中には、
北極点を
中心に四つの
大陸が
描かれているものがあります。
北極点が
陸地か
海かということさえ、
長い間、なぞだったのです。
2. 十六
世紀に、
船による
北極探検が
始まりました。
北極海には、
厚さが
天井の
高さほどもある
氷が一
面に
浮かび、ゆっくりと
移動しています。
北極探検では、
移動してきた
氷に
船が
閉じ込められて
遭難するなど、
多くの
命が
失われました。
3. もう一つ、
探検家たちに
恐れられていたのは、
壊血病という
原因不明の
病気です。これはなかなか
解決できない
問題で、この
病気によって
隊員たちが
次々と
倒れていきました。この
病気の
原因は、ビタミンCの
不足でした。
航海中には、
野菜や
果物などの
新鮮な
食べ物を
食べることが
難しいので、
知らず
知らずのうちにビタミンCが
足りなくなっていたのです。
4. 十九
世紀の
終わりごろから、
探検家たちはさまざまなルートで
北極圏に
入り、
地球の
最も北である
北極点をめざしました。ノルウェーのナンセンは、
北極点のすぐ
近くまで
船で
近づくことができました。しかし、すぐ
近くと
言ってもその
距離は、
東京と
大阪ほども
離れていました。また、
南極探検で
有名なアムンゼンは、
大西洋から
アメリカ大陸の
北を
通って
太平洋にぬける
北西航路を、
初めて通過することに
成功しました。
5.
西洋人として
北極点に
最初に
立ったのは、アメリカのロバート・ピアリーだと
言われています。しかし、
彼も
簡単に
北極点に
到達できたわけではありませんでした。
初めて北極点に
挑んだ
探検は
大失敗に
終わり、
凍傷により
足の
指を
八本も
失ってしまったのです。
普通だったらどうしようと
途方に
暮れてしまうところですが、それでもピアリーは
負けませんでした。
失敗した
体験を
生かし、
長い∵
時間をかけて
計画を
練り直し、
再び新たな
探検に
出ました。この
探検では、
寒さに
強い犬ぞりや、イグルーという
氷で
作った
家をうまく
使い、ついに
北極点に
到達することができました。十六
世紀に
北極地方への
探検が
始まってから、
約三
百年もの
年月がたっていました。
6.
西洋人にとっては、
長い間、
北極は
未知の
世界でしたが、
北極圏には、もともと
先住民族が
住んでいました。
彼らはイヌイットと
呼ばれており、
何世紀もの
間、
外部とほとんど
接触をしないで
暮らしてきました。
海に
住むアザラシやセイウチなどの
狩りを
中心に
生活を
営み、
独自の
文化を
作っていたのです。イヌイットは、
西洋人よりもはるかに
北極のことをよく
知っており、
探検家たちが、
彼らから
学ぶべきことは
多くありました。
最後の
探検のとき、ピアリーは、
厳しい北極の
環境に
慣れた
多くのイヌイットを
連れていました。イヌイットの
力を
借りたことも、ピアリーを
成功にみちびく
大きな要因だったのでしょう。
7.
言葉の
森長文作成委員会(κ)