エニシダ の山 3 月 1 週 (5)
カブトムシ   池新  
【一番めの長文は幼長の一~三月のものを再掲しています。】
 【1】夏休みの友といえばやはりカブトムシです。昆虫の王様と呼ぶにふさわしいその姿は、子どもたちの視線をとらえてはなしません。ペットショップのカブトムシコーナーは、毎年黒山の人だかりができていますし、採集ツアーも登場するほどです。
 【2】いかにも丈夫そうな姿のカブトムシですが、その命はそれほど長いものではありません。卵からかえり、冬を越した幼虫は、蛹へと姿を変え、夏になると成虫、つまりカブトムシへと変身しますが、成虫になってからの命はおよそ一か月ほどといわれています。【3】ですから、夏休みが終わるころは、ちょうどカブトムシの命もつきる時期にあたるのです。クワガタムシも、カブトムシと並んで人気があります。カブトムシがひと夏の命なのに対して、クワガタムシの場合、種類によっては越冬できるものもあります。えっとうれしくなってしまうでしょう。
 【4】大切に育てていたカブトムシの死は悲しいものですが、死んでしまったからといってすぐに飼育ケースを処分してはいけません。ケースの中の腐葉土をそっとのぞいてみましょう。もしかしたら、小さな卵が見つかるかもしれません。【5】直径三ミリ程度の白くて丸い卵です。孵化直前の卵は大きさは五ミリ程度になり、色も黄色味(み)を帯びてきます。この卵をじょうずに育てることができたら、大切にしていたカブトムシの二世と対面できる日がやってくるのです。
 【6】卵からかえった幼虫は、おもに腐葉土を食べて大きくなります。幼虫時代に摂取した栄養が、成虫のカブトムシの大きさを決定付(づ)けます。いったん成虫になってしまったら、どんなに樹液を吸ったところでそれ以上大きくはなりません。∵【7】立派な大きさのカブトムシは、幼虫時代に十分な栄養を取っていたのです。もしも人間がカブトムシと同じ性質だったらどうでしょう。成人したらいくら食べても太らないわけですから、ダイエットに励んでいる大人にとってはなんともうらやましい話です。
 【8】通常、一匹(ぴき)の幼虫が蛹になるまでに食べる腐葉土の量は、洗面器に山盛り一杯分にもなるそうです。カブトムシは、そんな大量の腐葉土をかぶっとむしゃむしゃ食べてしまうのです。さすがに昆虫の王者、驚いてしまいます。
 【9】友達に自慢できるくらいの大きなカブトムシを育てるためには、良質な腐葉土を絶えず補充してあげることが大切です。また、飼育ケースの中のフンを取り除いたり、掃除をしたり、根気よく世話を続けることが必要です。
 【0】では、カブトムシとクワガタムシでは、どちらが強いでしょうか。カブトムシの得意技は、カブト割りでしょう。クワガタムシの得意技は、もちろんクワ固めです。結果は、カブトもクワガタも、お互いをムシして引き分けになりました。

 言葉の森長文(ちょうぶん)作成委員会(ω)∵
 【1】先週の日曜日に、お父さんと神奈川スケートリンクへ行きました。私はこの日をとても楽しみにしていました。テレビでフィギュアスケートを見て、すっかりスケートのファンになりました。フィギュアスケートは絶対に見逃しません。【2】お母さんは、
「どうしてあんなことができるのだろうね。」
と不思議そうです。私も不思議に思うけれど、練習したらできるかも知れないと思っています。だから、一度でいいからスケートをやってみたかったのです。
 【3】お父さんは、学生のころにアイスホッケーをしていたそうです。私がスケートに行きたいと言ったら、
「お父さんが教えてあげるよ。」
と、得意そうに言いました。そして、来月の日曜に行こうと約束してくれました。
 【4】スケート場に着くと、すぐにスケート靴(ぐつ)を借りました。白い靴です。わくわくしながら履いてみると、思っていたよりも重くて窮屈でした。まるでペンギンのような歩き方でスケートリンクまで歩きました。
【5】「よし、滑ってみようか。ゆっくりおいで。」
と、お父さんが氷の上で待っています。おそるおそる氷の上に乗ってみました。お父さんの手を握るよりも先につるんと尻もちをついてしまいました。ほんの一瞬の出来事です。
【6】「こんなに滑るんだ。ああ、びっくりした。」
と、照れながら言うと、お父さんは、
「すぐに慣れるさ。お父さんと手をつないで練習だ。」
と、私を起こしてくれました。お父さんに引っ張られながらなんとか一周しました。【7】何度も転びそうになってドキッとしました。二周目では、少し余裕が出てきました。右、左、右、左と∵順番に足を出すことも覚えました。三周目になると、ちょっと楽しくなってきました。
「うまい、うまい。コツがわかってきたみたいだね。」
と、お父さんも褒めてくれました。【8】お父さんと手をつないで何周か滑ったあとで、思い切って一人(ひとり)だけで滑ってみることにしました。深呼吸をして、
「できる、できる、絶対できる。」
と、自分に言い聞かせました。スーッと右足を出して、次はスーッと左足。とてもゆっくりだけど、私の体は進みました。
【9】「すごいぞう。やったな。」
お父さんの声が聞こえます。お父さんの顔を見ようと顔を上げた瞬間、また尻もちをついてしまいました。でも、痛くありません。どうしてかというと滑れたことが嬉しくて痛さも吹っ飛んでしまったからです。【0】その後も、何度も転びながら練習しました。時々お父さんがひとりで滑りに行くこともあります。お父さんはまるでスケート選手のようです。私は、うっとりしながら眺めました。私も早くあんなふうに滑れるようになりたいです。

(言葉の森長文(ちょうぶん)作成委員会 ω)