【1】すごくきれいね! トトが、かあさ んをふりむいていいました。 森の秋。森はきんいろとべにいろの色紙細 工です。もっと、あっちへいこう、――トト は、かあさんにせがみました。あぶないわ。 いまは、にんげんが山の中をあるきまわると きなのよ。【2】かあさんがとめました。だ ってこんなにきれいなんだもの。トトはピョ コピョコ、シカのよこっとびでかけだしまし た。そして谷まへの道にでたとたん、 ――おッ! たちすくんだのはトト。【3】たちどまっ てさっと鉄砲をかまえたのはにんげんです。 わかいりょうしです。かあさんが、ひととび でトトのよこにならびました。そして頭で、 トトをぐいと、おしていいます。トト、おに げ! トトはにげない。【4】トトは、とう さんのことをおもいだします。これがとうさ んをいなくしちまったにんげんか! トトは 夏にあったポロをおもいだします。ゾクッと からだじゅうをむしゃぶるいがはしり、トト は頭をぐっとさげ、するどい目つきで、りょ うしをにらみつけました。【5】トト! か あさんが、またおします。けれどトトは、け んめいです。ポロとおなじかまえで、さっと とびかかろうとしたとたん、 ――あっはっは! にんげんがわらいました。 ――うてねえな、おまえは……。 【6】そのわかいりょうしは、鉄砲のつつ さきをあげていいました。 ――そのちびさんが、かあさんをまもろうっ てんだからな。 トトはにんげんのいってることばは、わか らない。ただ、かあさんがもうおさないので 、きけんがさったことは、わかりました。 【7】――おれにゃ、うてねえよ。 りょうしは白い歯をみせて、かあさんに話 しかけるようにいいました。 ――こんなきれいな目のこジカは、ころせね え。 かあさんはトトに、ぴったりよりそいまし た。∵【8】トトはきゅうにぐったりして、 |
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そこへすわりこみたくなりました。そのと き、にんげんが、どなるようにいいました。 ――おい、早いとこにげてくれよ! また気 がかわるかもしれないんだぜ。 かあさんが、ぐいとトトをおしました。【 9】こんどはトトもひととびです。あかるい 栗色の二つのてんが森の中にきえたとき、り ょうしは鉄砲をかまえて空にむけてうちまし た。 グァアン! ……赤と黄のかれはが、パラ パラと、りょうしにふりかかりました。【0 】 「ぽけっとにいっぱい」『森のシカ、トト』 より(今江 祥智)フォア文庫 |