1. 【1】ところがあくる
朝、かあさんゾウが
目をさまして、おどろきました。バオバブがいなくて、そのかわり、ぜんぜんしらないゾウが、よこにねむっているのです。かあさんゾウは、あわててとうさんゾウをおこしました。
2. 【2】
目をこすりこすり、そのゾウをみてとうさんゾウもおおあわて。それにしても、なんというあつかましいゾウでしょう!
3. いや、それよりも、バオバブは、いったいどこへいったのでしょう。
4. 【3】ふたりはますますあわてて、そのゾウのおしりを、おもいきりけっとばしてやりました。もしかすると、その
下じきになっているかもしれないではありませんか。かわいそうなバオバブちゃん!
5. 【4】けれど、そのゾウはのんびりと
目をひらき、
6.――いたいなあ、とうさん……
7. というのです。
8.――とうさんだって!
9. とうさんゾウは、あきれてしまいました。こんな
大きなゾウに、とうさんなんてよばれるおぼえはない。【5】すると、かあさんゾウが、とんきょうな
声をあげました。
10.――まああ、とうさん、それはバオバブぼうやですよ!
11.――バオバブぼうやだって……。
12. どうみても、ぼうやなんてからだつきではないのです。とうさんゾウより
大きいくらいなのですから。
13.【6】――ほら、あの
目の下のなきぼくろ……
14. さすがはかあさんです。ちゃんと、むすこのとくちょうをおぼえていました。
15.――そうですよ、ぼく、バオバブですよ。 とうさんたら、じぶんのむすこをみわすれるなんて、ひどいなあ。
16. 【7】そんなことをいったって、この
大きなゾウを、どうしてきのうのかわいいバオバブぼうやだとおもえるでしょう。とうさんゾウは、じぶんの
耳をひっぱってみました。
17.――まだあんなことをやってる。ゆめじゃありませんよォ。
18. 【8】バオバブが、ふふくそうにいいました。
19.――ぼくだといったら、ぼくなんです。ぼくは、
大きくなるのがはやいだけなんですよ。∵
20. はやいといっても、はやすぎる、ひとばんでわしより
大きくなるなんてことがあるものか……と、とうさんゾウは、まだほんとうにできないようすです。
21. 【9】しかし、そういうあいだにも、 バオバブは、どうやらすこしずつそだってゆくようなのです。とうさんゾウは、すこしずつ
背のたかくなってゆくむすこをみあげなければなりませんでした。
目のまえのできごとです。ほんとうにするほかはありません。
22. 【0】そのうちに、バオバブはとうさんの二ばいほどの
大きさにもなってしまいました。ガスいりの
風船でなしに、なかみもちゃんとつまったほんもののゾウです。とうさんだといっても、きみわるがらずにはいられませんでした。このぶんでいったら、あしたは、どうなることでしょう。
23. とうさんゾウとかあさんゾウはかおをみあわせるばかりでした。
24.
25. バオバブは、そのちょうしでどんどん
大きくなりはじめました。
26. とうさんゾウは、むすこのかおをみるのに、えらくなんぎしなければなりませんでした。もともとくびのないゾウのこと、みあげるのはにがてなのです。
27. でも、そんなことはまだよかったのです。こまったことに、バオバブのからだが
大きくなるにつれて、バオバブがたべるものも、ずんずんふえてゆくのです。みるみるうちに、あたりのたべものは、きれいさっぱりなくなってしまいました。これでは、ゾウがものすごいいきおいでふえてゆくようなものでした。とうさんゾウは、いそいでとしよりたちのところへしらせにいきました。
28.
話をきいてほんきにしなかったとしよりたちも、バオバブをみると、たまげてしまいました。これが、ついこのあいだ、ほそいはなを
風にふかれて
目をほそめていたゾウのあかんぼうでしょうか。
29. としよりたちは、イヌがウマをみあげるようにバオバブをみあげなければならないので、すっかりあわててしまいました。そして、バオバブのたべっぷりをみて、もっとあわてました。これでは、いくらたべものがあっても、たりなくなってしまう。たいへんなゾウをかかえこんだものです。
30.「ぽけっとにいっぱい」より(
今江 祥智)フォア
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