長文集  1月3週  ★ひろいせかいに(感)(できるだけ自由な題名で)  e-01-3
    毎日1ページ音読しましょう。漢字はふりがなをつけずに読めるようにしておきましょう。  2014/12/14 16:47:00
 【1】ひろいせかいにでられたうれしさに
、ユラは、からだじゅうウーンとのばして、
花のひらくようにひらいたのです。ところが
ね、おわんのようにまるいぼうしのかわりに
、ユラのは四角、まっ四角なのです。【2】
ユラは、となりにうかんでいるなかまにたず
ねました。
――ねえきみ、ぼく、まるくならないんだよ

 するとそのクラゲは、ユラをながめて、お
おごえをあげました。
――おやおや、ほんとだ。おーい、みんな、
みてごらん。へんなのがいるぜ。
 【3】たちまち、なん十ぴきものクラゲた
ちが、ゆらゆらゆらとなみにのってきて、ユ
ラをかこみました。
――へんなの。
――まるくないぜ。
――ぼくらとちがってらあ。
――クラゲじゃないわ。
 ユラぼうやは、びっくりしました。
【4】――ちがうよ、ぼく、クラゲだよ。ほ
ら、足も手もみんなとおなじだけあるし、い
ろもこえも、おなじじゃないの。
――だって、まるくないぜ。
――四角いクラゲなんてみたことないや。
 そこでみんなこえをそろえて、アッハッハ
とわらうのです。
 【5】ユラはもう、なにもいえなくなり、
そのまま海のあおいろのなかにとけてしまい
たいとおもいました。あぶくのように、シュ
ンときえたほうがいいなとさえおもいました
。けれど、どちらもできぬこと。【6】ユラ
はだまって、なかまからはなれました。そし
て、ちいさななみ、大きななみにゆられなが
ら、その夜は、ひとりでねむりました。
 あくるあさから、ユラはいっしょうけんめ
いに、じぶんのなかまをたずねてまわりまし
た。
 【7】まず、イカのところでききました。
――ね、ぼく、あんたのなかまなの?
――じょうだんじゃなぃ。四角いイカなんて
いるものか。イカは三角にきまってる。一角
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おおいよ。それに、きみは、ぼくみたいには
やくおよげないじゃないか。∵
 【8】そういうとイカは、ロケットみたい
にシュウッと水をふくむと、さっとおよいで
いってしまいました。ふうん、と、ぼうやは
またゆられてゆきます。
 こんどはタコ。
――ね、ぼく、あんたのなかまかしら?
【9】――なんだって。そんな白いタコなん
ているかい。それに足のかずだってちがうし
、だいいち、このイボイボがないじゃない 
か。
 そういうと、タ()コはプウウッとスミを
ふっかけて、いってしまいました。
 【0】だめかなあ……ぼうやはスミをふき
とりながら、またゆらゆらとはなれてゆきま
す。
 つぎはナマコ。
――ね、ぼく、あんたのなかまだね。
――フフフフ、きみ、足が長すぎますよ。ほ
ら、ぼくらは、もっとずんぐりしてるんだよ

 そういいながら、ヨタヨタと、からだじゅ
うであるいていってしまいました。
 クラゲのぼうやは、しかたなく、もとのと
ころへもどるほかはありませんでした。
 けれど、みんなもなかまにいれてくれませ
ん。ユラはひとりぽつんとはなれて、ゆらゆ
ら、ゆられていました。
 ユラは、できるだけまるくなろうとやって
みました。ぜんぶの足をつっぱって、あたま
をまるくおしてみたり、プーンと、おもいき
りふくれてみたり、岩にかどっこをゴツンと
ぶつけてみたり……でも、どうしても、まる
くならないのです。その夜も青い三日月が、
空にかかっていました。
 ひとりぼっちのユラは、三日月にきいてみ
ようとおもいました。
――ね、お月さま、ぼく、どうしてまるくな
らないのかしら……。
 お月さまは、なにもこたえない。ただ、き
れいにしずかに光っています。でも、あおい
光をあびていると、ユラはとてもなつかしい
気もちになって、ひとりでに、おいのりした
くなるのでした。

「ぽけっとにいっぱい」『四角いクラゲの子
』より(今江 祥智)フォア文庫