【1】ひろいせかいにでられたうれしさに 、ユラは、からだじゅうウーンとのばして、 花のひらくようにひらいたのです。ところが ね、おわんのようにまるいぼうしのかわりに 、ユラのは四角、まっ四角なのです。【2】 ユラは、となりにうかんでいるなかまにたず ねました。 ――ねえきみ、ぼく、まるくならないんだよ 。 するとそのクラゲは、ユラをながめて、お おごえをあげました。 ――おやおや、ほんとだ。おーい、みんな、 みてごらん。へんなのがいるぜ。 【3】たちまち、なん十ぴきものクラゲた ちが、ゆらゆらゆらとなみにのってきて、ユ ラをかこみました。 ――へんなの。 ――まるくないぜ。 ――ぼくらとちがってらあ。 ――クラゲじゃないわ。 ユラぼうやは、びっくりしました。 【4】――ちがうよ、ぼく、クラゲだよ。ほ ら、足も手もみんなとおなじだけあるし、い ろもこえも、おなじじゃないの。 ――だって、まるくないぜ。 ――四角いクラゲなんてみたことないや。 そこでみんなこえをそろえて、アッハッハ とわらうのです。 【5】ユラはもう、なにもいえなくなり、 そのまま海のあおいろのなかにとけてしまい たいとおもいました。あぶくのように、シュ ンときえたほうがいいなとさえおもいました 。けれど、どちらもできぬこと。【6】ユラ はだまって、なかまからはなれました。そし て、ちいさななみ、大きななみにゆられなが ら、その夜は、ひとりでねむりました。 あくるあさから、ユラはいっしょうけんめ いに、じぶんのなかまをたずねてまわりまし た。 【7】まず、イカのところでききました。 ――ね、ぼく、あんたのなかまなの? ――じょうだんじゃなぃ。四角いイカなんて いるものか。イカは三角にきまってる。一角 |
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おおいよ。それに、きみは、ぼくみたいには やくおよげないじゃないか。∵ 【8】そういうとイカは、ロケットみたい にシュウッと水をふくむと、さっとおよいで いってしまいました。ふうん、と、ぼうやは またゆられてゆきます。 こんどはタコ。 ――ね、ぼく、あんたのなかまかしら? 【9】――なんだって。そんな白いタコなん ているかい。それに足のかずだってちがうし 、だいいち、このイボイボがないじゃない か。 そういうと、タ()コはプウウッとスミを ふっかけて、いってしまいました。 【0】だめかなあ……ぼうやはスミをふき とりながら、またゆらゆらとはなれてゆきま す。 つぎはナマコ。 ――ね、ぼく、あんたのなかまだね。 ――フフフフ、きみ、足が長すぎますよ。ほ ら、ぼくらは、もっとずんぐりしてるんだよ 。 そういいながら、ヨタヨタと、からだじゅ うであるいていってしまいました。 クラゲのぼうやは、しかたなく、もとのと ころへもどるほかはありませんでした。 けれど、みんなもなかまにいれてくれませ ん。ユラはひとりぽつんとはなれて、ゆらゆ ら、ゆられていました。 ユラは、できるだけまるくなろうとやって みました。ぜんぶの足をつっぱって、あたま をまるくおしてみたり、プーンと、おもいき りふくれてみたり、岩にかどっこをゴツンと ぶつけてみたり……でも、どうしても、まる くならないのです。その夜も青い三日月が、 空にかかっていました。 ひとりぼっちのユラは、三日月にきいてみ ようとおもいました。 ――ね、お月さま、ぼく、どうしてまるくな らないのかしら……。 お月さまは、なにもこたえない。ただ、き れいにしずかに光っています。でも、あおい 光をあびていると、ユラはとてもなつかしい 気もちになって、ひとりでに、おいのりした くなるのでした。 「ぽけっとにいっぱい」『四角いクラゲの子 』より(今江 祥智)フォア文庫 |