1. 知り合いの内科の医者が言うことにゃ、
2.「長生きの基本的な
秘訣は、血液がサラサラしていることだね」
3.というんです。これはどういうことかというと、血液がネバネバしてくるのが短命のもとだということなんです。血液がねばってくると、高血圧、ガンなどの諸病のもとになる。だから、自分の血からねばり気をとるのが、成人病を防ぐコツだと言うのです。
4.「では、どうすりや、血はサラサラになるの?」
5.と聞くと、「くいものだよ。日常のくいものを変えるのさ」という返事です。では、どんな食物かというと
6.「まず、肉を止めるんだね。魚にするんだ。豆、
芋、菜っ葉などのあっさりした味つけのものにする。グルメっていうやつ、あのうまいもん探しに夢中になっているのは、死に急いでいるようなもんだよ」
7. なるほど、
旨いものに
淫していると、命までも危なくなってくるんだなあ、と思い至ったわけです。
8. といって、では、肉も砂糖も酒も絶対に止めて、というのもいかがなものでしょうか?
9. ごく少量にするまでは良いのですが、完全に食べないというと、これも「止める」ことに
淫していることにはならないでしょうか?
10. こうして考えてみると、ストレスとは、どうも、何かに
淫し始めたあたりから発生し始めるようでもあります。
11. 考えてみれば、あれもほどほどに、これもほどほどに、と、すべて無事
平穏ばかり願って生きるのも、何か老人の
知恵ばかりに終始していて、ちょっと面白くないような気もします。『論語』にも、「
吾、七十にして、心の欲する所に従えども、
矩をこえず」とありますが、
孔子さまといえども、こういう境地に
到達したのは七十
歳で、それまでは大いにのりを
越え過ぎて、失敗と
後悔多き人生だったのではないでしょうか?
12. 人間何事によらず、夢を持ち、その達成に
懸命になると、しばしば、その言行が
傾(かぶ)いてくることがあります。
換言すれば、
奇行が多くなってくるのです。しかし、これも血の気の多い若いうちなればこそ、多少の行き過ぎもやむを得ないし、また面白味のあるところではないでしょうか。∵
13. ただ、ここでそのストッパーとして一言。「その行き過ぎは、はたを楽にするという一線においてとどめられなければならない」。すなわち、「はたを苦にする働きであるならば、その働きは
淫したものとして、改められなければならない」ということです。なぜならば、「はた苦」は、自分に近い者ばかりでなく、自分自身の幸福感をも損なってしまうからなのです。
14. 人生、自分のやりたいことを
貫けるのは、たしかに素晴らしいことですが、それにしても、それは、「はた苦」を
考慮した上のことでなければ、良く生きるのは難しいようです。
15. 昔、ある
お婆さんが面白いことわざを言ったのを覚えています。ここに
紹介しておきましょう。
16.「人もよかれ。我もよかれ。我は人より、ちょっとよかれ」
17. (月刊「
致知」無能唱元氏の文章より)