長文集  9月3週  ★知り合いの内科の医者が(感)  1i-09-3
    毎日1ページ音読しましょう。漢字はふりがなをつけずに読めるようにしておきましょう。  2020/06/14 15:07:20
 知り合いの内科の医者が言うことにゃ、
「長生きの基本的な秘訣は、血液がサラサラ
していることだね」
というんです。これはどういうことかという
と、血液がネバネバしてくるのが短命のもと
だということなんです。血液がねばってくる
と、高血圧、ガンなどの諸病のもとになる。
だから、自分の血からねばり気をとるのが、
成人病を防ぐコツだと言うのです。
「では、どうすりや、血はサラサラになるの
?」
と聞くと、「くいものだよ。日常のくいもの
を変えるのさ」という返事です。では、どん
な食物かというと
「まず、肉を止めるんだね。魚にするんだ。
豆、芋、菜っ葉などのあっさりした味つけの
ものにする。グルメっていうやつ、あのうま
いもん探しに夢中になっているのは、死に急
いでいるようなもんだよ」
 なるほど、旨いものに淫していると、命ま
でも危なくなってくるんだなあ、と思い至っ
たわけです。
 といって、では、肉も砂糖も酒も絶対に止
めて、というのもいかがなものでしょうか?
 ごく少量にするまでは良いのですが、完全
に食べないというと、これも「止める」こと
に淫していることにはならないでしょうか?
 こうして考えてみると、ストレスとは、ど
うも、何かに淫し始めたあたりから発生し始
めるようでもあります。
 考えてみれば、あれもほどほどに、これも
ほどほどに、と、すべて無事平穏ばかり願っ
て生きるのも、何か老人の知恵ばかりに終始
していて、ちょっと面白くないような気もし
ます。『論語』にも、「吾、七十にして、心
の欲する所に従えども、矩をこえず」とあり
ますが、孔子さまといえども、こういう境地
に到達したのは七十歳で、それまでは大いに
のりを越え過ぎて、失敗と後悔多き人生だっ
たのではないでしょうか?
 人間何事によらず、夢を持ち、その達成に
懸命になると、しばしば、その言行が傾(か
ぶ)いてくることがあります。換言すれば、
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奇行が多くなってくるのです。しかし、これ
も血の気の多い若いうちなればこそ、多少の
行き過ぎもやむを得ないし、また面白味のあ
るところではないでしょうか。∵
 ただ、ここでそのストッパーとして一言。
「その行き過ぎは、はたを楽にするという一
線においてとどめられなければならない」。
すなわち、「はたを苦にする働きであるなら
ば、その働きは淫したものとして、改められ
なければならない」ということです。なぜな
らば、「はた苦」は、自分に近い者ばかりで
なく、自分自身の幸福感をも損なってしまう
からなのです。
 人生、自分のやりたいことを貫けるのは、
たしかに素晴らしいことですが、それにして
も、それは、「はた苦」を考慮した上のこと
でなければ、良く生きるのは難しいようです

 昔、あるお婆さんが面白いことわざを言っ
たのを覚えています。ここに紹介しておきま
しょう。
「人もよかれ。我もよかれ。我は人より、ち
ょっとよかれ」

 (月刊「致知」無能唱元氏の文章より)