私たちは人を病気にさせる遺伝子も抱えて います。たとえばガン遺伝子というのがある わけですが、一方でガン抑制遺伝子も見つか っています。ガンの遺伝子があっても、また 抑制遺伝子があって、これでバランスを保っ ている。ほかのこともだいたいそういうふう になっています。 大切なのはバランスです。体のなかで起き ている変化は、私たちにはとてもすべてをた どれませんが、たとえばガン遺伝子は目に見 えないところでONになって、ガン細胞をつ くりはじめているかもしれないのです。する と、それを抑制したり消去したりする遺伝子 がはたらいて、発病させない状態を保ってい る。これがバランスのとれた状態で、大きく バランスが崩れたときに、支えきれなくなっ て病気の加速度的な進行がはじまるわけです 。 いままでは、そのきっかけを与えるものが 、遺伝外情報と考えられていた。環境因子な どがそれですが、この場合の環境因子という のは、食生活とかタバコ、水、食品に含まれ る化学物質などで、これらが「危険だ」とい われてきました。 たしかに危険がないとはいえませんが、遺 伝子研究でかなりはっきりみえてきたことの 一つは「環境因子の影響は個人差が大きい」 ということです。これは遺伝子が一人ひとり 違うことが大きくかかわっていると考えられ ます。 前にも述べたように、タバコを一本も吸わ なくても肺ガンになるというのは、やはり肺 ガンを促進するような遺伝子を内部に抱えて いたためだと思うのです。そういう要因に環 境因子が加わる。物理的な環境因子はだれに も同様に降りかかってきますが、内部要因と の合体で、それが加速される。詳しい仕組み はわかりませんが、そういうかたちで病気に なる例がたくさんあると思うのです。 その場合にわるい遺伝子にブレーキをかけ 、よい遺伝子を活性化する方法として、どん な境遇や条件を抱えた人にでもできることと いえば、心の持ち方しかありません。しかも |
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心の持ち方はよくもわるくも大きな影響を及 ぼすらしい。「病は気から」と昔からいわれ てきましたが、体と心というのは従来考えら れていた以上に相互作用がある、ということ を示す状況証拠がたくさん出てきているので す。 最近では心と体の関連を否定する人は、さ すがに少なくなりましたが、多くの人はまだ 環境因子というと、外部的な目に見える要因 にばかり目を向けている。でも遺伝子解読が 進む二十一世紀は、心の持ち方が最大の問題 になってくると思います。 その場合に脳のはたらきを心のはたらきと 思っている人もいるようです。たしかに脳の はたらきが体に与える影響は大きいのです が、体のなかのいちばんの司令塔は遺伝子で す。精神作用と遺伝子の関係はまだはっきり していませんが、従来からいわれてきた自然 治癒力を発揮する鍵は、遺伝子がもっている と私は思っています。 (村上和雄著 「生命の暗号」より) |