長文集  3月1週  ★私たちは人を病気にさせる遺伝子(感)  1e-03-1
    毎日1ページ音読しましょう。漢字はふりがなをつけずに読めるようにしておきましょう。  2012/06/15 08:09:22
 私たちは人を病気にさせる遺伝子も抱えて
います。たとえばガン遺伝子というのがある
わけですが、一方でガン抑制遺伝子も見つか
っています。ガンの遺伝子があっても、また
抑制遺伝子があって、これでバランスを保っ
ている。ほかのこともだいたいそういうふう
になっています。
 大切なのはバランスです。体のなかで起き
ている変化は、私たちにはとてもすべてをた
どれませんが、たとえばガン遺伝子は目に見
えないところでONになって、ガン細胞をつ
くりはじめているかもしれないのです。する
と、それを抑制したり消去したりする遺伝子
がはたらいて、発病させない状態を保ってい
る。これがバランスのとれた状態で、大きく
バランスが崩れたときに、支えきれなくなっ
て病気の加速度的な進行がはじまるわけです

 いままでは、そのきっかけを与えるものが
、遺伝外情報と考えられていた。環境因子な
どがそれですが、この場合の環境因子という
のは、食生活とかタバコ、水、食品に含まれ
る化学物質などで、これらが「危険だ」とい
われてきました。
 たしかに危険がないとはいえませんが、遺
伝子研究でかなりはっきりみえてきたことの
一つは「環境因子の影響は個人差が大きい」
ということです。これは遺伝子が一人ひとり
違うことが大きくかかわっていると考えられ
ます。
 前にも述べたように、タバコを一本も吸わ
なくても肺ガンになるというのは、やはり肺
ガンを促進するような遺伝子を内部に抱えて
いたためだと思うのです。そういう要因に環
境因子が加わる。物理的な環境因子はだれに
も同様に降りかかってきますが、内部要因と
の合体で、それが加速される。詳しい仕組み
はわかりませんが、そういうかたちで病気に
なる例がたくさんあると思うのです。
 その場合にわるい遺伝子にブレーキをかけ
、よい遺伝子を活性化する方法として、どん
な境遇や条件を抱えた人にでもできることと
いえば、心の持ち方しかありません。しかも
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心の持ち方はよくもわるくも大きな影響を及
ぼすらしい。「病は気から」と昔からいわれ
てきましたが、体と心というのは従来考えら
れていた以上に相互作用がある、ということ
を示す状況証拠がたくさん出てきているので
す。
 最近では心と体の関連を否定する人は、さ
すがに少なくなりましたが、多くの人はまだ
環境因子というと、外部的な目に見える要因
にばかり目を向けている。でも遺伝子解読が
進む二十一世紀は、心の持ち方が最大の問題
になってくると思います。
 その場合に脳のはたらきを心のはたらきと
思っている人もいるようです。たしかに脳の
はたらきが体に与える影響は大きいのです 
が、体のなかのいちばんの司令塔は遺伝子で
す。精神作用と遺伝子の関係はまだはっきり
していませんが、従来からいわれてきた自然
治癒力を発揮する鍵は、遺伝子がもっている
と私は思っています。

 (村上和雄著 「生命の暗号」より)