黄エニシダ の山 3 月 1 週 (5)
★私たちは人を病気にさせる遺伝子(感)   池新  
 私たちは人を病気にさせる遺伝子も抱えています。たとえばガン遺伝子というのがあるわけですが、一方でガン抑制遺伝子も見つかっています。ガンの遺伝子があっても、また抑制遺伝子があって、これでバランスを保っている。ほかのこともだいたいそういうふうになっています。
 大切なのはバランスです。体のなかで起きている変化は、私たちにはとてもすべてをたどれませんが、たとえばガン遺伝子は目に見えないところでONになって、ガン細胞をつくりはじめているかもしれないのです。すると、それを抑制したり消去したりする遺伝子がはたらいて、発病させない状態を保っている。これがバランスのとれた状態で、大きくバランスが崩れたときに、支えきれなくなって病気の加速度的な進行がはじまるわけです。
 いままでは、そのきっかけを与えるものが、遺伝外情報と考えられていた。環境因子などがそれですが、この場合の環境因子というのは、食生活とかタバコ、水、食品に含まれる化学物質などで、これらが「危険だ」といわれてきました。
 たしかに危険がないとはいえませんが、遺伝子研究でかなりはっきりみえてきたことの一つは「環境因子の影響は個人差が大きい」ということです。これは遺伝子が一人ひとり違うことが大きくかかわっていると考えられます。
 前にも述べたように、タバコを一本も吸わなくても肺ガンになるというのは、やはり肺ガンを促進するような遺伝子を内部に抱えていたためだと思うのです。そういう要因に環境因子が加わる。物理的な環境因子はだれにも同様に降りかかってきますが、内部要因との合体で、それが加速される。詳しい仕組みはわかりませんが、そういうかたちで病気になる例がたくさんあると思うのです。
 その場合にわるい遺伝子にブレーキをかけ、よい遺伝子を活性化する方法として、どんな境遇や条件を抱えた人にでもできることといえば、心の持ち方しかありません。しかも心の持ち方はよくもわるくも大きな影響を及ぼすらしい。「病は気から」と昔からいわれてきましたが、体と心というのは従来考えられていた以上に相互作用がある、ということを示す状況証拠がたくさん出てきているのです。
 最近では心と体の関連を否定する人は、さすがに少なくなりましたが、多くの人はまだ環境因子というと、外部的な目に見える要因にばかり目を向けている。でも遺伝子解読が進む二十一世紀は、心の持ち方が最大の問題になってくると思います。
 その場合に脳のはたらきを心のはたらきと思っている人もいるようです。たしかに脳のはたらきが体に与える影響は大きいのですが、体のなかのいちばんの司令塔は遺伝子です。精神作用と遺伝子の関係はまだはっきりしていませんが、従来からいわれてきた自然治癒力を発揮する鍵は、遺伝子がもっていると私は思っています。

 (村上和雄著 「生命の暗号」より)