長文集  2月2週  ★私はいじめと、生徒のいさぎよく(感)  1e-02-2
    毎日1ページ音読しましょう。漢字はふりがなをつけずに読めるようにしておきましょう。  2012/06/15 08:09:22
 私はいじめと、生徒のいさぎよくない行為
に出くわしたときは、絶対許せなくなります
。例えば、あることで他の生徒が白状してい
るのに、白々しく嘘を言い続ける生徒がいま
した。私は、バーンとテーブルを飛び越え、
その生徒の横っツラを張り倒した。その折、
何かの金具に手の甲が触れたのでしょう。私
の手から血が流れ出しました。でも、殴るの
をやめなかった。すると、周りの仲間がその
生徒に言うのです。
「お前、早く謝れ。みんなバレているんだか
ら謝れ、早く」
 生徒は「なんだ、もうバレてしまってたの
か」。実にあっけらかんとした表情で、すべ
てを白状しました。そんなことがあった後 
は、人間関係が逆に深まります。そして、彼
らはさまざまな情報を私に提供してくれるよ
うになるのです。
 いまの学校現場には、こういう場面があま
りにも少ないようで す。若い先生などはヒ
ステリックなまでの暴力反対の教育を受けて
きているし、自分自身も受験勉強一筋でケン
カをした体験がない。だから、小学校などで
はちょっとしたケンカでも教師がすぐ止め 
て、満足にケンカもさせません。
 私は違います。こんなふうに生徒とやりと
りをする。
「ケンカかあ、それともいじめかあ」
「ケンカです」
「そうか。じゃあ、机を隅に寄せて思う存分
やらせろッ」
 小学生、中学生のときのケンカは思いきり
やらせればいい。そのなかで痛みもわかるし
、それ以上やればどうなるかという頃合い 
も、自然と身に着いてきます。疲れたからも
うやめたという具合にもなる。
「先生、頭にきたぜ」
「なんでだ」
「止めてくれればいいじゃないか」
 私が止めないから、ケンカを続けなければ
ならない。ケンカをしている双方が、「文句
」をつけてくる。荒れる黒中時代はこんなケ
ースがいくつもありました。
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 その荒れる子供たちが一番腹立たしく思う
のは何か、ご存じでしょうか。それは教師に
「シカト」されること、つまり「無視」され
ることなのです。ある男子生徒が卒業間際に
話してくれました。一学期のある日の英語の
授業で、教師が前の席の生徒から順番に質問
をしてくる。「次はおれの番だ」と思った彼
は、「わかりません」という言葉を用意して
待っていたというのです。ところが、教師は
彼をポンと飛ばして、次の生徒を指名した。
瞬間、彼は逆上して、「ばかにするな、この
野郎」と机をひっくり返し、教室を飛び出し
ました。以後、その教師の授業に出席するこ
とはなかったといいます。
 愛情の反対は、憎しみではない。愛情の反
対は無関心なのだ、と私は思うのです。机を
ひっくり返した生徒は「無視」という氷の刃
をグサリと突き刺されました。彼は腹を立て
るというよりも、悲しかったのです。

 (「致知」九七年八月号 木村将人氏の文
章より)