長文集  5月2週  ★このような社会的な傾向が(感)  1a-05-2
    毎日1ページ音読しましょう。漢字はふりがなをつけずに読めるようにしておきましょう。  2012/06/15 08:09:22
 このような社会的な傾向が三〇年先にどの
ようになっているかを現在時点で予測するこ
とは困難だし、またその結論を保証すること
はできないが、次のような手法は可能だし、
また企業として将来の目標を立てるために使
える。それにはまず、
 (1)三〇年先の望ましい社会または個人
の姿を設定する。
 (2)それに到達する上でのボトルネック
に何があるかを洗い出す。
 (3)そのボトルネックを解決するには行
政、企業、個人はどのようなことをすればよ
いかをリストアップする。
 (4)そのための技術、製品、流通、など
として何が考えられるか。という方法論であ
る。
 三〇年先へのボトルネックといってもピン
と来ないかもしれないが、いくつかの例を示
せば次々と見えてくるはずだ。そのひとつは
もちろん高齢化社会への移行から来る数々の
問題だ。問題があるということは、それを解
決するための方法が見つかればビジネスとし
て成立するということである。
 すでに日本だけではなく高齢化が進む工業
先進国の間では、そのための技術開発が次々
と進められている。日本でも一般住宅用のエ
レべーターが開発されて、新しい市場が生ま
れた。また二四時間沸き放しの風呂も若い人
からの要求ではなく、ある年齢層以上の市場
を開拓した。
 ここで日本のボトルネックの例としてまず
高齢化の話を取り上げたが、日本の経済とい
う立場からすると、最も大きな課題は世界の
中で日本の産業が三〇年先でも優位性を保つ
ことができるかどうかということである。も
っとわかりやすくいえば、どの種類の産業で
稼ぐことができるかということだ。
 産業の競争力を示す一般的な指標として使
われるのは生産性である。つまり生産のため
に投入する人、設備、資金、原材料、時間な
どが単位当たりどれだけの付加価値を産出で
きるかという数字である。これらが低いレベ
ルにあればコストが高いということに相当す
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るのだから稼ぎが少なくなり、それだけひ弱
な経済ということになる。
 日本のボトルネックとして現在誰でもいう
のが日本の物価高だ が、その原因は簡単だ
。∵日本国内には海外に比べて生産性の低い
分野がかなりあるからだ。日本国内ではすべ
ての物価が高いわけではない。海外よりもむ
しろ安いものも結構ある。自動車はそうだ 
し、エレクトロニクス製品がそうだ。一般的
に海外製品と直接ぶつかり合うものはだいた
い日本製は強い。それは負けると会社が潰れ
るから、石にかじりついても何とか生産性を
上げて価格競争に耐えているのである。
 ところがこのような海外との競争原理の働
きにくいところではどうしても経営が甘くな
って生産性が低く、内外価格差に直接効いて
いるのである。このことはデータから明らか
に示されている。
 このようなことが長続きするはずはない。
必ず生産性革命が起きる。むしろこれらの分
野は日本国内にまだ眠っている未利用資源で
ある。これらはすべてニュービジネスの種に
なる。
 いまマルチメディア革命という言葉がはや
っているが、マルチメディアの使い道で一番
インパクトの大きいもののひとつは物流の効
率化である。その原理は、必要なときに必要
なものをその数だけ生産し、要求されたとこ
ろに届けるということであって、それらを管
理するのが時間という情報である。そしてこ
れは情報技術があって初めて可能なのだ。
 日本では製造業の高い生産性は誰もが認め
ていたが、流通業には革命がいるといわれて
いた。これに対して全く新しいシステムの構
築に成功したセブン-イレブンは好調である
。日本のセブン-イレブンはアメリカの本家
がおかしくなったのを日本で開発したシステ
ムを逆に持って行って建て直しに成功した。
セブン-イレブンの流通管理のシステムの生
産性は世界のトップレベルにある。
 このような日本人独特のきめの細かさで実
現した生産性の高いシステムを逆に海外企業
に持って行って成功した例が最近では珍しく
なくなっている。
 このことは重要である。どのようにすれば
海外以上の生産性を上げることができるかの
ノウハウは、日本国内に結構あるし実績を持
っている。したがってこれからの日本国内で
は、低い生産性分野で新しい革命が文句なし
に進むと考えてよかろう。これに高齢化によ
る国内独自の圧力が加わるから、その速度は
予想外に早いはずだ。そしてその新しい社会
革命の中で最も有効に使われる道具が情報技
術である。(「日本・陽は必ず昇る」唐津一
より)