長文集  5月1週  ★地球が抱えるこれからの課題(感)  1a-05-1
    毎日1ページ音読しましょう。漢字はふりがなをつけずに読めるようにしておきましょう。  2012/06/15 08:09:22
 地球が抱えるこれからの課題というと、一
般的に誰の頭にも浮かぶのが地球規模で進む
人口の爆発的増加と、これに対応できるかど
うかの食糧生産の可能性、さらにはエネルギ
ー消費の増大、人々の生活の高度化による廃
棄物の増大といったことになるが、それが日
本国内ということになると様子がいささか変
わってくる。出生率の低下から日本の人口に
ついてはむしろその減少ということが問題に
なるので、地球規模で語られる話とは様子が
変わってくる。エネルギーにしても、日本で
実証炉が動くことになっている核融合がモノ
になれば事態は一変する。
 そこでここでは日本を中心とした話題をま
ず取り上げ、その上で地球規模で展開しつつ
ある各種の問題と、これに対応する技術の動
きという順序で検討していくことにする。
 まず人が生きていくには食糧がいるが、日
本の自然的条件としては、国内での自給自足
は可能である。それには現在までの状況はす
べて無視して、食糧生産の原点から考えてみ
ると全く別な姿が見えてくる。
 農業の場合まず必要なのはもちろん土地だ
が、日本列島の土質は幸いなことに農業には
最も向いている。スペインの上を飛ぶと、ど
こまで行っても赤茶けた埃(ほこり)だらけ
の粘土質の土地が続いて、これではオリーブ
かせいぜい葡萄くらいしかできないことがす
ぐわかる。ところが日本列島は飛行機で飛ぶ
と南から北まで緑滴る島である。
 次は水だが、周囲が海に囲まれているおか
げで欧州の平均値の二倍から三倍は雨が降る

 最後に太陽だが、亜熱帯のおかげで欧州と
は比べものにならないくらいに日照時間は長
い。つまり農業の原点である土地と水と太陽
がこれだけそろっている。それでいながら日
本の農業がとやかくいわれるとしたら、明ら
かに人災であって天災では絶対にない。その
証拠はいくらでもある。∵
 まず食糧の基本は穀類であるが、日本は音
から瑞穂の国といわれるように米作について
は世界でも珍しいぐらいによい条件を持って
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いる。米という作物は同じ場所で連続してつ
くっても、地力が衰えることがない。
 一般的にいって、植物というのは一回その
場所で実をみのらせると、地力が枯れてしま
って、あと何年かはその場所ではつくれない
ことがある。ところが米は連作がきく非常に
便利な作物である。
 しかも、日本の米作技術は長い間の積み上
げによって、世界のトップレベルをいってい
る。現に日本から現在途上国に派遣されてい
るOECDの援助による技術指導員の中には
、米作をその地域に伝えるための人々が圧倒
的に多い。それは、よくいわれる食糧危機に
備えるために、途上国に日本の米作技術を伝
えるということで、先方からの熱い要請によ
って行っているのである。
 さらに、品種改良についても日本は世界で
も高いレベルにある。現実にいま日本の政府
は米がとれすぎるということを恐れて、減反
政策というのをとっている。ところが減反を
やってもやっても、米ができすぎるのである
。それは農家の方々が米というのは非常に生
産性の高い穀物であることをよく知っていて
、それをつくることを続けた結果である。
 一般的にいって、米というのは食べるため
の加工が非常に簡単である。水を入れて火に
かければよい。ところが、その他の穀類とい
うのは、食べるまでの途中の処理が大変であ
る。小麦にしても、またトウモロコシにして
も、その加工技術をうまくやらないと、でき
あがった食物というのは我々の喉をうまく通
らない。
 しかも、米というのは非常に美味しい。よ
くいわれるように、中国においては、貧しい
時代にはコーリャンとか、トウモロコシを食
べていた。ところが一度米を食べてみると、
その味の魅力に引かれて、コーリャンとかト
ウモロコシを食べなくなった。それぐらい味
についてもいい。これだけ優れた米をつくる
力を日本の国土は持っているわけである。そ
の証拠がいくらでもある。∵
 皆に自由にやらせたら、どれだけ米がとれ
るかということのひとつのモデルは秋田県の
大潟村である。大潟村というのは八郎潟を干
拓して、日本の新しい農地をつくろうという
ことでスタートしたわけである。そのときに
全国から、やる気のある農村の人々を集めて
つくった、全く新しい人工の村である。また
、農業のためのいろいろな機械も大量に投入
した。だから一人当たりの生産性は非常に高
い。
 その地区の豊かさを示す数字は民力という
のがあるが、日本の全体平均を百としたとき
に、地方都市ではせいぜい九〇前後である。
ところが、大潟村は一三六なのである。大潟
村に行ってみるとよくわかるけれど、農民の
方々は実に豊かな生活をしている。つまり、
日本の農村というのは、自由に米をつくらせ
ると、ものすごい生産性を持っているという
ことがこれを見てもわかるのである。
 (「日本・陽は必ず昇る」唐津一 PHP
研究所より)