長文 10.3週
1. 包丁ほうちょうゆびを切ってしまったり、転んころ でひざをすりむいたり、そんな怪我けがをした経験けいけんはだれにでもあるでしょう。そんなとき傷口きずぐちからが出てきます。ひどい怪我けがの場合は流れ出るなが で こともあります。痛いいた のはもちろんのこと、普段ふだんはあまり見ることのない赤いがにじみ出てくるのですから、しばらくは大騒ぎおおさわ してしまうかもしれません。その騒ぎさわ がおさまり、心も平静へいせい取り戻すと もど ころ傷口きずぐちににじんでいたは、のりのように固まっかた  てきているはずです。やがて少しずつ乾いかわ 固くかた なり、かさぶたになるのです。 
2. 、つまり血液けつえきにはたくさんの働きはたら があります。傷口きずぐちから出てきた血液けつえき固まるかた  のは、血小板けっしょうばんという物質ぶっしつ働いはたら てくれるためです。血液けつえきはいくつかの成分せいぶんが合わさって形作られていますが、血液けつえきの中で血小板けっしょうばん占めるし  割合わりあいやく五パーセントにすぎません。ふだん静かしず 血小板けっしょうばんは、怪我けがをしたときにだけ、まるで決勝けっしょうせんのように大活躍かつやくするのです。
3. では、けがをしたときに血小板けっしょうばんはどのように働いはたら を止めるのでしょうか。血管けっかんのどこにもきずがなく、止血しけつ必要ひつようがないときの血小板けっしょうばんの形は、丸くて平たくひら  、まるでおはじきのようです。そのおはじきは血液けつえき流れなが とともに、体中をめぐっています。町中を巡回じゅんかいするおまわりさんといったところでしょうか。∵
4. ところが、血管けっかん傷口きずぐちができるという緊急きんきゅう事態じたい発生はっせいすると、巡回じゅんかい中の血小板けっしょうばんたちはあっというまに現場げんば集まっあつ  てきます。そのときは、おはじきだった体を金平糖こんぺいとうのように変化へんかさせます。この変身へんしんは「血小板けっしょうばん活性かっせい」と呼ばよ れています。平たかっひら   た体はボールのような球状きゅうじょう変わりか  、おまけに何本もの手足が飛び出しと だ てきます。この手足は偽足ぎそく呼ばよ れますが、「にせのあし」と書かれたその字のごとく、まるで足のような働きはたら をします。緊急きんきゅう時の血小板けっしょうばんは、この偽足ぎそくをじょうずに操っあやつ 血管けっかんの中をすばやく移動いどうします。そうして傷口きずぐち血小板けっしょうばん集まっあつ  てきたところが、のりのようになった状態じょうたいなのです。∵
5. ここからかさぶたができるにはもう一つべつ物質ぶっしつの力を借りか ねばなりません。その物質ぶっしつとは、やはり血液けつえき中に存在そんざいするフィブリンというタンパク質    しつ一種いっしゅです。このフィブリンが糸のようになり絡み合っから あ てできたネットが傷口きずぐち補強ほきょうします。こうしてかさぶたが完成かんせいするのです。すばらしい連係れんけいプレーと言えそうです。 
6. さて、傷口きずぐち補強ほきょうしてくれるフィブリンですが、このような糸状いとじょうのものが血液けつえきの中に流れなが ていたら、血液けつえきはうまく流れるなが  ことができず、つまってしまいます。そこで、フィブリンはがいのないべつな形に姿すがた変えか て出番を待っま ています。フィブリンのもとになるものは、血液けつえきの中では一つずつばらばらになって静かしず 流れなが ています。緊急きんきゅう事態じたい発生はっせいすると、これがいくつもつながって糸状いとじょうのフィブリンに変身へんしんするのです。

7. 言葉ことばの森長文ちょうぶん作成さくせい委員いいん会(ω)