1.
包丁で
指を切ってしまったり、
転んでひざをすりむいたり、そんな
怪我をした
経験はだれにでもあるでしょう。そんなとき
傷口から
血が出てきます。ひどい
怪我の場合は
血が
流れ出ることもあります。
痛いのはもちろんのこと、
普段はあまり見ることのない赤い
血がにじみ出てくるのですから、しばらくは
大騒ぎしてしまうかもしれません。その
騒ぎがおさまり、心も
平静を
取り戻す頃、
傷口ににじんでいた
血は、
糊のように
固まってきているはずです。やがて少しずつ
乾いて
固くなり、かさぶたになるのです。
2.
血、つまり
血液にはたくさんの
働きがあります。
傷口から出てきた
血液が
固まるのは、
血小板という
物質が
働いてくれるためです。
血液はいくつかの
成分が合わさって形作られていますが、
血液の中で
血小板が
占める割合は
約五パーセントにすぎません。ふだん
静かな
血小板は、
怪我をしたときにだけ、まるで
決勝戦のように大
活躍するのです。
3. では、けがをしたときに
血小板はどのように
働いて
血を止めるのでしょうか。
血管のどこにも
傷がなく、
止血の
必要がないときの
血小板の形は、丸くて
平たく、まるでおはじきのようです。そのおはじきは
血液の
流れとともに、体中をめぐっています。町中を
巡回するおまわりさんといったところでしょうか。∵
4. ところが、
血管に
傷口ができるという
緊急事態が
発生すると、
巡回中の
血小板たちはあっというまに
現場に
集まってきます。そのときは、おはじきだった体を
金平糖のように
変化させます。この
変身は「
血小板の
活性化」と
呼ばれています。
平たかった体はボールのような
球状に
変わり、おまけに何本もの手足が
飛び出してきます。この手足は
偽足と
呼ばれますが、「にせのあし」と書かれたその字のごとく、まるで足のような
働きをします。
緊急時の
血小板は、この
偽足をじょうずに
操って
血管の中をすばやく
移動します。そうして
傷口に
血小板が
集まってきたところが、
糊のようになった
状態なのです。∵
5. ここからかさぶたができるにはもう一つ
別な
物質の力を
借りねばなりません。その
物質とは、やはり
血液中に
存在するフィブリンという
タンパク質の
一種です。このフィブリンが糸のようになり
絡み合ってできたネットが
傷口を
補強します。こうしてかさぶたが
完成するのです。すばらしい
連係プレーと言えそうです。
6. さて、
傷口を
補強してくれるフィブリンですが、このような
糸状のものが
血液の中に
流れていたら、
血液はうまく
流れることができず、つまってしまいます。そこで、フィブリンは
害のない
別な形に
姿を
変えて出番を
待っています。フィブリンのもとになるものは、
血液の中では一つずつばらばらになって
静かに
流れています。
緊急事態が
発生すると、これがいくつもつながって
糸状のフィブリンに
変身するのです。
7.
言葉の森
長文作成委員会(ω)