長文集  10月3週  ○包丁で指を  0u-10-3
    毎日1ページ音読しましょう。漢字はふりがなをつけずに読めるようにしておきましょう。  2021/09/14 07:27:55
 包丁で指を切ってしまったり
、転んでひざをすりむいたり、
そんな怪我をした経験はだれに
でもあるでしょう。そんなとき
傷口から血が出てきます。ひど
い怪我の場合は血が流れ出るこ
ともあります。痛いのはもちろ
んのこと、普段はあまり見るこ
とのない赤い血がにじみ出てく
るのですから、しばらくは大騒
ぎしてしまうかもしれません。
その騒ぎがおさまり、心も平静
を取り戻す頃、傷口ににじんで
いた血は、糊のように固まって
きているはずです。やがて少し
ずつ乾いて固くなり、かさぶた
になるのです。 
 血、つまり血液にはたくさん
の働きがあります。傷口から出
てきた血液が固まるのは、血小
板という物質が働いてくれるた
めです。血液はいくつかの成分
が合わさって形作られています
が、血液の中で血小板が占める
割合は約五パーセントにすぎま
せん。ふだん静かな血小板は、
怪我をしたときにだけ、まるで
決勝戦のように大活躍するので
す。
 では、けがをしたときに血小
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
16
17
18
19
20
21
22
23
24
25
26
27
28
29
30
板はどのように働いて血を止め
るのでしょうか。血管のどこに
も傷がなく、止血の必要がない
ときの血小板の形は、丸くて平
たく、まるでおはじきのようで
す。そのおはじきは血液の流れ
とともに、体中をめぐっていま
す。町中を巡回するおまわりさ
んといったところでしょうか。

 ところが、血管に傷口ができ
るという緊急事態が発生すると
、巡回中の血小板たちはあっと
いうまに現場に集まってきます
。そのときは、おはじきだった
体を金平糖のように変化させま
す。この変身は「血小板の活性
化」と呼ばれています。平たか
った体はボールのような球状に
変わり、おまけに何本もの手足
が飛び出してきます。この手足
は偽足と呼ばれますが、「にせ
のあし」と書かれたその字のご
とく、まるで足のような働きを
します。緊急時の血小板は、こ
の偽足をじょうずに操って血管
の中をすばやく移動します。そ
うして傷口に血小板が集まって
きたところが、糊のようになっ
た状態なので す。∵
 ここからかさぶたができるに
はもう一つ別な物質の力を借り
ねばなりません。その物質と 
は、やはり血液中に存在するフ
ィブリンというタンパク質の一
種です。このフィブリンが糸の
ようになり絡み合ってできたネ
ットが傷口を補強します。こう
してかさぶたが完成するので 
す。すばらしい連係プレーと言
えそうです。 
 さて、傷口を補強してくれる
フィブリンですが、このような
糸状のものが血液の中に流れて
いたら、血液はうまく流れるこ
とができず、つまってしまいま
す。そこで、フィブリンは害の
ない別な形に姿を変えて出番を
待っています。フィブリンのも
とになるものは、血液の中では
一つずつばらばらになって静か
に流れていま す。緊急事態が
発生すると、これがいくつもつ
ながって糸状のフィブリンに変
身するのです。

 言葉の森長文(ちょうぶん)
作成委員会( ω)