0ウツギ の山 10 月 1 週 (5)
○海のカメレオン、タコ   池新  
 「人魚姫」に登場する魔女や、海賊映画に出てくる海の魔物は、なぜかタコの姿をしています。外国では、「人喰い○○(まるまる)」といえば、サメではなくタコを思い浮かべる人もたくさんいます。日本人のように、タコはこっけいでしかもおいしい、と考えるのはどちらかといえば少数派なのです。
 長らく怪物扱いされてきたタコですが、最近の研究によると、この生き物は、実はとても賢いということが分かってきました。
 タコは、無脊椎動物の中ではきわめて高度に発達した脳を持っています。ある科学者は、蓋のついたびんに好物のえさを入れ、タコに与えてみました。するとどうでしょう。タコは試行錯誤の末見事に蓋を回してえさにありついたのです。また、ある水族館での話では、一匹(いっぴき)のタコは夜な夜な排水管を伝って隣の水槽に忍び込み、魚を食べていたということです。この動物は、経験からいろいろなことを学習していくのです。
 タコの数ある特技のうちでも特に珍しいのは、その独特の変身術です。あまり見事に変身するので、海に慣れたダイバーたちでさえ、タコのすぐそばを泳いでいながらその存在に全く気づかないことがあります。このため、タコは、「海のカメレオン」とも呼ばれています。
 この芸当を可能にするのは、その特殊な皮膚の作りです。タコの皮膚には、色素を持つ細胞が二百万個ほどもあります。一平方ミリメートルあたり約二百個という数です。そして、それぞれの細胞には赤か黄か黒の色素が含まれています。タコは、その細胞を取り巻いている筋肉を縮めたり緩めたりして、無地になったり模様入りになったりと、またたく間(ま)に変身します。タコは皮膚の質感を変化させることもできます。岩にへばりつき、皮膚をそのごつごつした岩肌に似せて、完全に岩になりきるのです。∵
 最近発見されたミミックオクトパスというタコは、さらにうわてです。形や動き方まですっかりまねて、ほかの生物そのものに化けてしまうのです。そのレパートリーは幅広く、ヒラメ、ウミヘビ、エビなど何にでも変身してしまいます。ヒラメに化けたタコに、仲間と勘違いした本物のヒラメがついてくることもあります。これでは天敵もすっかりだまされてしまうでしょう。この賢い「海のカメレオン」は、まさにアカデミー賞ものの名優なのです。

「タコさん、人間にも化けることができるんですか。」
「さあ、それはやっタコとないなあ。」
「近所のおじさんが、そうみたいなんですけど。」
「わあい、言っちゃおう。」

 言葉の森長文(ちょうぶん)作成委員会(Μ)