長文 10.1週
1. 【1】コンピュータは、あることを
覚えさせれば
一度で
間違いなく
記憶します。しかし、
生き物はそうではありません。
2. 【2】
記憶の
実験で、ネズミを、ブザーが
鳴ったときにレバーを
押すと
餌をもらえるような
仕組みの
箱に
入れておきます。【3】ネズミは、ブザーとレバーと
餌の
関係に
気がつくまで、
何十
回も
何百回も
試行錯誤を
繰り返します。そして、やがて、ブザーが
鳴ったときにレバーを
押せばよいのだということを
記憶します。【4】
正しいやり方を
覚えるまでに、
間違った
やり方を
何回も
繰り返して
失敗することが
必要なのです。
3.
生き物のこの
記憶の
仕方は、
実は生きるために
役立っています。【5】もし、ブザーとレバーの
関係を
記憶した
人間が、ブザーのかわりにサイレンが
鳴り、レバーのかわりにボタンが
置いてあるような
場所に
置かれたとすると、
人間はブザーとレバーの
関係から
類推して、サイレンとボタンの
関係にやがてすぐに
気がつくでしょう。【6】しかし、
機械は、いつまでたってもブザーとレバーの
関係から
新しい考えに
移ることができません。
4. 【7】
生き物は、
高等になるほど
曖昧な
記憶の
仕方ができるようになります。
私たちは、ある
人が
別の
服を
着て
現れても、それが
同じ人だということがわかります。【8】もし
記憶が、
機械のように
正確なものであったなら、
違う服を
着ている
人は
違う人だと
思ってしまうでしょう。【9】そのような
記憶では、
生き物は
変化の
激しい世界の
中で
生き続けることができなかったはずです。
数多くの
失敗を通して覚えるところに、
生き物の
記憶の
秘密があるのです。【0】
5.
言葉の
森長文作成委員会 Σ
長文 10.2週
1. ヘレンは一
歳半のころ、
重い病気で、
目が
見えなくなり、
耳も
聞こえなくなりました。
声を
出すことはできましたが、
他の
人の
話が
聞こえないため、
正しく話すこともできませんでした。そのために、
人に
思っていることをうまく
伝えられずに、
毎日癇癪をおこしてはあばれ、まるで
動物のように
手づかみでものを
食べるというような
生活ぶりでした。
家族の
人たちは、いったいこの
子は
将来どうなってしまうのだろうと、
胸がつぶれる
思いでした。
2. ぽかぽかとおひさまがほほえむ
四月のはじめ、
運命の
日がやってきました。サリバン
先生は、
庭の
井戸から
水をくみ、ヘレンの
手をとって、そのつめたい
水をかけました。
3. ヘレンはおどろいて
手をひっこめました。その
手をまたとって、サリバン
先生は
水をかけました。
何度かそうするうちに、ヘレンは
気持ちよさそうに、
手をのばしたままにしました。そこで
先生は、ヘレンの
手のひらに
指でこう
書きました。
4. 「
w a t e r」
5. ウォーター、そう、
水のことです。ヘレンは
不思議そうな
顔をしています。そこで、サリバン
先生は
もう一度、その
手に
水をかけました。そして、すぐにまた、「water」と
書きました。ヘレンは、
考えているようすです。さらに
先生が、ヘレンの
手に
水をかけたところ、ヘレンがうなずいたのです。すかさず、
先生は「water」と
書きました。すると、へレンが、
先生の
手を
探りあて、
同じように
何かをその
手に
書こうとしました。
6. 「わかってくれたのね」サリバン
先生は、
胸の
高鳴りをおさえつつ、ヘレンの
手をとり
自分の
顔に
持って
行き、ほおをなぞらせたあと、くちびるにあてがいました。それから、ゆっくりとそしてはっきり、
発音しました。
7.「ウ、ォーター」
8.
もう一度、
言いました。∵
9.「ウォーター」
10.すると、ヘレンもまねをするようにくちびるを
少しうごかしました。
息とも
声ともつかないかすかな
音がヘレンの
口から
出ました。
11. この
日のことをサリバン
先生は
一生忘れなかったでしょう。
目が
見えず
耳も
聞こえず、
口もきけなかったヘレンが、
生まれてはじめて
言葉にふれた
瞬間です。ヘレンは、
服をびしょぬれにしながら、
何度も
水にさわり、
先生の
手をとって、
文字らしきものをその
手に
書き、くちびるを
動かしました。サリバン
先生も、よろこびの
涙と
水でぐしゃぐしゃになりながら、「ウォーター」「ウォーター」と
繰り返すのでした。
12.
言葉の
森長文作成委員会(φ)
長文 10.3週
1. 今、
地球上には、百五十万
種類を
超える生物がいます。そのうちの八十万
種類が
昆虫で、四十万
種類が
動物で、
残りの三十万
種類が
植物です。もし、
世界が十
種類の
生物の村だったら、五
種類が
昆虫で、三
種類が
動物で、
残りの二
種類が
植物ということになります。
昆虫の
種類がずいぶん多いということがわかります。もしかすると、
昆虫がこの
地球でいちばん元気よく
暮らしていると言えるのかもしれません。そう言えば、ゴキブリなどは、元気のかたまりのようです。
2.
生物は、
約三十
億年前に
原始的な
生物から
進化してきました。
進化の
過程で
絶滅した
生物も
含めると、今の
生物の
種類の百
倍、一
億五千万
種類もの
生物がいたと
推定されています。
3. どの
生物も自分が生きるのに
都合のよい形をしています。
例えば、キリンは首が長いので、遠くにいる
敵を見つけたり、高い木の
枝の
葉を食べたりすることができます。ゾウは
鼻が長いので、自分の
鼻をホースがわりにしたり、
鼻を手のように
使ったりすることができます。三グラムしかないジネズミは、自分の小ささをうまく生かして生きています。
逆に百三十トンもあるクジラも、自分の大きさをうまく生かしていきています。このジネズミとクジラがシーソーをしたとすると、つりあいを
取るためには、一頭のクジラの
反対側に、四千万
匹以上ものジネズミがぶらさがらなければなりません。これぐらい
違いのある
生物がそれぞれ、自分の
長所を上手に生かして生きているのです。
4. このように多くの
種類の
生物がいる
理由を、
昔は、
神様が作ったからだと考えていました。しかし、いくら
神様でも、百五十万
種類もの
生物を作るのは
大変です。それでも、
昔の人は、
神様ならそういう
神業ができると考えていたのです。
5. 十八
世紀に、ゾウの
化石を
研究した
学者が、
生物の中には
既に絶滅したものがあるということを
発見しました。ラマルクは、この∵考えを
発展させて、
生物の
種が
変化するという
説を
述べました。
例えば、キリンは、高いところに生えている
葉を食べるために、首を長く
伸ばしているうちに、今のようなキリンになったと言うのです。
6. しかし、この
説には
重大な弱点がありました。
確かに一頭のキリンの一生
に関して言えば、高いところの
葉を食べようとしているうちに、だんだんと首が長くなるということは言えるかもしれません。しかし、その首の長さがそのまま
子供に
受け継がれるかどうかということはわかりません。
7. みなさんのお父さんやお母さんが
子供のときにしっかり
勉強してくれたおかげで、あなたは生まれつき何でも知っていたということになれば、これほどいいことはありません。しかし、
実際には、あなたはあなたでまた
最初からお父さんやお母さんがしたのと同じ
勉強をしなければなりません。こういうことを見ると、親の
獲得した
能力がそのまま
子供に
受け継がれるということはないようです。
8. ラマルクの
説を
批判する
学者は、
次のような
実験をしました。まず、ネズミのしっぽを
短く切ってしまいます。ネズミにはかわいそうですが、しっぽだけなので
命には
別状がなかったというところが少しほっとするところです。このしっぽを切ったネズミから生まれたネズミのしっぽも、また
短く切ってしまいます。このようにして、何
代もしっぽを
短く切ったにもかかわらず、生まれる
子供はいつもしっぽの長いネズミでした。
9. しかし、この
実験は、ラマルクの
説を
批判するにはあまり
確かなものとは言えませんでした。なぜなら、ネズミは自分から
進んでしっぽを
短くしようとしたのではなく、
無理矢理しっぽを
短くさせられたからです。この
実験のために何
匹ものネズミのしっぽを切った
学者は今ごろ、「しっぽの
実験はしっぽい(
失敗)だったなあ」と思っているかもしれません。
10.
言葉の森
長文作成委員会(Σ)
長文 10.4週
1.
梅雨の
季節になるとよく
見かけるカタツムリ。まるでシャワーを
楽しむように
雨の
中をのんびりと
散歩しています。カタツムリは
虫ではありません。
海に
住む貝の
仲間なのです。
昔々、カタツムリは
水の
中に
住んでいました。ですから、
陸に
上がって
生活するようになった
今でも、
雨の
降る日が
大好きなのです。からっとさわやかに
晴れた
日や
暑い日は
大の
苦手です。しかし、
殻があるから、からからに
乾いてしまうことはありません。
暑い日は、
木の葉や
草の
陰に
隠れてじっとしています。
梅雨の
季節にあれだけよく
見かけることができたカタツムリが、
夏になるとすっかり
消えてしまうのはそのためです。カエルやヘビが
冬眠するように、カタツムリは
夏のあいだ、ひたすら
眠り続けます。そして
秋になり
雨が
多くなってくると、
眠りから
覚め、
活動を
開始するのです。
2.
動物や
昆虫にはオスとメスの
区別があります。けれども、カタツムリにはオスもメスもありません。一
匹のカタツムリがオスの
役目とメスの
役目をするのです。だから、どのカタツムリも
大人になると
卵を
生みます。一
回の
産卵でニ十
個から六十
個の
卵を
生みますが、一つの
卵を
生むのには十
分から二十
分もかかります。
卵からかえったカタツムリの
赤ちゃんは、
生まれたときから
殻があります。
3.
言葉の
森長文作成委員会(ω)
長文 11.1週
1. 【1】
都会で
見られるカラスは、ハシブトガラスとハシボソガラスの二
種類です。
名前のとおり、くちばしが
太く、「カアカア」と
澄んだ
声で
鳴くのがハシブトガラス、くちばしが
細く、「ガアガア」と
濁った
声で
鳴くのがハシボソガラスです。
2. 【2】カラスは、
高い木や
鉄塔などの
上に
巣を
作ります。
都会では、
針金のハンガーやビニール
袋などを
使って
巣作りをすることもあります。
3. カラスは
雑食性で、
果物、
昆虫、
小動物など、いろいろなものを
食べます。【3】
都会では、カラスがゴミをあさる
姿がよく
見られますが、カラスが
生ゴミの
中から
好んで
食べるのは、
油分の
多い唐揚げやポテトチップスなどです。
4. 【4】カラスは、
食べ物を
一度に全部食べてしまわずに、
余った
分を
木の
穴や
石の
下に
隠す習性があります。【5】このため、
何をどこに
隠したかを
記憶しておかねばならないので、カラスの
頭がよくなったのだと
言われています。
5. 【6】
人間からはあまり
好かれていないカラスですが、
雛のうちから
育てると、
人にもよくなつきます。【7】
巣から
落ちた
雛にミルクやドッグフードをやっているうちにすっかり
人になつき、
口を
開けて
餌を
待つようになったという
話もあります。
6. 【8】ゴミをあさって
散らかしたり、
人間を
襲ったりするのは
困りますが、カラスも
本当は人間に
嫌われたいわけではないのです。【9】
人間がカラスの
気持ちを
理解するところカラスタートすれば、カラスとうまく
共存できるかもしれません。【0】
7.
言葉の
森長文作成委員会 Λ
長文 11.2週
1.
藤原道長は五番目の子だったので、父の
位である
摂政や
関白を
継ぐことができるとはだれも思っていませんでした。しかし、
子供のころから
負けず嫌いで、気が強く、また
胆のすわったところのある道長は、のちに
強運も
手伝って、
事実上、
天皇以上の
権力を
持つ摂政・
関白の
位につき、
全盛をきわめました。そして、ほこらしげに「
この世をばわが
世とぞ思う
望月のかけたることもなしと思えば」(
この世は
私の
世だと思うよ。今日の
満月のように
欠けているところがないと思えば)という歌をよみました。
権力をほしいままにした道長は、
莫大な
財産を
持っていたので、それを生かし、
貴族の
文化、
平安文化をささえました。
漢詩や
和歌、
絵巻物、そしてかな文字による文学は、この
時代に大きく
発展しました。
紫式部の「
源氏物語」や
清少納言の「
枕草子」などもこの
時代の
作品です。
2. さて、
子供のころの道長はどんなふうだったのでしょう。兄たちとともに父の前に
呼ばれた時のことです。父
兼家は、できのよい
公任という自分のいとこの
息子を引き合いに出し、「お前たちは、
公任のかげもふめんぞ」と
叱咤激励しました。兄たちは、うなだれて聞いていましたが、道長だけは、「あいつの
影なんか、たのまれてもふむもんか。
私だったら、顔をふんづけてやる」と言ったそうです。なんという
負けん気の強い
性格でしょう。
3. また、道長は十七
歳の時、
仕えていた
天皇の
発案で
肝試しをしました。雨のふりしきる
真っ暗な夜、
怖い話を聞いた後、
天皇は、そこにいた三人にそれぞれ
違う場所に一人でいってくるように言いました。
他の二人はおそるおそる出かけたと思ったら、すぐに「ぶきみな声が聞こえた」とか「
怪物が出た」などと
叫びながら
舞い戻ってきました。道長はと言うと、
指示された
大極殿という
場所に一人で行き、
証拠として
柱の木を小刀でけずりとってきたのです。ま∵さか、一人で行けるまいと思った
天皇が
翌日調べさせてみると、
削り取った
木片はぴたりと
柱のえぐれた
部分に合いました。
天皇はその
勇気におどろきました。
4. このように、
積極的で
怖いもの知らずの道長は、人生を
前向きに生きるすべを
幼いころから知っていたかのようです。だからこそ、
強運を
呼び込むことができたのでしょう。父の後を
継いだ一番上の兄
道隆は、
関白になったものの
伝染病で
亡くなってしまいました。その兄の後を
継いだ
次の兄
道兼もまた同じ
伝染病で、
関白になってたった一週間で
命を
落としました。時の
天皇はそのあとの
関白を
決めるのに
迷っていました。すると、
天皇の母が、自分の弟でもある道長を強く
推薦しました。
5.
出世する道は長いと思っていた道長でしたが、三十
歳のころには
政府の
第一人者となっていました。「
望月」の歌は道長が五十三
歳のころに
詠んだものです。
6.
言葉の森
長文作成委員会(φ)
長文 11.3週
1.
魚の
顔にはえらがあります。
魚が水の中で
呼吸ができるのは、このえらのおかげです。
2.
人間は
肺を
使って
体の中に
酸素を
取り込みます。
息を
吸い込むときに
酸素を
取り入れ、
吐くときに
二酸化炭素を
捨てています。これを
肺呼吸と
呼びます。それ
に対して魚はえらを
使います。これをえら
呼吸と
呼びます。
3. 水の中にはたくさんの
酸素がとけていますが、目で見ることはできません。
砂場で
使うふるいがありますが、ふるいをえらだと
想像してみます。そして、石は
酸素、
砂粒は水です。
砂場の
砂をふるいにかけると、ふるいの上には石だけがのこって
砂粒はサラサラと
こぼれ落ちます。
魚は口から水を
飲み込み、えらから
吐き出していますが、えらというふるいで
酸素だけを
体の中に
取り込むのです。えらが
酸素を
選んでいるわけです。
4. しかし、えらが
取り込める酸素は、水の中にとけているものだけです。空気の中からは
取り込めません。ですから、
魚は水の
外では
呼吸ができません。
5. 水の中の
酸素が足りなくなると、
魚が
水面に出て口をぱくぱくさせることがあります。これは、空気を
吸っているのではなく、
水面近くの水に空気を
混ぜて
吸っているのです。
6.
人間も、
お母さんのお
腹の
中にいる一
ヶ月目のころにエラのようなものがあります。これは、
昔、
人間が水の中にいる
生物だったころの
名残りだと
言われています。
7.
言葉の森
長文作成委員会(ω)
長文 11.4週
1.
清作は一
歳半の時に、いろりに
落ちて、左手に大やけどを
負いました。
悲鳴を聞いて、外で
野良仕事をしていた母シカが
驚いてかけつけた時には、
清作の手は、やけどで
開くことができなくなっていました。一八七七年、
福島県の
猪苗代湖のそばにある小さな村でのできごとです。
2. 当時の
医療では、やけどでくっついた
指をもとの通りに
戻す手術は
不可能でした。何
軒も
医者をたずね、遠い町の
医者に、
3.「
残念だが、この子の手はなおらん」
4.と言われた時、シカは声をあげて
泣きました。
5. まだ
幼い友達は、
清作の手を見てからかいました。
清作はものをつかむことも、
自由に
動かすこともできない左手をくやしがって、一人
泣くこともありました。しかし、学校にあがってからは、たいへん
熱心に
勉強し、だれにも
負けない
成績をおさめたのです。
6. 父親が
大酒飲みで働かないため、たいへん
貧しかった
清作のうちでは、どんなに
優秀でも上の学校へ
進学させる
余裕がありませんでした。
子供の
清作にとっては、母のシカしか
頼る人がいなかったのです。しかし、ちょうど
清作のいる小学校に
巡回に来ていた小林先生が、
清作の
勉強に対する熱意を知り、
清作の
進学を
助けてくれたのです。
7. また、先生はアメリカ帰りの高い
技術を
持つ医師に
紹介状を書いてくれました。
大変お金のかかる
手術が
必要でしたが、先生や学校の
友達がお金を出し合ってくれて、
清作は
手術を
受けることができました。ついに、
指が一本一本
離れ、ものをにぎれるようになったのです。
8.
清作は、直してくれた
医師や
恩人の小林先生らに
感謝しながら、心に
誓ったことがありました。
9. 「一生
治らないと思っていた左手が、
医学の力で
治った。
私も
将来医者になって、自分のように
苦しむ人々を
助けたい。それが∵
私の
恩返しだ」
10. この
清作少年こそが、のちの野口
英世です。その
献身的な
研究ぶりは、まさに
寝る間も
惜しむほどだったそうです。
留学先のアメリカでは、「日本人はいつ
眠るのだ」と
他国の
学者を
驚かせるほどの
猛勉強をし、その
生涯を
医学の
研究にささげたのです。
11.
言葉の森
長文作成委員会(φ)
長文 12.1週
1. 【1】
記憶には、さまざまな
種類があります。トランプの「
神経衰弱」の
記憶にあたるものは「
短期記憶」です。これは
必要のある
短い間だけ
覚えているものです。【2】そのときにだけ
必要な
記憶をいつまでも
覚えていると、
頭の中が
余分な
記憶でいっぱいになってしまいます。
役目が
終わったらすぐに
忘れていけるのが、この
記憶の
特徴です。
2. 【3】「
手続き記憶」と
呼ばれるものは、からだで
覚えるといった
種類の
記憶です。
練習して
乗れるようになった
自転車には、
何年たっても
心配なく
乗れます。【4】
水泳やスキーなどもからだが
覚えているので、
言葉で
説明できなくても
自然とからだが
動いていくものです。
3.
言葉の
意味や
数字の
関係など、ふだん
机で
勉強するものは「
意味記憶」です。【5】また
自分だけの
時間や
場所によって
作られる、つまり
思い出にあたるものは、「エピソード
記憶」です。
4.
更に「プライミング
記憶」というのもあります。これは
自分でも
知らない
間に
覚えている
記憶のことです。【6】たとえば、「シカを十
回言って」と
言い、
相手が「シカ、シカ、シカ、……」
言い終わったあとに、「サンタクロースが
乗っていたものは」と
聞くと、つい「トナカイ」と
答えてしまうようなものです。【7】
答えはソリなのですが、シカという
言葉が気がつかないうちに
記憶に
残っているので、シカに
似たトナカイと
答えてしまうのです。
5. 【8】
人間は
単純な
生物から
進化してきましたが、
記憶の中で
進化の
最も早いころからあったものは
手続き記憶です。そのあと、
意味記憶や
短期記憶が生まれ、
最後に
作られた
記憶がエピソード
記憶です。【9】ただ、エピソード
記憶の
仕組みができあがるのは、三、四
歳ころです。ですから、一
歳のお
誕生日に
初めて歩いて、みんなに手をたたかれたというようなエピソードは、
記憶としては
残っていないのです。【0】
言葉の森
長文
作成委員会 α
長文 12.2週
1.
夜の
道を
歩いていると、
何かが
黙ってついてきます。あなたが
止まると、それも
止まります。あなたが
歩きはじめると、またどこまでもついてきます。
2. もちろん、キツネや
お化けなどではありません。
夜空に
明るく輝くもの、それはお
月さまです。
3.
月がついてくるのは、
電車に
乗っていても
同じです。
電車の
窓から
見ると、
家や
電信柱は、どんどん
後ろへ
飛び去っていきます。
遠くに
見える山も、
近くの
家々ほどではありませんが、
少しずつ
後ろの
方へ
動いていくように
見えます。しかし、
空に
浮かぶ月は
山を
越え、
町を
越え、
電車の
中のあなたについてくるように
見えます。
4.
家、
電信柱、
山、
月。これらを
比べて
違うのは、
電車からの
距離です。つまり、
遠くのものほど、
動かないように
見えるのです。
5.
月は、わたしたちの
地球を三十
個ぐらい
並べたほど
先にある
空のかなたに
浮かんでいます。ですから、
地球の
上を
少々移動したくらいでは、
月の
位置は
変わらないように
見えるのです。
6. もちろん、
月よりもっと
遠くの
太陽でも、
同じことが
言えます。あなたがどんなに
動いても
太陽はついてきます。しかし、
太陽はまぶしすぎて、あまり
見上げることはありません。やはり、
夜、
明るい月が
一緒についてくるところにこそ、
不思議さがあるのでしょう。
7.
地球は
月の四
倍の
大きさです。したがって、もし、
月の
上を
歩きながら
地球を
見ると、
月よりも四
倍大きい、
青く美しい地球がついてきます。
月と
地球のツキあいは、
遠くても
深いものなのです。
8.「ねえ、どうしてついてくるの?」
9.「だって、ツキだから。」
10.「では、もし
太陽だったら?」
11.「やっぱり、
ついて行きタイヨウ。」
12.「
甘えん坊なんだね。」∵
13.
言葉の
森長文作成委員会(α)
長文 12.3週
1.
山んばのにしき3
2. 【1】そこで、いろりの
火をどんどんもやし、でっかいなべにくまの
すまし汁こさえ、もちいれて
食った。まず、そのうまいこと、ばんばは、
腹いっぱいになったと。
3.【2】「やれ、ごちそうだったこと。そんではおら、これで
村へかえらしてもらうから。」
4. ばんばがそういうと、
山んばは、
5.「なに、そんなにいそぐことはねえ。ここにはてつだいもいねし、二十一
日ほどてつだっていってくれや。」
6.といった。
7. 【3】しかたなくあきらめて、あかざばんばは、
水くんだり、
山んばの
足もんだり、きょう
食われるか、あすこそ
食われるかとおもいながら、はやいもので二十一
日たってしまった。
8. 【4】そこで、ばんばはおそるおそる、
9.「
家でもしんぱいしてるべから、かえりたいども。」
10.というと、
11.「なんとやっかいかけたな。
家のつごうもあるべから、かえってくれ。なんの
礼もできんが、にしきを一ぴきくれてやる。【5】これは、なんぼつかっても、つぎの
日には、またもとどおりになっている、ふしぎなにしきだ。
村の
人たちには、なんにもねえどもだれもかぜひとつひかねよに、まめでくらすよに、おれのほうで
気をつけてやるでえ。」
12.【6】
山んばは、そういうと、がらに、
13.「がら、がら、ばんばをおぶっていってやれ。」
14.といいつけた。
15.「なに、おら、あるいてかえるから。とんでもねえ、おぶさるなんて。」
16. 【7】ばんばは、あわてて
手をふったが、がらはすっとんできて、ばんばを、ひょいとせなかへのせ、
17.「
目え、ふさいでれ。」
18.といったかとおもうと、
耳のあたりにすうすう
風がふいていく。∵【8】とんと、
地面におろされて、
目をあけてみれば、そこはなんと、ばんばの
家のまえであった。
19.「がら、がら、よってやすんでいけ。」
20.といったときには、もう、がらのすがたはなかった。
21. 【9】ばんばが
家の
中へはいろうとすると、
22. なんまんだあ なんまんだあ
23. なんまんだあ なんまんだあ
24.と、お
経をあげる
声がする。それにまじって、おうえ、おうえ
泣く声もして、どうやら、だれかが
死んだようだ。【0】ばんばはたまげて、
25.「だれか
死んだかやえ。」
26.とはいっていった。すると、
27.「ひえ、ゆうれいだ。たましいがかえってきたど。」
28.と、あつまっていた
村じゅうのもんが、
目えむいたり、ひっくりかえったり、でかさわぎになった。
29.「ゆうれいなものか。おらだ、あかざばんばがいまもどったど。」
30.「ほんとか、ほんとにばんばは、
生きているだか。」
31.
村の
衆は、
泣いてよろこんだと。
32. そこで、ばんばは、
33.「さあさあ、
山んばのにしきをやるべ。」
34.と、
村じゅうに
山んばのにしきを、きってはわけ、きってはわけ、じぶんの
手もとには、ほんのすこししかのこさなかったと。しかし、つぎの
日になってみると、ばんばの
手にのこったにしきは、もとどおりになっていたそうな。
35.
村の
人たちは、みたこともないにしきを、ふくろにしてさげたり、はんてんにしたり、おおよろこびで
家の
宝にしたと。
36. そして、それからというもの、
村の
人たちは、かぜもひかず、みんな、らくにくらしたということだ。
37. とっぴんぱらりのぷう
38.
39.「
日本の
むかし話1(
松谷みよ子)
講談社青い
鳥文庫」
長文 12.4週
1.
暑かった
夏も
終わりに
近づき、
涼しい風が
吹き始めるころ、
夜になると
虫たちの
声が
聞こえてきます。そんな
虫たちの
鳴き声は、
秋の
到来を
知らせてくれます。
2.
生まれつき日本語を
使っている
人は、
自然の
音を
左脳で
聞きます。
左脳は
言葉を
理解する
脳ですから、
虫の
音も
声のように
聴こえます。これ
に対して、
英語など
欧米の
言葉を
使っている
人は、
自然の
音を
右脳で
聞きます。
右脳は
音楽を
感じる脳ですから、
虫の
音は
雑音にしか
聴こえないそうです。
3. コオロギ、キリギリス、スズムシ、マツムシ、ウマオイ、カンタン、クツワムシなど、
秋に
鳴く虫にはいろいろな
種類がいますが、
大きく分けるとコオロギ
類とキリギリス
類に
分けられます。
上から
見て、
右羽を
上にして
鳴くのがコオロギ
類、
左羽を
上にして
鳴くのがキリギリス
類です。「
右」という
漢字の
左半分を
消すとコオロギの「コ」という
字に、「
左」という
字の
左半分を
消して、たての
棒を
少し伸ばすとキリギリスの「キ」という
字になります。これが
覚え方です。
4. コオロギ
類には、コオロギ
科やカネタタキ
科の
虫がいます。キリギリス
類には、クサキリ、クツワムシ、ウマオイなど、たくさんの
虫がいます。どちらの
種類も、
鳴き羽を
持っているのはオスだけです。なぜなら、
虫が
鳴くのはメスを
呼ぶためだからです。また、
自分の
縄張りを
他のオスに
知らせるために
鳴くこともあります。
5. コオロギは、「コロコロ」と
鳴いたり、「リーンリーン」と
鳴いたりします。スズムシは、その
名のとおり
鈴のように、「リンリン」と
鳴きます。「ガチャガチャ」とうるさく
鳴くのはクツワムシ。まるでスイッチがオンになったように「スイッチョン」と
鳴き始めるのはウマオイ。「リーリーリーリー」と
簡単な
鳴き方をするのはカンタンです。いろいろな
音色を
楽しむことができる
秋の
夜の
草原は、まさに
地球のコンサート
会場です。
6.
言葉の
森長文作成委員会(Λ)